健康にも環境にもやさしいサステナブルな商品を多くの人へ〜シャボン玉石けん株式会社〜

 

企業の社会貢献活動がまだ一般的ではなかった1974年から、人と環境にやさしい無添加石けんにこだわってきたシャボン玉石けん株式会社。先代社長・森田光德さんの実体験をきっかけに始めたものの業績は悪化し、その後17年間赤字だったそうですが、信念を貫き通してサステナブルな商品を作り続けてきました。

 

添加物を一切含まない“100%無添加”の意味

そもそも無添加石けんの定義とは何でしょうか。同社マーケティング部の川原礼子さんにうかがいました。

 

「モノや肌を洗う洗浄剤は、大きく分けて“石けん”と“合成洗剤”があります。汚れを落として綺麗にする役割は同じですが、原材料や製法、出来上がった成分がまったく異なります。石けんは約1万年前にできたと言われていて、天然素材をベースに作られています。一方の合成洗剤は石油や植物油脂を化学合成し、人の手を加えて最終的には自然界には存在しない成分で作ります。今は“無添加”と記載された化粧品や洗顔料などを目にする機会が増えたと思いますが、実は“無添加”の表示に関して法律上の明確な定義はなく、石けんはもちろん合成洗剤であっても、添加物が何か1種類でも入っていなければ“無添加”とうたえます。しかし弊社の場合は、石けん成分のみで添加物を一切含まないものを“無添加石けん”と定義づけています」

↑石けんの製造工程。シャボン玉石けんは、ケン化法という昔ながらの釜炊き製法で作られている

 

無添加石けんに切り替えて17年間赤字に

現在、洗浄剤の分野では合成洗剤が圧倒的なシェアを占めており、石けんというと固形石けんをイメージする人が大半かもしれません。しかし石けんといっても、ボディ用、洗顔用、洗濯用など用途別に、形状も固形だけでなく、液状タイプ、泡タイプ、粉タイプとさまざまです。

 

「無添加石けんを作り始めたきっかけは、原因不明の湿疹に長年悩まされていた先代社長・森田光德の実体験からでした。弊社は1910年に雑貨商として現在の北九州市若松区で創業。当時の若松は石炭の積出港として賑わっており、働く人々の体や衣類が石炭で汚れるため、石けんが飛ぶように売れていました。その後、1960年代の高度経済成長期には、いち早く合成洗剤の取り扱いを始め、売上も好調に推移していました。当時、国鉄(現JR)に機関車を洗うための合成洗剤も卸していたのですが、合成洗剤は機関車が錆びやすいということで、1971年に無添加の粉石けんの製造依頼が来たのです。先代社長自ら工場に泊まり込んで開発に関わり、約ひと月かけて試行錯誤の末ようやく無添加の粉石けんを完成させました。その試作品を自宅で使ってみたところ、長年悩まされていた湿疹が改善。試作品が無くなり、自社の合成洗剤に戻したら、再び湿疹が出て来たそうです。湿疹の原因が自社のドル箱である合成洗剤にあると気付いた森田は、『体に悪いとわかっている商品を売るわけにはいかない』と、1974年から無添加石けんの製造販売に切り替えたのです。

↑マーケティング部  川原礼子さん

 

当時、弊社の合成洗剤の売り上げは月商で約8000万円だったそうですが、無添加石けんに切り替えた翌月の月商は78万円。なんと、100分の1以下にまで売り上げが激減しました。事業転換に大反対していた社員たちは、この数字を森田に突き付けたものの、『78万円分の人たちがこの商品を欲しいと思って購入してくれた。必要としてくれている人たちがいるのだから、このまま無添加石けん一本で続ける』と言い放ったそうです。100人いた従業員はわずか5人に減り、赤字はその後17年間続きました。苦しい状況が続いたにも関わらず無添加を続けたのは、『体に悪いと思った商品を売るわけにはいかない』『安心、安全なものを求めるお客様のために』という先代の思いが強かったことと、お客様からの感謝の手紙が支えになっていたと聞いています」

 

生分解性が高く環境にやさしい

そんな中、転機となったのが1冊の本。出版社からの依頼を受けて1991年に森田さんが書いた『自然流「せっけん」読本』という書籍が大ヒットし、無添加石けんのよさが人々に知れわたるようになったそうです。90年代は、湾岸戦争による油まみれの水鳥の映像が世界中に衝撃を与えたり、『買ってはいけない』(1999年発行/渡辺雄二著)という書籍がベストセラーになったりするなど、環境や食品の安心・安全、化学物質に対する意識が高まった時期でもありました。そういった時代背景も追い風になったのでしょう。

 

「無添加石けんのよさが少しずつ知られるようになってからようやく黒字に転換しました。当初は、ご自身やご家族の健康のために無添加石けんを購入される方がほとんどでしたが、最近は、環境にも優しいという理由で選ばれる方も増えてきています。石けんは、排水して海や川に流れ出ても、短期間で大部分が水と二酸化炭素に生分解されます。石けんカスも、微生物や魚のエサになるので環境に優しい洗浄剤です。また、製品開発していた時期に先代社長が自宅で石けんを使用していたところ、排水溝にイトミミズなどの生物が戻ってきたという話も聞いています。

↑石けんは大部分が生分解され、エサにもなるので環境への影響が少ない

 

“無添加”と聞くと添加物が何も入っていない、安全、安心なイメージがあると思いますが、先に述べたように添加物が何も入っていないとは限らないので、期待していたものと手にした商品とで乖離があることは多いと思います。様々な化学物質による健康被害が取り沙汰されるようになってきた昨今、弊社の無添加石けんへの注目は一層高まっていると感じています」

 

できるところから健康と環境に配慮

苦境を乗り越え、多くの人に愛用されるようになった無添加石けん。真摯に事業を行ってきたのは、「健康な体ときれいな水を守る」という企業理念があるからだといいます。

 

「商品自体は人にも自然にも優しいという自負がありますが、商品を作るための原料や包装資材に関しての課題はまだあります。課題解決のために、例えば、パーム油の原料となるアブラヤシの伐採が、森林減少や生物多様性の喪失などの要因となることで問題視されていますが、弊社では、農園拡大の抑制に努めているマレーシアから取り寄せ、農園の視察も行っています。梱包資材に関しても、石けんは水回り品なのでプラスチックを使っていますが、リサイクルPETフィルムを採用していますし、粉せっけんのパッケージや計量スプーンは紙製品に切り替えています。また、ギフト用の箱には間伐材を活用。製造工程で出る甘水という廃材を、漆喰などの壁材に再利用しています。このように、できるところから持続可能なものづくりに取り組んでいます。

 

もちろん商品としてお客様に満足していただくことも大切です。原料となる油は種類によって洗浄力や泡立ち、しっとり感などの使用感が異なるので、用途や商品に合わせて原料の油の種類や配合比率を変えています」

↑看板商品である「シャボン玉浴用」。他にもさまざまな無添加石けんがある

 

事業活動そのものがSDGsに合致

同社の取り組みを見ていると、事業活動自体がSDGsの理念に合致していると感じます。そのあたりをどう考えているのでしょうか。

 

「無添加石けんの製造・販売・普及という事業活動そのものがSDGsの達成に貢献すると考えています。本業に加えて、元々商品の売上の一部を寄付するプロジェクトや生態保全活動、環境教育など様々な取り組みを行っていました。ですので、SDGsが登場したからといって、事業内容に大きな変化はありませんでした。強いて言うならば、自社の活動を整理するきっかけになったこと。昨年は創業111周年を迎え、次の100年に向けて人々の健康と地球環境、生物多様性を守り、持続可能な社会に貢献するための『サステナビリティ中期計画』を策定しました。5つのサステナビリティ重要課題と15の取り組みテーマを掲げ、具体的な2030年目標を制定したのです」

 

これまでの事業活動に加え、解決すべき課題を具体的に掲げ、SDGsの目標にもマッピング。今後は、『サステナビリティ中期計画』に沿って取り組んでいくそうです。

 

「これまで、石けんの新たな可能性についても取り組んできました。例えば、少量の水で消火ができ、環境への負荷が少ない『石けん系泡消火剤』の開発。また、2009年に設立した感染症対策センターでは、病原微生物と石けんの関係を研究しています。近年、香料をはじめとするさまざまな化学物質によって起こる健康被害である「香害」や「化学物質過敏症」が社会問題となっていますが、その社会的理解と認識を広めるための活動も展開してきました。こうしたこれまでの取り組みを含め、新たな活動も今後は展開していきます。そして何よりも、人にも環境にもやさしい無添加石けんを普及させることが持続可能な社会の実現に貢献すると考えているため、より一層、石けんのよさを知っていただけるよう、啓発活動を地道にやっていきたいと思います」