いつも視聴者を楽しませてくれる生粋のエンターテイナー、井上順さん。2020年から始めた、ダジャレや遊び心いっぱいのツイッターも人気を博し、現在フォロワー4.6万人(9月14日現在)。放送中のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』でも、飄々とした社長役が話題です。明るく朗らかな井上さんだが、74年の人生の間に、凹んでしまった経験もあるそうで――(構成=丸山あかね 撮影=本社写真部)

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タダでいい気持ちにしてもらって「サンキュー」

朝、目覚めると「サンキュー」と言うんです。だって、この年齢になってくると、目覚めるってこと自体が当たり前じゃないからね(笑)。そしてバッとカーテンを開けて晴れていたら、おひさまにも「サンキュー」。暖かいじゃないですか。なのにタダ。タダでこんなにいい気持ちにしてもらってありがたいと、いつも思っています。

僕の毎日の目標は、うれしい楽しいをいくつ見つけるかってことなの。外を見て、大きなランドセルを背負っている小学生の低学年を見るだけで、ああかわいいなと笑っちゃうわけです。

こんな楽天家の僕も少し落ち込んだ時期があります。50歳を過ぎたころ、映画を見ていても、舞台を見ていても「みんな元気ないなあ」と感じるようになった。当時出演していた『渡る世間は鬼ばかり』の台本読みをしていても、ほかの出演者がぼそぼそしゃべっているように聞こえてね。「ピン子ちゃん、もうちょっと元気な声出せよ。若いんだから」と言ったらみんな不思議な顔して僕を見るわけ。周りはちゃんと聞こえていたんです。

「順ちゃん、一度病院行ったほうがいいよ」と言われて診察してもらったら、感音性難聴だった。もう治らないと聞いて、こんなに明るい人間がさすがに凹みましたね。というのも、人が好きな人間だったのに、話すのがおっくうになっちゃった。「え? なんですか?」と聞き返すのが嫌でね。やっぱり相手に失礼だと思っちゃって、どうしても一歩引くようになってしまった。

このままじゃ自分を失っちゃう、と思って、自分から「すいません、耳が悪いんです」と言うようにしたんですね。すると、すごく気持ちが楽になった。それからはドラマなどの仕事も「僕は難聴なんですけど、いいですか?」とお尋ねして、OKを取ってから受けることにしています。今出演している朝ドラ『おかえりモネ』の安西和将役もそうです。