「ヤクルトから日本の宝を」 参謀らが語る19歳・村上が持つ無限の可能性

「ヤクルトから日本の宝を」 参謀らが語る19歳・村上が持つ無限の可能性

ベテラン青木に漏らした本音「できないんです…」と自分を認める潔さ

 「僕は今まだ、使ってもらっているだけなんで、とにかく頑張るだけです。」

 今シーズン大きな活躍を見せているのが、入団2年目、19歳の村上宗隆内野手はいつも控え目だ。ここまで28本塁打、打点は83で現在リーグ1位(8月19日時点)とチームは下位で苦しいが、来場したファンは村上の打席を楽しみにしている。ヤクルトの「希望」と言っていい。

 その村上を育てている1人がヤクルト杉村繁・巡回コーチ。これまでもヤクルト・青木宣親外野手、山田哲人内野手、横浜(DeNA)のコーチ時代には内川聖一内野手ら、球界を代表する名打者を育てている

 村上について聞いてみると、開口一番、「僕は何十年もこの世界でいろんな選手を見てきたけど、高卒で入ってきてスイング的にここまですごいと思った選手はそういない」という言葉が返ってきた。

 杉村コーチは昨年5月、ファームのゲームで初めて村上を見た。ボール球は振らない。三振はしない。逆方向にも打てる。「こんなにすごい選手がいるのか、完成された高校生だな」と思ったそうだ。距離が出ること、若いこと、落ち着きがあることの3点。特に、「若いこと」に関しては、世界中探しても、19歳であんな選手はいない」とその潜在能力を高く評価する。

 これまでのキャリアの中で、杉村コーチにとって「すごい打者」は誰か。巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏、日本ハム・中田翔内野手、清宮幸太郎内野手、DeNA・筒香嘉智外野手と言う。村上はその枠に入っているというのだ。

 7月は少し状態が悪く、本塁打も1本しか出なかったが、8月に入りハイペースで本塁打が出ている。「三振を減らすためにどうするかとか、今まではすべて全力で振っていて、5〜6割の力で打つということをしたことがなかったと言うので、一度、練習でもやってみることを提案したりした。何より8月に入ってからは甘い球は見逃さないように、そして配球を考えるようになったことが好調の秘訣だと思うよ」と杉村コーチは、今月の若き主砲の好調の秘訣について語る。

 村上本人も試行錯誤の毎日。ただ“完成された高校生”だけではプロの世界では戦えない。今年のここまでの奮闘ぶりは今年1月の青木外野手との自主トレが大きなきっかけだったのではないかと杉村コーチは挙げる。

 その青木に自主トレの時のことを聞いた。

「まだ若いし純粋だからこそ、自分の思ったことをすぐに言ってしまったり恰好をつけてしまったりするところがありました。その辺の19歳とまったく変わらない。何より“不器用”だとも感じた。シーズンに入り、コーチのアドバイスが体現できない姿を見ることもあって、どうしてやらないのかと聞くと、小さな声で『できないんです…』と言うんですよ」

 実は自主トレの場が、青木が村上と向き合った初めての場所だった。村上のことを知りたいと思い、青木から誘った。すれていなくて吸収するスペースが大きく真っ白。だからこそ、教え方によって、良い方にも悪い方にも変わるから気を付けてあげないと、とも思った。

 青木自身も若い頃、先輩やコーチから指導を受けてもなかなか吸収できないことがあった。できない理由は経験の浅さ、若さ、技術の未熟さなどいろいろ。自分は必死だけれど、その“できなさ”をどう表現していいのかもわからない。悩んでいるときに言われて、さらに上手くいかないという悪循環に陥ってしまうこともあった。言われたことができないということが、人によっては言うことをきかないと捉えられてしまうおそれだってある。

 だから、青木は村上を常に気にかけ、言いすぎない程度に声をかけている。対戦するピッチャーによってアプローチを変えてみること、守備の失敗があっても、引きずって他の自分のプレーで迷いが出たりしないようにすること、そういったことをタイミングを見て、伝えている。

石井琢コーチが重ねる新井氏の姿 杉村コーチ「ヤクルトから日本の宝を」

  自主トレを共にさせてもらったことにより、自分のことを理解しアドバイスをくれる先輩が身近にできたこと。完成された高校生が、さらに成長するためにこんなに大きくありがたいことはない。

 石井琢朗一軍打撃コーチも、厳しくも大きな期待を持って村上を指導するコーチの一人だ。

「彼に求めていること、僕たちはとても高いですよ。広角に打てるし、飛ばす力はあるし、スイングスピードも素晴らしい。でもその中で、僕たちはまだ、周りが騒ぐほど満足していないんです。この1年の数字ではなくて、来年以降の彼の姿や数字が評価につながると思うし、5年後10年後を見据えて、人間的にも成長してほしい。」

 この人間的な成長を、特に石井コーチは村上に求めている。

 これは石井コーチが、広島カープのコーチ時代に新井貴浩氏を見てきて感じたことだ。新井は様々な苦労を経験してから、チームや周りの選手に対しての献身的な心が生まれ、人間味やいい意味での人間臭さが出て、周りから慕われる選手になっていったと石井コーチは感じている。その影響は今も後輩選手に受け継がれ、チームの強さにもつながっていると回想する。

 冒頭の村上が話した言葉のように、使われていると分かっているならば、もう一歩、その先の考えにも辿り着いてほしいという親心がうかがえる。自分が中心になって打てるということを大切にしながら、脇を固めてくれる選手がいてくれるからこそできているプレーがあること、周りの選手の気持ちもわかる選手になって欲しい。「19歳に言うのは厳しいかも知れないけれど…」と石井コーチは話したが、それだけ大きな期待をしている証拠だ。

 改めて、杉村コーチの言葉。これからの村上に大きな期待を込められていた。「ここからは僕らが、彼を日本の代表する選手にすること。それが義務。可能性は十分ある。ヤクルトから日本の宝を出さなきゃね。守備や走塁など足りないところはあるけれど、小さくならずに、長打が打てることはとてもすごいことなんだから!」と、責任感の中にも期待感あふれる笑顔だった。

 村上について語る人たちの目は、厳しくも、皆とても暖かい。若手の成長がチームの成長にもつながるというだけでなく、自分たちの感じてきたことや学んできたことを伝えることで彼が成長することが、自分たちの思いの集結だから。村上がその思いを受けて学び、ますます飛躍したとき、今以上の輝きをみせるだろう。(新保友映 / Tomoe Shimbo)


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