熊本県内の病院に16年前に開設された「こうのとりのゆりかご」、いわゆる《赤ちゃんポスト》(以下、「ゆりかご」)。親が何らかの事情で育てられない子を匿名で受け入れるために設置されたものだ。2022年、宮津航一さんが「ゆりかご」出身であることを実名で公表し、注目を集めている。航一さんと、彼を育てた家族の想いとは(撮影:本誌編集部)

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自分の言葉で伝えたいから

「これまで《宮津家の末っ子》だったのに、《お兄ちゃん》と呼ばれるようになりました。さっき小学生の弟が『お兄ちゃんは本読みの評価が厳しいから、宿題見てもらうの嫌だな』なんて言っていましたけれど、そんなに厳しくないですよー」

そう言って笑うのは熊本県立大学2年生の宮津航一さん(19歳)だ。熊本空港に近い田園地帯にある「宮津ファミリーホーム」(小規模住居型児童養育事業)。航一さんは育ての両親ら家族とともに、事情があって実の親が育てられない小学生から高校生までの5人の子どもたちとともに暮らしている。

ホームではこれまで、30人以上の子どもを養育してきた。父の宮津美光(みやつよしみつ)さん(66歳)、母のみどりさん(65歳)、祖母(89歳)と合わせて9人家族。時々宮津家の実子5人兄弟とその妻、さらに孫9人が加わることもあり、大家族の賑やかで温かい雰囲気が漂う。

航一さんは3歳の時に宮津家に迎え入れられ、高校2年生の時に宮津さん夫妻と養子縁組した。彼は熊本市にある慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」、いわゆる《赤ちゃんポスト》に預けられた第1号でもある。

「ゆりかご」は、07年5月に病院内に開設。22年3月末までの15年間に161人が匿名で預けられ、児童相談所(児相)を経て乳児院や児童養護施設、里親家庭に委託されていった。特別養子縁組をしたのは、71人。そのうち21人は預けた親の身元がわかっていない。