初の長編作品『52ヘルツのクジラたち』で2021年「本屋大賞」を受賞した町田そのこさん。デビュー前は、夜泣きするわが子をあやしつつ、ガラケーを使って片手で小説を書いた日々もあったという。現在も福岡で、子育てをしながら執筆活動を続ける町田さんに、作家を目指したきっかけについて聞きました。(構成=内山靖子 撮影=本社写真部)

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子育てをしながら書いた初の長編で受賞

2017年に作家デビューして、初めて書いた長編が『52ヘルツのクジラたち』です。この作品が本屋大賞にノミネートされた時点で、「もう、死んでもいい!」と思ったくらいだったので(笑)、大賞を受賞したと聞いたときは嬉しさを通り越し、あまりのプレッシャーで胃が痛くなるほどでした。

福岡県の片隅で子どもたちを育てながら小説を書き続け、37歳のときに作家としての入口に立ったばかりの私が、こんなに大きな賞をいただくなんて……。日頃は、田んぼに囲まれた地方都市で、家事をしながらちまちまと執筆しています。

今回受賞したことは正式に発表されるまで子どもたちには内緒にしていて、特にお祝いパーティなどもしなかったので、正直な話、自分が受賞したという実感もあまり湧かず……。東京で行われた授賞式に出席し、みなさんに「おめでとう!」と言っていただいて、ようやく少しずつ喜びが湧いてきたというところです。

受賞作の主人公は、家族に愛されずに育った女性・貴瑚(きこ)と、母親に虐待されて育った子ども。R‐18文学賞を受賞し、作家デビューのきっかけとなった「カメルーンの青い魚」も、親の愛を知らない男女が主人公。

自分では意識していなかったのですが、マイノリティの立場に置かれた人間を主人公に据えてしまうのは、小学校高学年のときに私自身がいじめられた経験があったからかもしれません。自分が弱者の立場に置かれたことで、自然と弱者の気持ちに寄り添う物語を書いてしまうのだと思います。

当時の私はものすごくブサイクで、いわゆる小デブ。ボサボサ眉毛で眼鏡をかけて、髪の毛もベリーショートだったので、スカートをはいていても「男の子?」と言われるような子でした。運動も苦手で赤面症。人前で上手く喋れずどんくさかったせいで、いじめやすかったのでしょう。クラスの子たちからバイ菌扱いされたこともありました。

そのときの記憶が大人になった今でも残っていて、デビュー作から一貫して、読後に「明日も頑張ろう」と思ってもらえる小説を書きたいと思ってきました。この『52ヘルツのクジラたち』もそう。読んでくれた方が、クラスの中でポツンと1人で寂しそうにしている子に「明日は声をかけてみよう」と思えるような、背中を押せる力になればと思ってこの物語を書きました。そんな作品が、多くの方に共感していただけたのは本当にありがたいことだと思っています。