オリックス・育成の木下元秀「凡打ならどうしよう…という気持ちは一切ありません」

 結果は求めず、シンプルに練習の成果を出す。オリックスの育成・木下元秀外野手はウエスタン・リーグで7本塁打を放った広島での新人時代(2020年)の気持ちに戻り、支配下選手登録を目指す。

「打てなかったらどうしよう、凡打ならどうしよう……という気持ちは、一切ありません」。結果を求めず打席に立つと、良い結果が生まれるという。今年4月7日のウエスタン・リーグ、くふうハヤテ戦に「5番・一塁」で先発出場すると、今季初のマルチ安打を放った。

 大阪府出身の22歳。敦賀気比高3年夏の甲子園で6割に近い打率を残し、2019年育成ドラフト2位で広島に入団した。プロ1年目は2軍戦で7本塁打をマーク。34安打のうち6本の二塁打を含め、長打が13本とパワフルな打撃で注目を集めたが、プロ2年目は本塁打は2本、3年目は3本にとどまり、ノーアーチに終わった4年目のオフに戦力外通告を受けた。

 長打力を評価され、再び育成契約で入団したオリックスでは、3月13日の楽天とのオープン戦(草薙)での本塁打を含め、3試合連続安打を放つなど、持ち味の打撃力をアピールした。ただ、シーズン開幕前後の試合には、主力選手が調整のため2軍戦に出場することも多く、育成選手が打席に立つ機会は限られる。

 そんな中で木下がたどり着いたのは、無我の境地だ。「3桁(の背番号)なので、出番が少ないということはわかっています。立場上、結果を求められていますが、意識はしません。意識をすると、余計に崩れてしまうからです。ヒットが出るとかでないとかを考えず、練習していたことを出すことだけを考えています」。

戦力外通告を味わって辿り着いた“境地”

 経験がある。7本塁打を放った1年目の打席だ。「今考えてみると(相手投手には)高卒1年目の打者に変化球でかわすことへのプライドもあったのでしょう、真っすぐを投げてくることが多かったですね。でも、当時は打席で何も考えていませんでした」。投手に向かっていくことだけに集中することが快打を生んでいたが、プロで年数を重ねるにつれ、その意識は薄まっていった。「2年目はまだよかったのですが、段々、知識がつき結果も求められるようになってしまって」と成長できなかった時代を振り返る。

 環境が変わり、初心に戻った。今季は2軍で10試合に出場して打率.263を残している。「結果を求め過ぎないことが大事なのかなと。求めていかないといけないのですが、そこにばかり向かってしまうとうまくいきません。バッティングは相手のあることで、打てない時もあります。それをどう変えていくか。結果はついてくるもので、それを求めないんです。状況に応じたチームバッティングや自分のスイングをするだけなんです」。良い意味で上下関係が厳しくないチームの居心地の良さもあり、迷いが吹っ切れて表情も明るくなった。

 心強い味方もいる。高橋信二打撃コーチの存在だ。「余計な情報や余計なことを考えると、彼の持ち味がなくなってしまいます。彼なりにいろんなことを考え過ぎて、フォームが縮こまったりしてしまうんです。できることだけをやればいいのです」とシンプルに寄り添う。ロングティーで緩いボールを打つことを教わった木下は、体を大きく使うことができるようになり、快音が戻った。

「今までは、綺麗に打たなくてはいけないという思いがありました。でも、崩しにくる相手に対し、自分も崩れていってしまっては余計にダメ。崩されても、自分のタイミングで打てればいいと考えられるようになりました」。22歳。無限の可能性を秘め、無心にバットを振る。(北野正樹 / Masaki Kitano)