こんにちは、書評家の卯月 鮎です。シャーロック・ホームズの熱狂的なファンをアメリカではシャーロッキアン、イギリスではホーメジアンと呼ぶそうです。私はそこまでの思い入れはないですが、小学生のころ、たまたま祖父の家にあった児童文学全集で『緋色の研究』を読んだときの衝撃は忘れられません。推理小説もほぼ初めて。こんなにドキドキして目が追いつかなくなるくらい先を知りたいと思う本があるなんて! と呼吸が止まった感覚でした。

 

そこから学校の図書室通いが始まり、シャーロック・ホームズ全集から江戸川乱歩を経て、岩波少年文庫を駆け上がり、J.R.R.トールキンの『指輪物語』方面へ……。みなさんのホームズとの出会いは何でしたか?

 

ホームズ婚のふたりが見せる名探偵愛

 

今回紹介する新書『シャーロック・ホームズのすべて』(ロジャー・ジョンスン、ジーン・アプトン著 日暮 雅通訳/インターナショナル新書)は、ロジャー・ジョンスンさんとジーン・アプトンさんというシャーロッキアンの夫婦による愛のこもった解説本。

 

イギリス・エセックス州議会の図書館司書を40年近く勤めたロジャーさんは、同時に1968年から「ロンドン・シャーロック・ホームズ協会」の会員として活動してきました。アメリカ出身のジーンさんは1980年代にこの協会に入会し、毎年イギリスを訪れるうちにロジャーさんと結ばれました。

 

プロポーズの場所はホームズの読者には超有名な「ライヘンバッハの滝」。しかも、結婚式にはスペシャルゲストとしてコナン・ドイルの娘さんが来たそうです! 今でいう同担(※同じアイドルやキャラを応援すること)同士の結婚という感じで、会話も尽きなさそうですね。

ホームズが吸っていたのはどんなパイプ?

ホームズ本編(いわゆる「正典」)だけでなく、映画、ドラマ、コミック、パロディ小説、パスティーシュまで幅広いジャンルからトリビアやエピソードをピックアップしている本書。

 

第5章「ホームズの謎にせまる」では、「ホームズに関する十七の質問」をメインに、本編中の豆知識が乱れ打ち状態です。私が意外だったのは、ホームズが吸っていたパイプ。大きくU字型に曲がった形状のパイプ(キャラバッシュ・パイプ)を抱えているイメージがありますが、実は本編にはそのような描写はどこにもないのだとか!

 

また、「ホームズはどんな食べ物が好き?」という項目では、特にはっきりとした好物はなかったものの、「カキとライチョウのひとつがい、逸品の白ワイン」「コールドビーフとビール一杯」「ハドソン夫人が用意したヤマシギ(鳥)の料理」などがホームズの食卓にのぼっており、海外ではレシピ集も人気といいます。小説のなかにふっと出てくる食べ物って美味しそうに感じますよね。私は『指輪物語』に登場するエルフの焼き菓子「レンバス」を、子どものころからずっと食べたいと思っていました(笑)。

 

個人的に親近感を覚えたのは第9章「コレクターという宿命」。ロジャーさんとジーンさんの夫婦が引っ越しをする際、見積もりに来た業者さんに笑いをかみ殺しながら驚かれ、「こんなに大量の本を運ぶなんて隣町で書店の移転を手伝った時しかない」と言われたそうです。これはコレクターあるあるですね(笑)。

 

鉄道ファンにも撮り鉄や音鉄、スジ鉄がいるように、シャーロッキアンにも、初版本をはじめ、ホームズの格好をしたテディベア、切手、鹿撃ち帽、パイプ、ティーポット……とコレクターはさまざま。著者夫婦のうちひとりは、ホームズかワトソンを演じた俳優のサインを集めていて、もうひとりは我慢しているそうです(笑)。愛し方もいろいろです。

 

映画やドラマの紹介、ホームズ聖地の巡り方、シャーロッキアン団体とそれぞれのユニークなルールなど、作品とその周辺世界を知ることのできる一冊。もともと2012年にイギリスで刊行された単行本ですが、著者による加筆と訳者による画像の追加が行われた日本語版となっています。

 

そういえば、私はNHKで放映されていたイギリス・グラナダテレビ版ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』もよく見ていました。ダークでサイケデリックなムードに惹かれるものを感じたんですよね。これもシャーロック・ホームズの奥深さでしょう。

 

【書籍紹介】

シャーロック・ホームズのすべて

著者:ロジャー・ジョンスン、ジーン・アプトン
発行:集英社インターナショナル

「伝説」の真実、世界に広がる影響など、登場から100年以上を経た現在も常にアップデートされ続けるホームズのトリビアを網羅。19世紀後半に登場して以来、探偵の代名詞として常に最高の人気を保ち続けるシャーロック・ホームズ。60を数える作品とホームズというキャラクターについて多角的に紹介。フィクションの世界の人物であるにもかかわらず、実在の人物を超えて世界中の人々を現在も魅了し続ける探偵ホームズとその背後にあるミステリーにせまる。映画やテレビで知った初心者から、ホームズ・マニアまでもっていたい1冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。