世界を席巻するコカ・コーラを地元の炭酸飲料が打ち負かした国がある

世界を席巻するコカ・コーラを地元の炭酸飲料が打ち負かした国がある


資本主義の象徴ともいえるコカ・コーラは、社会の変化と共に世界中の国々を侵略しており、ベルリンの壁が崩壊した際には東ドイツのローカルドリンクである「Vita Cola」を駆逐し、ポーランドなどでも同様の現象が起こっています。しかし、インドでは社会主義から自由市場への変化を受けてコカ・コーラが販売されるようになっても、「Thums Up」と「Limca」という2つのローカル炭酸飲料が生き残るという珍しい展開になっています。

When India Kicked Out Coca-Cola, Local Sodas Thrived - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/what-is-thums-up

1947年にインドがイギリスから独立すると、初代首相のジャワハルラール・ネルーは国家が経済を主導する計画経済を推進し、企業の私有は認めるものの民間部門に厳しい規制をかけました。その中でPure Drinks Groupがコカ・コーラをインドに持ち込み、続いてペプシコーラも登場しました。ペプシコーラは売上低迷のため1962年に撤退していますが、コカ・コーラは政府の規制の中でも成長を続け、都会から田舎まで、インド中で飲まれるようになり政治家たちはうろたえたといいます。

しかし、第5代首相のインディラ・ガンディーが非常事態宣言を発動し、反対勢力を強権で排除して野党党員を逮捕・入獄させた後、インドの経済は不安定になりました。1977年に「反・インディラ」を掲げるジャナタ党にインディラ・ガンディーは政権を譲り、ジャナタ党の一人であり後の国防大臣であるジョージ・フェルナンデスはコカ・コーラをインドから排除しました。1992年にフェルナンデスはニューヨーク・タイムズの取材に対し「私が1977年にコカ・コーラを追い出した時、インドの村の90%には安全な飲み水がありませんでした。にも関わらず、コカ・コーラは全ての村にあったのです」「本当にコカ・コーラやペプシ・コーラが必要でしょうか?」と語っています。

大手の飲料会社が撤退すると、そこに生まれた穴を埋めるように地元の飲料会社が台頭しはじめます。ムンバイを本拠とするParle Groupは「Thums Up」と「RimZim」という飲料を発売しコカ・コーラの穴を埋め、レモネードのような「Limca」や「Citra」がスプライトの穴を埋めました。それぞれの飲料が大きな成功を収めましたが、特にThums Upは、他の飲料とは異なり、甘さ控え目でスパイシー、かつ発泡性が高いことで、人気が爆発しました。


以下がレモネードっぽいLimca。


しかし、1980年代に入り、インドの経済的孤立が和らぎ始めると、再び海外の企業がインドに戻り始めます。インドのスポンサーだったソビエト連邦が崩壊し経済支援がなくなると経済自由化が行われ、ペプシは名前を「Lehar Pepsi」というインド風にして1990年に復活しました。歴史家のBenjamin Siegel氏は1991年の経済自由化について、「自由化が一晩にして国を変えてしまったといっても誇張ではない」と語っており、1つしかなかったテレビのチャンネルが急に増え、数種類しかなかった炭酸飲料も急激に種類が増加したとしています。

このような状況の中でペプシとThums Upはブランド戦争に突入。ペプシはThums Upについて広告の中で「薬のような味」とけなし、一方でThums Upは「雷のような味」という新しいスローガンを打ち立てました。このスローガンによってThums Upは自らのアイデンティティをよりエッジのきいた、「男性的なソーダ」として確立します。スリルを追い求めることをアピールするThums Upのブランディングは、炭酸飲料をよく飲む10代の少年たちだけでなく、自由化され多くの可能性にあふれたインドの消費者全体に対しても訴えるものとなりました。Thum Upはインド版の「コカ・コーラ」になったわけです。


Thums Upのタイムリーで刺激的なマーケティングは、ペプシを打ち負かすだけでなく、インド国民の自尊心をかきたてたといいます。インドが世界に開かれることで、国民は自分たちの文化を強く意識するようになり、インドのブランドを支持することへの感情的な衝動を引き起こしたとのこと。

しかし、コカ・コーラは1993年にインドに再参入すると、ParleからThums Upを買収し、すぐにCitra・Gold Spot・RimZimというローカルブランドを殺してスプライトやファンタのための市場を開拓し始めました。だからといってローカルな飲料が全てなくなってしまったわけではく、Thums Up やLimcaといった飲料はいまだに飲み続けられています。どんなに新しい選択肢が増えても、これらの飲料は、「インドのスパイシーな食べ物とよくあう味」「インドの国民的なレモネード『nimbu paani』を思わせる見た目」という特有の理由から、人気は安定し続けるとみられています。

2019年2月時点で、インドの炭酸飲料市場のトップに君臨するのはThums Upであり、その後にスプライト、ペプシ、コカ・コーラ、Limcaが続きます。この順位はローカル炭酸飲料が政治的、経済的な動乱を生き延びてきた現れであり、「味」以外の要素、国家の動乱の中で変わらない「慣れ親しんだ味」がその人気の理由となっているとのことです。
Photo by Satish Krishnamurthy


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