まるで漫画のようなジョン・ラーム(スペイン)の優勝でした。4年前にPGAツアー初優勝を飾ったカリフォルニア州トーリーパインズGCが舞台となる「全米オープン」。妻のケリーさんにプロポーズした思い入れのあるサンディエゴ。最終日は4月に息子のケパ君が生まれて初めて迎える「父の日」。名実ともに“メジャー初優勝に一番近い男”が壁を越えるタイミングとして、これでもかと材料がそろっていました。

14日(月)にコースチェックで会場を歩いていると、ラームはブルックス・ケプカと練習ラウンド中。2週前の「ザ・メモリアルトーナメント」で後続に6打差をつけて最終日を迎えるはずが、新型コロナウイルス感染の陽性判定で棄権を余儀なくされた悲劇からの復帰戦です。最初はどんな言葉をかけたらいいか迷いました。しかし、本人はもちろん、キャディのアダム・ヘイズさんも「今週出られて良かった。開幕が待ちきれない!」。どこまでもポジティブでした。

昨年、パンデミックで母方の祖母が亡くなったことを明かしていました。今年2月には、スペインの地元紙で働き、ラームの才能に着目した会社のバックアップで一緒に世界を飛び回るようになったスポーツジャーナリストの方が新型コロナの影響で亡くなったそうです。大会連覇のビッグチャンスをふいにしながら前を向くことができたのは、コロナ禍で命の重さと向き合ってきたからこそかもしれません。

世界トッププレーヤーたちの力をもってしても、簡単にダブルボギーが出てしまうコース。「全米オープン」ならではの深いラフに加え、ただでさえ厄介なポアナ芝のグリーンが日に日に硬くなる超ハードセッティングでした。ケプカ、ブライソン・デシャンボー、ロリー・マキロイ(北アイルランド)…メジャータイトルホルダーが次々と脱落していく中でプレーは研ぎ澄まされていきました。

短気なイメージが先行しがちですが、それはほんの一部分。派手なアクションの裏でもっともマネジメントを重視し、緻密な戦略に基づいて戦う選手でもあります。

それを支えるのがヘイズさん。ルイ・ウーストハイゼン(南アフリカ)を振り切る決め手となった上がり2連続バーディ。17番、18番(パー5)とも「(セーフティな)広いエリアに打ってくれ」という相棒の注文通りのショットから、自分たちの戦い方への自信と余裕に近いものを感じました。

4年前、ラームのエージェントだったティムさんが兄であるフィル・ミケルソンのキャディを務めることになったとき、ミケルソンとの関係を解消したジム・マッケイさんが今度はラームのバッグを担ぐのでは、という憶測が広がったことがありました。このときはSNSに「これからもアダムが僕のキャディだ」と宣言する動画をアップして事態は沈静化。深い信頼で結ばれた2人です。

17番も18番も、フェードヒッターのラームにとってイメージが出やすいスライスライン。ヘイズさんはセカンドで狙う場所をリクエストする時点から、そこまでイメージが湧いていたのではないでしょうか。

プレーオフでダスティン・ジョンソンを撃破した昨年の「BMW選手権」。最後に沈めた20mの超ロングパットも強烈なスライスラインでした。極限の勝負の記憶は、正念場にふと蘇ってくることもあるのです。(解説・進藤大典)