少し前まで女性が「主人が〜」と人前で言ってもなんの問題もありませんでしたが、世の中がジェンダー問題に敏感になってきている今、ツッコミを入れられることもあります。

「主人」という言葉に違和感を覚える人は増えてきているため、既婚の女性と話す際に「ご主人は〜」と言うことにも気を付けなければいけない時代になりました。

今回は日本と海外を比べながら、時代の流れに伴い、変化しつつあるジェンダーがらみの「言葉」にスポットを当ててみたいと思います。

「旦那」という言葉はかつてパトロンのような意味合いで使われていたため対等だとは言えず、「相方」は漫才を思い出してしまいます。

最近は配偶者のことを対外的に「パートナー」と呼ぶ人が増えた印象です。確かに対等な関係を思わせる言葉ではあるものの、日本語ではない横文字であることが気になります。

そのため筆者は少し前に「対外的には『夫』を使おう」と決めたはずでしたが、言葉というのは不思議なもので、つい「今まで使っていた言葉」が口をついて出てしまいます。そんなわけで今でも「旦那」や「主人」を使っています。

先日はバラエティー番組に出演した俳優が「髪が伸びた時には自分で切ったり、嫁に切ってもらっている」と発言したことがSNSで非難されました。「嫁」という言い方が上から目線だというのがその理由です。

一昔前なら自然な呼びかけとして浸透していた「奥さん」という言葉も今の時代は問題視されることがありますし、男性が配偶者を「女房」や「家内」と呼ぶのを聞くこともあまりなくなりました。

「ジェンダーに配慮した言葉」(gendergerechte Sprache)

筆者の出身地ドイツでは夫は妻のことをmeine Frau(私の妻)、妻は夫をmein Mann(私の夫)とそれぞれ言います。

配偶者を示す表現は日本ほどバリエーションがないため、「配偶者の呼び方」にまつわる議論はあまり聞かれません。

その一方でドイツでは数年前から「昔から使われてきたドイツ語の文法は女性差別的なので見直すべきだ」という声が多く聞かれます。

たとえばドイツ語で、単数で「生徒」という言葉はSchüler(男子生徒)または Schülerin(女子生徒)です。

ところが複数形は女子生徒が入っていても、Schüler(生徒たち)であるため、「複数形を聞いた人が自動的に女性ではなく男性を頭に思い浮かべてしまう」ことが実験で分かっています。

男女平等の世の中を目指す際にこれは好ましくないことであるため、近年ドイツでは複数形を使う時にSchülerではなくSchülerInnenまたは間に星をつけてSchüler*innenと書くことが増えました。

またドイツ語で「人間」はder Menschですが、これは男性名詞であるため、「差別的だ」との声があります。

様々な言葉について「変えるべき」との意見も聞かれる一方、イデオロギーに合わせて言語を変えていくことは「言語の死を意味する」と警報を鳴らしている専門家もいます。

銀行の書類が「女性差別的」

現在83歳のMarlies Krämer氏は数年前、ドイツの銀行であるSparkasseに対して「申請用紙などで使われている言葉が男性形であるため、女性差別的である」「女性を組み込んだ言葉にしてほしい」として訴えを起こしました。

ドイツ語で単数の顧客はKunde(男性)またはKundin(女性)ですが、簡略化のため銀行の様々な書類や申請用紙には男性形のKundeしか記載されていないことが多いのです。

また口座所有者については、所有者が女性の場合、Kontoinhabeinですが、銀行は男性形であるKontoinhaberしか記載していませんでした。「女性が組み込まれていない」としてKrämer氏は訴訟を起こしましたが、2018年の判決では差別の意図がないと判断され、敗訴してしまいました。

しかしその際にドイツのJuristinnenbund(女性法学者協会)の会長が「将来的にドイツ語が平等な言語になることを祈っている」と発言し、訴えを起こしたKrämer氏の味方をしました。

過去にKrämer氏が勝訴したケースもあります。同氏は1990年代、ドイツでパスポート申請をする際に「パスポートの署名欄にInhaber(男性の所有者)という男性形しか載っていないのは間違いである。なぜかというと私は女性でInhaberin(女性の所有者)だからだ」と訴えました。裁判所は彼女の主張を認め、それ以来、ドイツのパスポートの署名欄には女性形であるInhaberinも記載されるようになりました。

ドイツのパスポートの見本。署名欄には、ドイツ語の女性形Inhaberinが記載されるようになった=Wikimedia Commonsよりドイツのパスポートの見本。署名欄には、ドイツ語の女性形Inhaberinが記載されるようになった=Wikimedia Commonsより

昔から「標準語のまち」として有名なHannover市では2019年より市の職員がメールや手紙、プレスリリース、申請用紙や告知の書類等のなかで「ジェンダーに考慮した言葉」のみを使うようになりました。

Lehrer(「先生」の複数形)という言葉を使うと、「男性の先生を思い浮かべてしまう」という前述のような問題が起きてしまうため、Lehrende(教鞭をとる人々)という言葉に変えました。

Wähler(「投票者」の複数形)という、これまた男性を想像してしまいそうな言葉もWählende(投票をする人々)に変更しました。

言葉をジェンダーニュートラルにしたことは一部の人の怒りを買い、Hannover市には苦情も多く寄せられていますが、同市は第三の性にも考慮しながら今後もジェンダーニュートラルなドイツ語を使っていくとしています。

昔から使われてきた「言葉」を「平等を追求する現在のイデオロギーと切り離してとらえる」のか、それとも「多くの人が心地良いと感じることのできるよう時代に合わせて変えていくのか」が問われています。