福井県内で通夜葬儀の日程が、遺族の希望よりも数日遅れるケースが増えている。葬儀社側の慢性的な人手不足が背景にあるとみられ、葬祭場に空きがあっても通夜葬儀が行えない場合もある。関係者からは「人員の補充がない限りは当面同じ状況が続くだろう」との声が聞こえてくる。

 6月下旬の早朝、父親が死去した福井市内の30代会社員男性は、亡くなった日の翌日通夜、翌々日の葬儀を希望したが、葬儀社から示された最短の通夜日程は3日後だった。担当者からは「スタッフがいない。ご希望の日程に対応できない」と頭を下げられた。男性ら遺族は葬儀場の安置所で父親の遺体に付き添ったが、その間に他家の通夜葬儀はなく、葬儀業界の人手不足を実感したという。

 葬儀後2日間は関係各所へのあいさつ回りで過ぎ去った。男性は「忌引休暇中に父親の年金や金融機関、車の名義など多くの手続きを進めたかったが、ほとんど手を付けられないまま職場に復帰した。気がかりなまま仕事をしなければならず、できれば1日でも早い日程でお願いしたかった」と振り返る。

 これまで県内の通夜日程は午前に亡くなったら翌日、午後だったら翌々日が一般的だったが、県内のある葬儀社の管理職は「今は長いと3〜4日待ってもらうこともある」と明かす。特に冬場は葬儀場が混み合うために「昨季はほとんどのケースで数日待ってもらった」という。

 この葬儀社では、各遺族の担当者として通夜葬儀を取り仕切れる社員は十数人。「本来ならば、あと3、4人必要だが、ここ4〜5年は退職者を補充できていない」。従来は最初に遺族に面会した担当社員が葬儀終了まで寄り添う体制を取ってきたが、近年は交代制を導入しないと社員が休日を消化できない状況が続く。管理職の男性は「今は多くの業界が人手不足。中でも葬儀業は魅力ややりがいを伝えるのが難しく、採用に苦労している」とこぼす。

 県内葬儀業の人手不足が慢性化する中、遺体を消毒し衛生的に保つ処置「エンバーミング」事業を展開するエンバーミングサービス(本社福井市西木田3丁目)には、数年前から通夜葬儀の日程遅れに関する相談が少しずつ増えているという。

 遺体の保存や修復が目的のエンバーミングは遺体表面の殺菌・消毒だけでなく、動脈から防腐剤を注入し、血液と入れ替えることで長期間衛生的に保つ。遺体からの感染リスクを低減できるとして新型コロナウイルス下で注目を集めたが、現在は遺族の事情や思いに合わせた故人との別れを演出する技術としても利用が増えつつある。

 同社の早坂尊嗣エンバーミング事業部長は「通夜葬儀が終わるまで遺族は慌ただしく、その間のことを覚えていないという話も聞く。ゆっくり時間をかけて、亡くなった方とお別れする形が広がっていくのもよいのではないか」と話している。