音楽家活動20周年を記念して、明智光秀の娘・細川ガラシャを題材とした音楽舞台『月に抱かれた日・序章』を12月に予定しているヴァイオリニストの川井郁子さん。自身の集大成とも言えるこの度の舞台では、企画から原作、演出、作曲まで一人で行い、指揮を執りました。劇中で幼少期のガラシャを演じる一人娘の花音さんとともに、お話を伺います。 (構成=岡宗真由子)

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自分で自分の生き方を選んだ女性

すべてを一人で手がけるというのは、私にとって初めての試みです。今までの舞台は、チームでワイワイ作り上げたり、私のアイデアをお伝えして各分野のプロフェッショナルの方に仕上げていただいたりしていました。でも今回は、コロナ禍でスタッフが密になって話し合う場が持てない制約と、観客の方を前にした演奏活動ができず有り余る時間があったため、一人で練り上げることにしたんです。

細川ガラシャを題材にするというアイデアは、長年温めてきました。細川ガラシャは明智光秀の娘で、細川忠興の妻となった女性です。婚姻後に洗礼を受けてクリスチャンとなりました。敵方の人質に取られることを拒絶して、壮絶な死を遂げたことで知られています。


音楽舞台『月に抱かれた日・序章』イメージ写真(写真提供◎アイケイ・オフィス)

450年前当時の時代背景を考えると、ガラシャは自分で自分の生き方を選んだ稀有な女性。日本の歴史に、彼女以前に意思を持って死を選んだ女性の名は残されていません。戦国時代はそれだけ過酷で、女性が自分を貫き通すのはとても困難なことでした。ガラシャはカトリックの信仰のため自害することも許されなかったし、侍女たちを巻き込むこともしなかった。生か死か究極の選択を迫られる場面で、高貴な生き方を貫き、それを侍女たちに「ここで起こったことを後世に伝えるために生きよ」と伝言していました。

そしてガラシャがクリスチャンであったため、宣教師たちによって遠くヨーロッパの貴族にまで、この物語は語り継がれることになったのです。「強き貴婦人」というタイトルの戯曲として17世紀に伝えられ、オーストリア女大公、マリア・テレジアが幼かった娘のマリー・アントワネットに鑑賞させていました。