日本の地価は、年に2回公表されます。毎年3月下旬に公表される国土交通省による公示地価と9月下旬公表の都道府県による基準地価です。2023年1月1日現在の商業地の地価上昇率で福岡市は、都道府県所在地で3年連続のトップでした。地価を切り口に都市を取り巻く状況について考えてみます。

【プロローグ】〝 一物四価〟と呼ばれる不動産価値とは何か

 

同一の土地であっても、目的や評価方法によって不動産価値は異なってくる。

不動産価値のベースになっているのは、〝時価〟である。つまり、実社会において、いくらで取引されているかが、一つの判断基準となるのだ。
時価に基づいて、公示地価、基準地価、相続税評価額、固定資産税評価額が決められており、時として一物四価ともいわれることがある。

 

4つの不動産価格を整理すると、次のようになる。

 

【公示地価】毎年1月1日時点での土地の標準価格を国土交通省が毎年3月下旬に公表する。公示地価は土地の基本的な価格であり、土地取引の目安とされる。

 

【基準地価】毎年7月1日時点での地価を各都道府県が9月下旬に公表する。基準地価の公表は公示地価の半年後であり、地価変動を補完する役割も担う。

 

 公示地価、基準地価に加えて、課税のための評価基準が相続税路線価と固定資産税評価額だ。

 

【相続税路線価】国税庁が実施して公示価格の8割

 

【固定資産税評価額】固定資産税を徴収する市町村(東京23区は東京都)が実施し、公示価格の7割をめどとする。

 

相続税路線価、固定資産税路線価は公示地価を基準にしており、地価の最上位基準は、公示地価である。

 

日本の公示地価は半数強でコロナ禍以前まで回復

全国の地価動向は、「全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大した」━━━━。
国土交通省は2023年3月22日、『令和5年地価公示』を公表した。国交省によると、2023年1月1日時点における全国2万6,000地点(うち福島第一原子力発電所事故で7地点は調査休止)の公示地価のうち半数余りが、コロナ禍前の水準まで回復している。

 

東京圏、大阪圏、名古屋圏の三大都市圏では、全用途平均と住宅地が共に2年連続で上昇し、その上昇率は拡大した。
商業地については東京圏と名古屋圏では2年連続で上昇し、大阪圏も3年ぶりに上昇に転じた。

 

一方、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方四市では全用途平均、住宅地、商業地の全てで10年連続で上昇し、その上昇率が拡大している。
さらにその他地域でも全用途平均と商業地は3年ぶりに上昇し、住宅地は28年ぶりに上昇した。

 

 

出典:国土交通省『令和5年地価公示の概要』

 

出典:国土交通省『令和5年地価公示の概要』

福岡市は商業地で三連覇、住宅地は3年連続で2位

画像提供:福岡市

商業地の上昇率で10.6%だった福岡市は、都道府県庁所在地で3年連続トップとなった。
また、福岡県の商業地の上昇率も47都道府県で3年連続の首位だった。
一方、住宅地の上昇率においても福岡市は3年連続で札幌市に次いでの第2位だった。
また、福岡県も2年連続での第2位を記録している。

 

今回の地価動向について、福岡県の地価調査で代表幹事を務める不動産鑑定士の高田卓巳日本不動産研究所九州支社次長は、次のようにコメントする。
「福岡県全体の公示地価の平均変動率は、半年前の基準地価の調査と同様に住宅地・商業地・工業地とも上昇率が拡大しています。そして、福岡都市圏や北九州都市圏だけでなく、広域的に地価が上昇しています。その背景としては、低金利と福岡都市圏の人口増加、さらに、投資を呼び込むための行政の各種施策によるところも大きいのではないでしょうか」

 

一方、福岡市の地価動向について、高田次長は次のように分析する。
「福岡市の都心部においては、マンション用地や割安感をまだ残すオフィス用地の地価上昇が続いています。たしかに福岡市のオフィス賃貸市況については、先行き不透明感があって、当面はやや厳しい状態が続くでしょう。しかし、中長期的な収益の安定性に対する市場の高い評価に変化はなく、オフィスビルやオフィス用地への需要は依然として高い状況です」

 

最近10年で福岡市の公示地価は全て爆上り!?

福岡市の公示地価は、前年度と今年度との短期比較では落ち着きをみせている観がある。
一方、福岡市の『第9次福岡市基本計画』がスタートした2013年度からの10年スパーンでみると、商業地、住宅地、全用途と共に大幅な上昇をみせる。

 

国土交通省が公表する公示地価において、福岡市での商業地の平均価格2013年で514,600円だった。2023年は1273,400円となっており、147%増だった。
一方、2013年時点で112,600円だった住宅地の福岡市での住宅地の平均価格は、2023 年には196,300円であり、74%増を記録した。
また、福岡市における全用途平均では、2013年の224,000円から2023年には51400円まで増えており、128%増という伸びだった。

 

福岡市の公示地価が上昇した結果、固定資産税をはじめとする市税収入も増加している。2011年度に1,096億円だった固定資産税収入は以降、増加傾向にあり、2021年度には1,216億円となっている。
一方、天神ビッグバンボーナスの認定を受けたビルは20233月末時点で7棟であり、建て替え後の床面積は約1.7倍になる見込みだ。規制緩和の認定を受けたビル7棟について、福岡市は1棟当たりの平均税収の試算結果を明らかにしている。
天神ビッグバン認定7棟の建て替え前の築年数は50年程度であり、土地と建物の固定資産税と都市計画税を合わせて建て替え前は1棟平均で約7,000万円だった。そして、建て替え後の税収額は1棟平均で約2億4,000万円であり、3倍強となる見込みだ。

 

出典:国土交通省『変動率及び平均価格の時系列推移表』

ヒトカネビジネス流入で高まる都市魅力

今日、ヒト、カネ、ビジネスが地球上を駆け巡る中、これらは魅力的な都市に集まり、その魅力をさらに高めて好循環を生み出していく。
福岡市が地価を伸ばした最近10年間は、1万人以上の市民と共に福岡市の進むべき方向性を定めた第9次福岡市総合計画の実施期間とも重なり合う。

 

これから新たな総合計画づくりが始まろうとする中、これからの福岡市のまちづくりについて、高田次長は次のような見解を示す。
「今後、福岡市では那珂川沿いの『リバーフロントNEXT』をはじめ、油山牧場・市民の森での『ABURAYAMA FUKUOKA』や九大跡地での『FUKUOKA Smart EAST』など、都市の魅カアップにつながるプロジェクトが目白押しです。いずれも福岡市の生産性を高めていく取り組みであると思いますので、ビッグバン後の新たなフェーズとして、ぜひ実現を目指してほしいと思います」

今後、福岡市の強みであり、DNAともいえる、産学官連携の強さを生かしながら、新たなステージへ駆け上っていくことが求められると考える。

 

合わせて読みたい

福岡市の残された2つの一等地〜「 都心部ウォーターフロント」と「九大箱崎キャンパス跡地」〜
https://fukuoka-leapup.jp/biz/202201.412

 

「ABURAYAMA FUKUOKA」2023年4月27日 誕生!自然体験や森づくりを推進。油山が大幅リニューアル!【福岡市南区】
https://fukuoka-leapup.jp/tour/202304.2528

 

参照サイト

国土交通省『土地総合情報システム』

https://www.land.mlit.go.jp/webland/

国土交通省『令和5年地価公示の概要』

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001595069.pdf

令和4年第5回 福岡市議会定例会(20221221日)議事日程(第5号)

http://www.city.fukuoka.fukuoka.dbsr.jp/index.php/2097553?Template=doc-all-frame&VoiceType=all

https://smart.discussvision.net/smart/tenant/fukuoka/WebView/rd/speech.html?council_id=35&schedule_id=4&playlist_id=5&speaker_id=31&target_year=2022

令和4年版 福岡市税務統計

https://www.city.fukuoka.lg.jp/zaisei/zeisei/life/zeimutoukeiR4.html

 

 

 

著者:近藤 益弘