1軍コーチとして“まな弟子”井口監督を支える森脇浩司氏

 ダイエー・ソフトバンクから始まり、巨人、オリックス、中日で通算20年指導者を務め、名伯楽として知られる森脇浩司氏が、かつての教え子である井口資仁監督の要請を受け、ロッテの1軍野手総合兼内野守備走塁コーチに就任した。最大の難敵は、古巣のホークス。まな弟子の指揮官とともにどう立ち向かうのかを森脇氏に聞いた。

「客観的に見て、昨年は12球団で1番悔しい思いをしたのがロッテだと思っています。まさに臥薪嘗胆、それをどうエネルギーに変えていくかです」

 森脇氏はそう振り返る。確かに、ロッテはシーズン終盤の10月9日にゲーム差0とするなどソフトバンクに迫ったが、新型コロナウイルス感染による主力の大量離脱などで失速。最終的には14ゲームの大差をつけられ、クライマックスシリーズでも2戦連続で逆転負けを喫した。それでもレギュラーシーズンでは、ソフトバンクに12勝11敗1分で勝ち越した唯一のチームだった。

 森脇氏は「4年連続日本一のホークスの牙城を崩すのは簡単ではない。一方、2〜6位は少しでも隙を見せれば簡単に入れ替わる状況にある」と王者の力量を認める。「単に追いつくつもりでは勝てない。一気に追い越し優勝するのだという迫力、気概が不可欠。簡単ではないからこそ、常に“できる理由”を考えて選手に勇気付けをしていきたい」と語気を強めた。打倒ホークスの具体的な方策も「イメージできるものはいくつかある」とうなずく。

 担当部門の内野守備では「まず、守備の要であるセンターラインの確立とレベルアップを求めていきたい」と掲げる。今季は中村奨が二塁、藤岡が遊撃のレギュラーを担ったが、プロ18年目で40歳となる来季の現役続行が決まった鳥谷にも「年齢は自分で決めるもの。もう40ではなく、まだ40だ。この世界では年齢は関係ない」と突き上げを期待している。ロッテは今季もチーム失策数がリーグ最少の53という安定感を誇ったが、さらなる高みを目指す。

中日コーチ退任後に「メンタル心理カウンセラー」の資格を取得

「指導者自身に選手を上回る向上心がなければ、教え導くことはできない」と考える森脇氏は、2018年限りで中日1軍野手チーフコーチを退任した後、現場を離れていた2年間で「メンタル心理カウンセラー」の資格を取得した。プロ球界ではここ数年、ソフトバンクの中村晃や元ソフトバンクの川崎宗則氏、西武をいったん戦力外となって育成契約を結んだ多和田ら精神的な病気で苦しむケースもある。森脇氏は30歳の頃から独学で心理学を勉強。現役引退後は毎年オフシーズンに渡米し、メジャーやマイナーのコーチ、メンタルトレーナー、時には心理学者とミーティングを行って見聞を広めてきた。旧態依然とした頭ごなしの指導でなく、選手と向き合い、心に寄り添うスタイルを身上としている。

 また、森脇氏の実直な人柄を示すのが、高校1年から還暦を迎えた現在まで1日も欠かしたことがないという「野球日記」の存在だ。「高校に入学した最初のホームルームで、担任の先生に勧められたのがきっかけでした」と振り返る。

「長い野球人生で、日記が支えてくれたことは何度もあります。現役時代、疲労がたまる8月や9月に、後ろ向きの自分がいた時には、1月や2月の日記を読み返して新鮮な気持ちを思い出しました。大けがをして入院していた時のことを読み返し、野球ができる喜びをかみしめたこともあります」

 指導者となってからも「各選手とどう向き合い、自分が何を伝え、選手がどう反応し、どんな変化をしたかがすぐに確認できる。対戦相手も含め、選手のわずかな変化に気付き、見落とすことなく書き留めておける。頭で覚えているつもりでも、忘れるのが人間ですから」と日記の効用を説く。「日記は僕にとって、人生の伴走者であり証言者です」と言う。豊富なキャリアはもちろんだが、こうして何事にも真摯に取り組む姿勢が、各球団から指導者のオファーが絶えない理由の1つなのだろう。

 NPBで5球団目となる新天地へ。「監督が決断を下しやすいように、選手の能力を高め、駒としてそろえることがコーチの仕事。自分の担当分野に全力を注ぎたい」と森脇氏。かつての教え子とともに、常勝球団に挑む。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)