Image: 巽英俊

イヤホンやヘッドホンのカタログを見ていると、なんだかいろいろなスペックが掲載されています。実際にはスペック的に優れているイヤホンがそのまま「音がいい」とは限らないのですが、このスペックを読み取れると、ある程度はその製品が志向するサウンドの傾向がわかるかもしれません。

その手助けとして、イヤホン&ヘッドホンのスペックが何を意味しているのかを、ざっくり解説していきます。

ドライバー

ドライバーは電気の流れとして伝わった音声信号を、空気の振動に変換して耳に伝えるパーツで、イヤホンの心臓部です。ドライバーのサイズが大きいほど多くの空気を振動させることができるので、低域の再生が有利になります。現実の楽器だって、例えば小太鼓よりもドスンと低い音を出す大太鼓はサイズがでかいわけで、あれと同じことです。

このドライバーにもいくつか種類があります。主だったところでは…

⚫︎ダイナミック型:ボイスコイルが電気信号を受け、ダイアフラム(振動板)を動かして音を再生するタイプ。昔からあるオーソドックスな型式で、パワフルなサウンドが得意。

⚫︎バランスドアーマチュア型:アーマチュアと呼ばれるU字型の金属片で、ボイスコイルと磁石を挟んでいる。もともとは補聴器で使われていた型式で、繊細でクリアなサウンドが持ち味。

⚫︎ハイブリッド型:ダイナミック型とバランスドアーマチュア型の掛け合わせ。イマドキはドライバーを4つも5つも内蔵して、それぞれに低域・中域・高域を役割分担させている製品も多い。

…が挙げられます。うどんイヤホンなどは、あんな小さな筐体に何個ものドライバーをセットしていますが、その技術は本当にすごいと思います。

出力音圧レベル

1mW(ミリワット)の電気信号を入力したときの再生音量を示す数値で、dB/mW(デシベル/ミリワット)という単位で表します。例えば、同じスマホ・同じボリュームで再生したとしても、この数値が大きいイヤホンほど音が大きいわけです。それだけ能率が良く、イヤホンの駆動に余裕があるということになります。

出力音圧レベルが高い方が、いわゆる「よく鳴る」「鳴りがいい」というイメージだけど、それが必ずしも音質の良し悪しにつながるわけではありません。

周波数帯域

再生可能な周波数の範囲を示します。一般的に人の耳が聴こえる周波数の範囲は、20Hz(ヘルツ)〜20kHz(キロヘルツ)くらいと言われていますが、ピークは20代までで、加齢と共に徐々に高域の聴力が落ちていきます。

ちなみに、私などは昔から耳が悪く、こないだチェックしたら上は12kHzくらいまでしか聴こえてなくて愕然としました。長年大音量を聴き続けているレコーディングエンジニアやミュージシャンにも、聴力が落ちている方は多いです。イヤホンで恒常的に大音量を聴いていると、聴力はどんどん悪くなっていきます。耳は消耗品なので大事にしましょう。

たいていのイヤホンは20Hz〜20kHzくらいのスペックはクリアしていますが、なかには上が40kHzくらいまで伸びている高性能な製品もあります。「20kHzまでしか聴こえないんでしょ?」と思いきやさにあらず。ここで大事なのがハイレゾ音源などに含まれている高域の倍音なんですね。

音というのは基音以外にもさまざまな周波数の複合音が含まれていて、オクターブ上単位の倍音などが複雑に絡み合って構成されています。倍音についてはこの動画などを参照してみてください。

CDは44.1kHz/16ビットという情報量で記録されたメディアですが、ハイレゾは96kHz/24ビットなどのさらに大きな情報量で記録されています。ハイレゾを実際に再生すると、高域の倍音は本来聴こえないはずの40kHz以上まで伸びていますが、これをレコーディングスタジオなどのセッティングの良い環境で聴かせてもらうと、ポンコツな私の耳でさえ、なぜか「高域のきめ細かさが違う!」って感じられるわけですね。

歩きながらMP3音源を楽しむ程度ならほとんど差は感じられないでしょうけど、家でじっくりとハイレゾサウンドを楽しみたいって人であれば、特に上の周波数帯域が伸びている製品をチェックしてみる価値はあるかもしれません。

ソニーWI-1000XM2の周波数帯域は3Hz〜40kHzで、ワイヤレスなのにハイレゾ再生に対応している
Image: SONY ソニー ワイヤレスノイズキャンセリングイヤホン WI-1000XM2 : ハイレゾ対応 38,401円 Amazonで見るPR !function(t,e){if(!t.getElementById(e)){var n=t.createElement("script");n.id=e,n.src="https://araklet.mediagene.co.jp/resource/araklet.js",t.head.appendChild(n)}}(document,"loadAraklet")

最大入力

イヤホンにどれだけの電流を突っ込めるかをmW(ミリワット)単位で表したスペックです。この数値が低ければ、大音量にしようとボリュームを上げると、ドライバーが飛んでしまって壊れちゃうわけですが、イマドキの製品であればほぼそんな心配はないので、あまり気にしなくてもいいでしょう。あえて言うとすれば、この数値が大きい方が、大音量で再生しても歪みが起こりにくいです(しかし歪むくらい大音量のイヤホンで聴いてたら、すぐに耳がやられちゃうでしょうが)。

インピーダンス

電気抵抗の大きさを表す数値です。「抵抗」ということは、入ってきた電気信号をできるだけ流さないようにするということ。インピーダンスの数値が大きくなれば、それだけ電流は流れにくくなり、イヤホンの再生音量は小さくなります。

なんでわざわざそんな邪魔くさいことをするかというと、これはノイズ対策のフィルター的な側面が大きいです。抵抗を大きくすることで、ノイズ成分を多く取り除くことが可能になります。小さくなってしまった本来の信号は、能率の良いドライバーを介することで大きく鳴らすって感じです。

インピーダンスはΩ(オーム)という単位で表されますが、一般的なコンシューマー向けイヤホンだと16Ω〜32Ωくらいの製品が多いです。一方で室内リスニングを前提とした高額なハイファイヘッドホンだと、数百Ωなどという製品もあります。それだけノイズが低減されるわけですが、そのまま鳴らしても音量が小さすぎるケースもあります。そのために十分な電流に増幅するためのヘッドホンアンプという機器を併用したりします。

非常にざっくりした感じではありますが、この辺はイヤホン&ヘッドホンの基礎知識です。ただ前述のように、こうしたスペックの優劣だけで音の良し悪しが決まらないのが、オーディオの面白いところ。コンシューマー向けのイヤホンはメーカーによって「味付け」の個性が強く、それが自分の好みに合致しているかがポイントになります。

特に最近の低価格イヤホンは、ボーカルの帯域再生にぐっとクローズアップしているものが目立ち、歌の臨場感や生々しさは感じ取れるんだけど、楽曲全体の馬力感やダイナミズムがイマイチってこともままあります。私は個人的にそれだとキビシイのですが、よく聴く音楽ジャンルの傾向次第では、そういう音が好きだって人もいるでしょう。要は好みの問題なので、量販店などで試聴させてもらうのが重要ですね。着け心地も音質同様に大事なファクターですし。

余談ですがApple(アップル)のAirPodsは、こうした周波数帯域などのオーディオスペックを一切公表していません。ちゃんといい音鳴るんだから使ってみてくれって自信の表れだと思います。数値を気にしすぎても意味がないってことでしょう。

オーディオスペックを公表していないApple AirPods Pro
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イヤホンが提供する没入感は、音楽のフォーマットすら変えつつあって、実際にイヤホンで聴かれることを前提としたようなミキシングを施した楽曲も目立ちます。

でも、できれば、たまにでいいから、イヤホンでなくスピーカーから鳴らした音も体験してみてほしいです。スピーカーじゃないと表現できない立体感、音本来の魅力である全身で感じる空気の振動やボディソニックって、やっぱり何ものにも代え難いですからね。