1月に発足したバイデン米政権は日韓両国に対して、日米韓3カ国が協力する重要性を繰り返し説いている。トランプ政権で弱体化した同盟関係を再び強化し、北朝鮮や中国の脅威に備えたい思惑があるが、日韓関係が悪化した状態ではそれもままならない。アメリカはこの地域に対してどんな戦略を持ち、日韓はそれにどう反応しているのか。在日米軍と在韓米軍に勤務した経験を持つ米民主主義防衛財団(FDD)のデビッド・マクスウェル主任研究員らの話を交えて探った。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

米国務省は2月10日の日米外相会談と12日の米韓外相会談で、それぞれ日米韓協力の重要性を確認したと説明した。

マクスウェル氏は米国が日米韓協力を望む理由について「日本の戦略的な環境」を挙げる。「北東アジアで起きた事態が日本に影響を及ぼす可能性が高い。有事での米国の対応も、日本に拠点を置く米軍を頼みとしている。特に、北朝鮮が韓国を攻撃した場合がそうだ」と語る。

日本政府や自衛隊のなかには、朝鮮半島有事について「自衛隊が協力する相手は米軍だ。韓国軍に協力するわけではないので、日米韓協力は必要ない」(自衛隊幹部)という声もある。

この指摘について、マクスウェル氏は「大きな誤解だ。北東アジアで1カ国に影響を及ぼす有事は、他の2カ国にも影響を及ぼす」と反論。具体的には、日米韓による統合ミサイル防衛システムの構築の重要性を訴える。

■中国、北朝鮮への距離感にずれ

一方、日本政府関係者の一人は、米国が日米韓協力を訴える背景について「有事対応だけではなく、現時点での北朝鮮の核・ミサイル問題に対応する枠組みの中心にしたい思惑があるようだ」と指摘する。

バイデン政権は現在、北朝鮮問題の政策レビューを行っている。バイデン大統領は選挙戦中、トランプ政権の北朝鮮政策を批判しており、米朝の直接対話には慎重だとされる。この日本政府関係者は「かといって、中国の影響力が強い6者協議(日米中韓ロと北朝鮮による、かつての交渉の枠組み)には戻りたくない。北朝鮮と交渉する際に、日韓にも役割分担させたいのではないか」と語る。

民主主義防衛基金(FDD)のデビッド・マクスウェル上級研究員=FDDホームページから

ただ、韓国の文在寅大統領は日米韓協力や米韓同盟の重要性を強調する一方で、同時に北朝鮮への経済協力の道も模索している。1月の記者会見では、米韓合同軍事演習の実施について、南北軍事委員会で北朝鮮と協議できるという考えも表明。米政府元高官らが、米国メディアで「同盟国である米国に対し、不適切な発言」と反発した。米国が日米韓協力を強調する背景には、韓国の北朝鮮への接近を阻止する狙いもありそうだ。

また、米政府の元当局者は「米国が3カ国協力を訴える背景には、北朝鮮はもちろん、中国への備えにしたい考えがある」と語る。米国務省は、2月の米韓外相会談で米韓同盟について「自由で開かれたインド太平洋、世界の北東アジアの平和、安全、繁栄の要だ」と確認したと説明した。元当局者は「中国を意識した表現だ」と説明する。

ただ、2月4日に行われた米韓首脳電話会談では、中国を巡る認識の食い違いが生まれた模様だ。韓国大統領府は「韓米両首脳は、韓日関係改善と韓米日協力が域内の平和と繁栄に重要だという点で一致した」としたが、中国については「ミャンマー、中国などその他地域情勢についても意見を交わした」とだけ言及した。ホワイトハウスの発表には、「中国」という文字すらなかった。

米政府の元当局者は「中国に対するバイデン大統領と文大統領の認識が食い違ったのだろう」と語る。中国問題は、米韓双方の強い関心事項であり、見解が一致すれば、当然アピールするのが自然だからだ。

実際、日米首脳電話会談の結果については、外務省もホワイトハウスも、報道資料で「尖閣諸島に日米安保条約第5条が適用される」と明言している。

こうしてみると、米国は北朝鮮や中国への対応を強化するため、日米韓協力の重要性を模索し、日本はこれに応じているものの、韓国の対応に手を焼いていると言えそうだ。

■「最低水準の日韓関係」

米国にしてみれば、日米が協力して韓国を説得したいところだが、日韓関係の悪化が邪魔をしている。米議会調査局(CRS)は 2月2日に公表した報告書で、日韓関係が数十年ぶりの最低水準にあると指摘。日米韓の政策調整能力が弱体化していると指摘した。

1月27日の日米外相電話会談では、米国務省が日米韓協力についても触れたとしたが、外務省の資料にはなかった。茂木敏充外相が1月29日の記者会見で「議事録のように網羅するわけではない。地域情勢に対する認識は変わりない」と説明する事態になった。

日本政府関係者の一人はあえて、外務省が日米韓協力に触れなかった理由について「現在の日韓関係を考えた場合、韓国側にあれこれ詮索されるのを避けたのではないか」と語る。一部には、韓国への譲歩を嫌う自民党の強硬派などを意識した結果ではないか、という声も出ている。

詳細は不明だが、いずれにしても、日本政府は、徴用工と慰安婦両判決問題などでこじれた関係について、韓国側がまず譲歩すべきだという姿勢を崩していない。日米韓協力についても、日本が米国と一緒に韓国を説得するという構図はあり得ないのが現状だ。韓国の文在寅大統領は3月1日、独立運動を祝う記念演説で日本と対話する考えを繰り返し強調したが、徴用工・慰安婦両判決問題での具体的な解決策は示さなかった。日本政府関係者は「これでは、歩み寄りようがない」と語る。

2019年の日中韓首脳会談は中国で開催された。会談前に記念写真におさまる(左から)韓国の文在寅大統領、中国の李克強首相、安倍晋三首相(当時)=2019年12月24日、中国・成都、代表撮影

マクスウェル氏は日米韓協力だけではなく、日韓が安全保障分野で直接協力することの重要性も説く。同氏は、韓国が2019年に破棄に傾いた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の必要性を強調。「米国を仲介者としない日韓の直接的な情報共有によって、安全保障と防衛がより効率・効果的になる。米国を仲介者にすると、誤解や誤算、さらには壊滅的なレベルでの間違いを犯す可能性を残してしまう」と語りかける。

日米関係筋によれば、バイデン政権は現在、日米韓3カ国による外相会談や外務次官協議の構想を持っている。ブリンケン国務長官も新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き次第、日韓などを歴訪したい考えだ。ただ、日韓関係があまりにも険悪な状態に陥っているため、米国も3カ国協議について言い出すに言い出せない状況なのだという。

マクスウェル氏は「バイデン政権は、日本と韓国は対立を克服できると考えている」と語る。そのうえで「文大統領と菅義偉首相は、両国の歴史問題を管理することを約束しつつ、断固たるリーダーシップを発揮して、安全保障と国家の繁栄を優先しなければならない。両首脳は、安全保障と国家の繁栄よりも歴史を巡る憎しみを優先させる政治的な風土に立ち向かうべきだ」と説いた。