試合で感じた違和感「嫌だと思っていないように見えた」

 約1年前の秋、日体大へ吉田大喜投手(現ヤクルト)、北山比呂投手(東芝)の4年生Wエースの取材へ行った。その時、日体大で投手コーチを務める元中日の辻孟彦コーチから“見ていきませんか?”と、当時3年生の森博人投手の投球練習する姿を見せてもらった。ブルペンの様子を撮影させていただき、ど迫力の直球を目の当たりにした。すでに試合では155キロを計測。来年のドラフト候補になると直感するボールだった。

 時は経ち、森はチームのエースとして最後のリーグ戦を迎えた。中止になった春を乗り越え、9日の首都大学リーグ・武蔵大(大田スタジアム)のマウンドへ。ネット裏には9球団のスカウトが視線を送る中、7回1安打無失点の投球でチームを勝利に導いた。

 しかし、150キロを超えたボールはゼロ。本調子とは行かなかった。ストレートが走らない。自慢の速球が簡単にファウルにされ、粘られた。「相手の打者が自分のストレートに対して“嫌だ”と思っていないように見えました。ブルペンからあまり良くなかったので、その中でどうしていこうかと考えていきました」と冷静だった。

 森がこの1年で磨いてきたのは直球だけでない。調子が悪いなりに勝てる投球をするためにはどうするか…ピンチを想定したピッチングを組み立てた。この日も変化量の違う2種類のカットボールを使うこと、バッターの様子を見ながら制球することを心がけた。

古城隆利監督「エースとして初のシーズンだったら、緊張もあったのだと思う」

 しかし、途中で勝負球に使っていた大きな変化量の方のツーシームが「決めに行くときの精度が良くなかった」ため、カーブとツーシームで的を絞らせない投球に転換。味方の好守備にも助けられ、7回までまとめた。味方の好守備にも助けられた。

「昨年の公式戦よりは落ち着いてバッターを見て、投げられたと思います。悪い中でも相手の目先を変える投球もできました」

 力任せの直球で押して、四球で自滅するパターンもあった。「悪い時は力むので、ボールがばらけてしまう。その点(今日は)力まずに投球できました」と開幕戦に収穫を見た。古城隆利監督も「あれだけ粘られることはあまりないので、エースとして初のシーズンだったら、緊張もあったのだと思う」と本来の出来から離れていても、試合を作った投球を高く評価した。

 プロ野球の投手だって、万全の状態で投げられる試合の方が少ない。どこかに不安を抱え、マウンドに立っている。しかし、試合を任された以上、それを言い訳にすることはできない。大学トップレベルのスピードボール、体や球の力強さは折り紙付き。リーグ初戦は本来の出来とはかけ離れていたかもしれない。だが「悪いなりに投げられた」自信を新たな持ち味でもある。そこに森の1年間の進化、収穫があった。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)