共働き世帯の増加はもとより、コロナ禍で自宅にいる時間が増えて 家事に対するモチベーションは大きな変化が訪れたこの3年ほど。 本記事では、「令和版 三種の神器」が注目されるようになった背景を、経済評論家の坂口孝則さんに聞いた。 そろそろ導入をマジメに検討して良さそうだ。

※こちらは「GetNavi」 2023年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が解説します

経済評論家 坂口孝則さん
調達・購買コンサルタント。コスト削減や仕入れの専門家として、テレビ・ラジオなど様々なメディアで活躍している。

 

時短・節約・ラクになれる三種の神器はヒット目前か

令和版 三種の神器は「ドラム式洗濯乾燥機」「ロボット掃除機」「食器洗い乾燥機」。これらすべて所有しているという坂口さん。昨今注目を集めているのには、大きく分けて以下の理由があるという。

 

「当然ですが時短。共働き世帯だけでなく単身世帯の増加で増える時間短縮ニーズの増加や、時間を奪う対象へのコミットもあります。動画配信を見たいがために、効率化家電を活用している人たちは多くいます。実際、私がそうです。また節約ニーズも挙げられます。特にドラム式洗濯乾燥機は節水効果を相当向上させています。あと意外に気づきにくいのが無理ない姿勢で家事が行えて “ラク” になれるということ。特にロボット掃除機はしゃがむ必要がなく腰を酷使しません」(坂口孝則さん、以下同)

 

歴代三種の神器をプレイバック

では、過去の三種の神器はどのようなものだったのだろうか。1950年代後半の三種の神器と1960年代後半の新・三種の神器について、坂口さんに教えてもらった。

 

【1950年代後半】個人の所得が向上するなかで 生活の質を上げたいニーズと合致した

三種の神器:「冷蔵庫」「洗濯機」「白黒テレビ」

↑三種の神器(左から)冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビ

 

「1950年代後半からの高度成長期には、松下電器産業(ナショナル)などBtoCのベンチャー企業が技術革新で伸び市場を席巻しました。戦後からの脱却のなか個人の所得が向上するうえで、生活の質も向上したい気持ちがありました。そして専業主婦の誕生は、家計の財布を握る女性の誕生でもありました。そこで冷蔵庫、洗濯機はズバリ生活の質の向上につながり、白黒テレビは新しいライフスタイルを体現するものであったわけです」

 

【1960年代後半】旧「三種の神器」が浸透して 他者との差別化を図る意識が生まれる

新・三種の神器:「カラーテレビ」「クーラー」「自家用車」

↑新・三種の神器 カラーテレビ(左)、クーラー(右上)、自家用車(右下)

 

「1960年代後半は戦後の貧しさを完全に脱却し、そして旧『三種の神器』が浸透したあとで、 “より他者との差別化を図る” 意識が芽生えた時代だったと言えます。そこでカラーテレビ≒よりきれいに、クーラー=より快適に、自家用車=より遠くへ、という願望を大衆が持ちはじめました。ですのでクーラーや自家用車は、当時の松下電器産業やトヨタ自動車の狡猾なテレビCMがその普及に大きな影響を及ぼしたはずです」

 

令和版 三種の神器が注目されるようになった理由

普及率がまだ高いと言えない令和版 三種の神器だが、今注目されつつある理由についても聞いてみた。

 

【理由1】 共働きが当たり前になり家事に割く時間が減少

調理は外食の定着、あるいは昨今のデリバリーサービスの増加により割く時間が減ったが、直接手を下す作業はより時短が求められるところ。なかでも食後の家族との時間を増やしてくれる食器洗い乾燥機への期待は大きい。

↑専業主婦世帯と共働き世帯は、1980年と2022年で比較するとほぼ逆転。最近では若い世代を中心に単身世帯も増加しており、共働き世帯同様、家事に割く時間を削減したい傾向が強まっている

 

【理由2】 ネットやスマホの普及で“自由時間”創出の欲求増

スマホやPCでのネット接続が “常時化” するなかで、常に情報に触れていたいという人が増加。動画配信の視聴やSNSのチェックを重視することが当たり前になっているなか、家事の効率化につながる家電に注目が集まっている。

↑パナソニックの調査によると、Z世代(18〜25歳)ではタイムパフォーマンスを上げるために、別の作業をしながら動画を見る割合が60.5%にもなるという。若い世代ほど効率化を求めているようだ

 

【理由3】家事に対する意識の変化で“時短志向”層が増加

人の手で時間をかけて丹念に家事をすればおいしい食事が作れる、部屋や食器はきれいになるという考え方はもう古い。時短や省力化できるところは率先して行うのがいまの主流だ。そのためには令和版 三種の神器は必要不可欠と言える。

↑パナソニックが男女400人を対象に調査を行ったところ「あまり時間を割かず効率的にやりたい」人は全体の8割以上。ただし理想とする時間と実際にかけている時間には乖離が生まれている

 

「安ければもっと普及するはずで、それが一番のポイントだと思います。同時にもちろん必要なのは機能に対する信頼性でしょう。ネットなどでのコメントでは、買って “ハズれた” という人がいます。特にロボット掃除機などはその傾向が顕著です。ゴミがしっかり取れないと思っている方もまだいるようですが、技術の蓄積を重ねてきたメーカーのモノは十分に実用的と言えます。ロボット掃除機は現在、百花繚乱状態になっており、十分に機能しないモデルも存在します。

 

ネット上の情報だけに左右されるのではなく、レンタルやサブスクなどを使って購入前に試すのもオススメです。また、食器洗い乾燥機の設置は家の構造が課題だと思います。私も以前の自宅では不可能でした。ただし最近ではコンパクトで手軽に設置できるタンク式も増えてきたので、導入へのハードルは下がっています」

↑食器洗い乾燥機の普及率が高いのは、新築、あるいはリフォームで設置したビルトイン式の高さによるところが大きい。ロボット掃除機の普及率はまだ低めだ

 

坂口さんは、令和版 三種の神器はタイムパフォーマンス時代の大衆器である、と言います。

 

「成熟社会においては商品の機能ではなく、その商品を手にすることで得られる効能を想起できなければなりません。その意味でロボット掃除機、ドラム式洗濯乾燥機、食器洗い乾燥機は、コンテンツ氾濫時代に大衆が家事における時短を実現し、好きなことに時間を使えるための器ではないでしょうか。神器は限られた人のものですが、その真逆です」

 

令和版 三種の神器の導入を検討するときには、自分の生活スタイルにおいて何が大切であるか、ということを念頭に置いて優先度を決めてみてはいかがだろうか。