少数民族ウイグルへの人権侵害をめぐり、中国政府に対する国際的な非難が高まっている。この問題に2年前に注目し、問題の深刻さを漫画で訴える日本人の女性がいる。清水ともみさんだ。

在日ウイグル人らの証言などを元に描き、Twitterで発表したところ、瞬く間に拡散。香港で起きた反政府デモでも、印刷されて現場に掲示されるなど共感が広まった。

漫画は書籍化もされた。中国政府が否定し続ける中、勇気を振り絞って描いてきた原動力とは何か。清水さんに聞いた。

――ウイグル問題に関心を持った経緯を教えて下さい。

2017年ごろ、インターネットで見た報道番組がきっかけです。新疆ウイグル自治区で深刻な人権弾圧が行われていると、日本のジャーナリストの方がリポートする内容でした。

番組内では、ウイグル人たちが移植用に臓器を摘出されている疑いも指摘され、自治区にあるカシュガル空港には臓器専用の通路もあったとの情報も報じられました。

衝撃的でした。それから自分でもネットなどで情報を集めるようになり、一人でも多くの人に惨状を知ってもらいたいという思いが募りました。

そんなとき、ふと思い出したことがありました。NHKで2007年ごろにやっていた、関口知宏さんの中国を鉄道で旅する番組です。

彼が自治区にいく回があって、広大な綿花畑でひとり作業をしている女性ににこやかに話しかけるのですが、女性は表情も変えず、無言。あまり目もあわせないような感じでした。

普通は外国人であっても話しかけたら、何らかの反応はしますよね。その時の違和感を思い出し、人権侵害の問題と直感的に結びついたんです。

もう一度放送を見たいと思っていたところ、2018年ごろに再放送されたんですね。それを見て「ああ、これはもう描くしかない。天命だ」と決心しました。

その翌年、番組に登場したウイグルの女性をモデルにした電子版の漫画作品「その國の名を誰も言わない」を完成させました。

職業訓練センターと呼ばれる施設にたくさんのウイグル人が収容され、人権弾圧が繰り返されている状況を描きました。

清水ともみさんの漫画「その國の名を誰も言わない」=本人提供清水ともみさんの漫画「その國の名を誰も言わない」=本人提供

――漫画という手法を使ったのはなぜですか。

私は20年ほど前、漫画家としてデビューし、主に少女漫画を描いていました。出産や子育てがあったのでいったんやめていたのですが、その経験を生かすことができるんじゃないかと思ったんです。ウイグルの問題を漫画に描いたら伝わりやすいんじゃないかと。

最初の作品はすぐに日本に暮らすウイグルの人たちの間で話題になったようで、ウイグル人たちからも「また描いて下さい」と励まされました。

その時は正直、また描くのは無理だと思っていましたが、ウイグル人に誘われて在日ウイグル人の証言集会に参加し、中国政府によって施設に収容され、ひどい扱いを受けたウイグル人女性の証言を聞いて考えが変わりました。

彼女はミフグリル・トゥルソンさんという方です。留学先のエジプトから中国に戻った際、突然当局に拘束、施設に収容され、拷問などを受けたというのです。

彼女はインターネットを通じて会場に向かって語りかけました。会場では写真撮影も録音もできませんでした。あまりの内容に、途中から私は必死にメモを取りました。

彼女の話が終わった後、ある参加者が「私たちになにかできることはありませんか」と質問しました。別の証言者である在日ウイグル人が「今日聞いたことをぜひ広めて下さい」と答えていました。最後は、その言葉が私の背中を押しました。

毎日1時間ずつ時間を作り、約1カ月で描き上げました。Twitterとnoteに投稿したところ、ものすごい反響で。「初めて知った」「信じられない」といった反応をいただきました。

ウイグル人の人権問題を扱った清水ともみさんの漫画「私の身に起きたこと」のページ。四つのコマがあり、中国当局によって拘束された当時29歳のウイグル人女性が登場。最初のコマで「2017年以降よりまだ 少しはましだった頃の話です」と語りはじめ、「私は29歳 ウイグル人です」「5年前エジプトで結婚し」「三つ子を授かり幸せでした」と続く。ウイグル人の人権問題を扱った清水ともみさんの漫画「私の身に起きたこと」=本人提供

――そんな反響はどんどん大きくなり、出版もされましたね。

はい。出版だけでなく、有志の方により各国語にも翻訳されたり、米国務省の広報ページへの掲載や、日本のアメリカ大使館などからサイトに掲載したいとの打診がありました。

2019年に香港で起きた反政府デモ参加者たちが様々なメッセージを掲示する「レノン・ウォール」に、私の漫画をはってくれた人もいました。

作品の主人公であるトゥルソンさんとメールでやり取りもする機会がありました。彼女はとても喜んでくれ、「うれしいけれど、見ると涙が出る。私とウイグル人のために尽力してくれるあなたを応援している」と言っていただきました。

――ウイグル人の人権問題については、中国政府はかたくなに否定しています。そんな中、漫画にすることに恐怖はありませんでしたか。

1回目のときは迷いはありました。いざネームを作り始めたものの、正直言ってやっぱり怖かったです。私にも家族がいますし。作品を発表するか、悩みました。

発表から1カ月後、自宅のインターホンが午前3時ごろ連続して鳴ったこともありましたし。

でも2回目のときは、トゥルソンさんの証言があまりに衝撃的で、知ってしまった以上、描かずにはいられないという思いでした。

パソコンで漫画を制作する清水ともみさんの写真。奥に漫画が映し出されたノートパソコンがあり、手前に後ろ姿の清水さんが写っているパソコンで漫画を制作する清水ともみさん

――ウイグル人の人権問題をめぐっては国際世論も大きく動いてきました。

いつの時代でも政治を動かしてきたのは世論だと思っています。まずは現状がどうなっているかを一人ひとりが知ることから始まるのだと思います。私もそうだったように。

遠い国の可哀想な人たちの話ではないんです。日本の隣の国で起きていることなんです。台湾の人も香港の人たちもしっかり反応しています。知らないのは日本人ばかり、ということになって欲しくないです。

ウイグル人の人権問題を扱った清水ともみさんの漫画「私の身に起きたこと」=本人提供ウイグル人の人権問題を扱った清水ともみさんの漫画「私の身に起きたこと」=本人提供

――現在、手がけたウイグル関係の作品は八つになりました。今後も描く予定はありますか。

はい、私が漫画で伝えることが必要だと思うことがあれば描きたいと思いますし、今後は中国政府による南モンゴルの人たちの人権弾圧について漫画にしたいと思っています。