湖畔で風を感じながら一息入れる時間も大切(写真提供:石川奈津子さん)

私が住む湖西(琵琶湖の西)は、平地が少なく、背後はすぐに比良の山々(南は比叡山に続く)が迫っています。

森に入りたくて、登山靴を買って、トレッキングも始めました。もちろん初めてです。登山が得意な夫が付き添ってくれます。夫は樹木に詳しいので。名前や特徴を教えてくれます。手でふれると、樹木によって温度が違うんですよね。石もそうです。岩を伝いながら、滝を見に行ったこともあります。滝壺に足をつけて、これが本当の森林浴。そうそう、鹿の、コロコロした糞も素手で触れるようになりました。

私は、進行性の感音難聴で、琵琶湖畔に移り住んだときは、ほとんど聴力を失っていました。その代わりに、嗅覚、視覚、触覚は、若いころより敏感になったように思います。森林の匂い、気配、色彩、湿度。

失ったものを脳は補おうとする。

なくすことで増えるものがある。

音楽を聴くことはできなくなったけれど、それらに代わるものを、私は手にしたのです。