今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『ミカンの味』(チョ・ナムジュ著、矢島暁子訳/朝日新聞出版)。評者は編集者で文芸評論家の仲俣暁生さんです。

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思春期の少女の繊細な心を残酷なほどリアルに

現代の韓国では子女に対する教育熱がすさまじいと聞く。でも、具体的にどのように子どもたちが受験の仕組みに巻き込まれているのかは、この本を読むまで私もよく知らなかった。

ソウル郊外の京畿道、シニョンジンという地域の公立中学に通う4人の少女(ソラン、ダユン、ヘイン、ウンジ)を主人公とするこの小説は、受験や進学に対する韓国社会の過剰なまでの心理的圧力と、そのなかでしたたかに生きる若い世代のリアリティを描く。

4人は中学の映画部で出会い、文化祭を通じて仲良くなった。ソウル市内から転居してきたウンジは、前の学校で陰湿ないじめを受けた。ヘインは父親が事業に失敗し、住んでいた家を失った。優等生のダユンは、どのボーイフレンドとの付き合いも長続きせずにいる。ごく平凡なソランも、幼馴染みとのつらい別れを経験した。そんな4人は中2のとき、済州島への旅のなかで、ある誓いを立てる。だがこの誓いは各人にとって、どこまで本気だったのか。

その後、ダユンは超エリート校への進学を教師に勧められるが、病気の妹の急変を告げる偽メールで面接を断念する。伯母の家から地域外の女子高へ進学するはずだったヘインも、密告にその道を阻まれる。誰がこんなことをしたのか。物語はその謎をめぐり展開していく。

『82年生まれ、キム・ジヨン』の成功で韓国フェミニズム文学の旗手となった著者は、本作にもこの主題を忍ばせている。でも基本的には10代の読者、つまりヤングアダルトに向けて書かれた作品だろう。親しい友だちにも家族にも、胸の内をあかせない思春期の少女の繊細な心の動きが、ときに残酷なほどリアルに描かれる。根本にあるのは、矛盾を孕んだ人間という存在の肯定だ。それゆえに若い読者だけでなく、大人の胸にも深く突き刺さるのである。