今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『やさしい猫』(著◎中島京子/中央公論新社)。評者は詩人でエッセイストの白石公子さんです。

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登場人物それぞれが「やさしい猫」になっていく

中島京子初の新聞小説、待望の書籍化。日本の入管制度の闇、外国人労働者への差別を浮き彫りにした社会派の家族小説である。入管問題と聞くと、この3月、名古屋の入管施設でスリランカ人女性が亡くなった事件が真っ先に想起されるだろう。まるで事件を予告するようなテーマは連載中から話題騒然だったという。

「きみに、話してあげたいことがある」と始める語り手は高校生のマヤ。シングルマザーとして奮闘してきた母親のミユキさんが、スリランカ人のクマさんと恋に落ち、再婚を決める。クマさんからスリランカ民話「やさしい猫」の話を聞いたのはマヤが9歳の時。それから現在までの家族の出来事がマヤの目を通して描かれる。

ある日、クマさんが不法残留、入管法違反で逮捕されてしまう。収容施設に入れられ、退去強制令の裁決告知を受ける。ミユキさんが裁判を決心するあたりから怒濤の展開だ。

裁判中に明らかになるのは、クマさんが日本で受けた差別やいじめ、入管での非人道的な処遇の数々。長期収容、拘束、暴力的制圧、医療放置──入管の様子をマヤに教えるのは難民申請中のクルド人のハヤト。

彼が言う「日本人は、あそこでなにが起こってるか、ぜんぜん知らないよね」が読み手の胸に突き刺さる。

重いテーマを温かく包み込むのは、クマさん救出のために集まってくる人々だ。弁護士のハムスター先生、マヤの親友のナオキくん、スリランカ料理店のペレラさん、山形のおばあちゃん──それぞれが「やさしい猫」になっていく。

登場人物たちの熱い思いと読者の願いを一つに束ねて「きみ」という希望の光に導く。新聞小説だからこそ誕生した、「今、知るべきこと」満載の今年を象徴する一冊。