生理前になると、些細なことでイライラしたり、泣きたくなったりしてしまうことはありませんか? いつもなら我慢できることが我慢できなくて、感情のコントロールが効かなくなって、もう自分が自分じゃないみたい……。もしかしたらそれは、PMDDの症状かもしれません。

今回は、薬剤師の碇純子さんに、生理前の激しいイライラや気分の落ち込みの原因となるPMDDについて教えてもらいました!

知っていますか? PMDD(月経前不快気分障害)

PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)とは、PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)の症状のなかでも精神症状が際立って強くあらわれている状態のことです。

比較的新しく作られた名称で、PMSに比べて認知度もまだまだ低め。有病率は生理のある女性の1.8〜5.8%で「PMSの重症型」とみなされています。

PMDDの症状

PMS及びPMDDの症状は通常、生理の3日〜10日程前からあらわれ、生理が始まると徐々に治まっていきます。PMS及びPMDDは共に生理前に見られる身体的・精神的な不調を指しますが、PMDDはPMSのなかでも特に精神不調が重く、日常生活に影響を及ぼすのが特徴です。

PMSの症状

身体不調:イライラ、のぼせ、下腹が張る、下腹痛、腰痛、頭が重い、頭痛、乳房の痛みなど。

精神不調:怒りっぽくなる、落ち着かない、憂鬱になるなど。

PMDDの症状

精神不調:イライラや不安、気分の落ち込み、集中力が続かない、激しい眠気など。

PMDD症状の精神不調が続くことで、過食・拒食になってしまったり、うつ症状が出てしまったりすることも。

PMDDの原因

PMS及びPMDDの原因は、ホルモンバランスの乱れにあるとされています。排卵後に、女性ホルモンのエストロゲンが減少するのにともない、精神を安定させる脳内の神経伝達物質であるセロトニンも減少するため、精神不調があらわれると考えられています。

加えて、ストレス、飲酒、喫煙などの生活習慣や、肥満、うつ病、不安神経症、パニック障害などの既往歴もPMS及びPMDDを悪化させる要因となります。PMDDに苦しまないようになるためにも、規則正しい生活を心がけ、ストレスをため込まないよう気を付けましょう。

PMDDは人間関係に影響することも

PMDDは、自分が大変なのはもちろんのこと、周囲の人間関係にも影響を与えてしまう可能性もあります。ストレスを感じやすい職場では、PMDDの症状が強くあらわれてしまうことがあります。上司からの注意で思わず涙が出てしまったり、部下のミスがどうしても許せなくて怒りすぎてしまったり、そんな自分がいやになって落ち込んでしまったり。

普段ならスムーズにこなせる仕事もなかなか進まなくなってしまいます。反対に、職場では普段通り振舞えるけれど、パートナーや家族には当たり散らしてしまう、という人も。信頼している相手だからこそ、「自分を理解してほしい」という思いから、ひどく落ち込んだり強く当たったりと、感情が爆発してしまうことがあります。

また、就職、転職、引越し、パートナーができるなど生活に変化があるときも要注意。小さなストレスが重なり、症状が出やすくなる場合があります。

PMDDはどこに相談すればいいの?

PMDDがつらいときは医療機関を受診するのも1つの方法です。何科を受診すべきか迷うことも少なくないため、ここではPMDDの受診先と治療方法を紹介します。

婦人科
PMDDは排卵後のホルモンバランスの乱れによって引き起こされるとされているため、ホルモンの変動を抑える治療が有効だとされています。婦人科を受診し、低用量ピルや低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)を処方してもらうことで、症状の緩和が期待できます。

精神科/心療内科
PMDDの原因はホルモンバランスの乱れにありますが、症状自体はうつ症状に似ています。そのため、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬を適切に服用し、セロトニン濃度を高めることで、症状が軽くなる場合があります。医師のアドバイスやカウンセリング、薬物療法など、自分にあった治療方法を提案してもらいましょう。

生理前の気持ちを落ち着かせるセルフケア

「医療機関を受診するのに抵抗がある」「医療機関を受診する時間がない」という人は、まずは手軽にできるセルフケアから始めてみましょう。実は、PMDDは日常生活のちょっとした工夫で緩和できるんです。

食事

排卵後に減少したセロトニンは食事で補完することができます。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから作られます。トリプトファンはタンパク質が多く含まれた食品からできているため、肉や魚、乳製品や大豆製品を積極的に摂るようにしましょう。

また、カルシウムも精神状態と深く関わっているといわれているため、牛乳、チーズなどの乳製品、魚介類、海藻、大豆製品なども献立に入れてみましょう。カフェインやアルコールなどの刺激物は、PMDDを助長する原因になりやすいため、できるだけ控えたほうが良さそうです。

運動

セロトニンを増やすには、日光を浴びることや、ヨガやウォーキングなどの適度な運動をすることが有効であると知られています。天気が良い日に散歩をしたり、室内で軽くストレッチをしたりするだけでも、気分転換になりますよ。

また、少し息が上がる程度の有酸素運動を行うと、多幸感をもたらすエンドルフィンが分泌されます。エンドルフィンは気分が高揚したり苦痛や痛みを感じにくくしたりする効果があるため、運動が好きな人は、心が不安定なときこそ体を動かしてみてください。

入浴

好きな入浴剤を入れて、バスタイムを満喫するのはいかがでしょうか。入浴により血行がよくなりますし、よい香りは心を落ち着かせます。とくに、ラベンダーやオレンジスイート、サンダルウッド、フランキンセンスの香りは、副交感神経を優位にさせて気持ちを落ち着かせるため、リラックス効果が期待できます。入浴剤選びの参考にしてみてください!

漢方薬

慌ただしい毎日のなかで食事や運動習慣を見直すのはなかなか難しいですよね。そんなときには、漢方薬を取り入れてみるのがオススメです。生理前のメンタル不調対策には、「ホルモンバランスや自律神経の乱れを整える」「鎮静作用で心を穏やかにする」「消化・吸収機能を改善して体の内側から心を元気にする」などの生薬を含む漢方薬を体質や症状に合わせて選びます。

漢方薬で心と体のバランスを整えることで、生理前のイライラや気分の落ち込みだけでなく、月経痛や月経不順などのさまざまな不調の根本改善を目指すことも可能です。

PMDDにオススメの漢方薬

加味逍遥散(かみしょうようさん)
イライラ、気分が落ち込むなど、女性ホルモンの変動によって起こりやすい精神不安の症状や、のぼせ、いらだちなどに有効です。

抑肝散(よくかくさん)
怒りっぽい、イライラするなどの精神症状を抑えます。神経がたかぶりやすい方にオススメです。漢方薬は、自分の体に合ったものを選ぶことがとても大切です。体質と漢方薬の相性がよくないと、効果が得られなかったり、副作用が生じることもあります。そのため、初めて飲むときは医師や薬剤師に相談しましょう。

最近では、オンラインで漢方薬について相談できる「あんしん漢方」のようなサービスもあります。スマホから10分で問診が完了。体や心の不調を書き込むだけで、あなたの悩みや体質に合わせた漢方薬を提案してくれます。いつも忙しいあなたでも簡単に漢方薬を始められますよ!

大切な体のことだから……

生理前の不調を感じる人は全体の70〜80%に及ぶといわれています。生活習慣の改善やストレスをためない生活を送るのが一番ですが、仕事やプライベートで忙しい毎日では理想通りにはいかないものです。症状がつらいときは、医療機関や漢方薬に頼ってみましょう。いろいろ試しながら、自分に合った解決法を見つけてみてくださいね。