いま欧州で、かつて姿を消していった夜行列車が次々と復活している。2020年にはウィーン〜ブリュッセル間、21年5月にはフランスのパリ〜南仏ニース間の路線が開通。今後も、続々と路線が復活する予定だ。そんななかで、オランダで夜行列車を専門とするスタートアップ企業が登場した。「資金調達のために株を売ったら、15分で売り切れた」という「夜行列車ムーブメント」の背景には、何があるのか。起業したエルマー・ファン・ブーレンさんにインタビューした。(聞き手・中村靖三郎)

ベンチャー企業は「ヨーロピアン・スリーパー」。幼い頃から夜行列車好きだった元鉄道会社員のブーレンさんら2人が起業した。提携する中欧の民間鉄道会社「レギオジェット」が車両と機内サービスを提供し、それ以外をヨーロピアン・スリーパーが担う。

鉄道は飛行機と比べ二酸化炭素の排出を9割以上抑えられるとのデータを示し、「二酸化炭素排出量を削減するための最も効率的な輸送手段」と強調。22年4月からブリュッセル〜プラハ間を週3回の運行からスタートし、その後、頻度を増やしていく計画だ。

【合わせて読む】夜行列車、ヨーロッパで次々復活 心をつかむのはノスタルジーだけじゃない

――欧州ではこの20年間、多くの夜行列車が採算が取れなくなり姿を消しました。なぜ今、夜行列車の会社を立ち上げたのですか?

まず、夜行列車が消えていった理由は、実は収益性が低かったからではありません。多くの鉄道会社が高速列車や国内・国際線、通勤列車、貨物列車など様々な業務を抱える中で、夜行列車に適切に投資してこなかったからです。その結果、車両が老朽化し、旅客数が減少してしまった。夜行列車が衰退したのは、需要がなかったからでも、もうからなかったからでもない。夜行列車の運営は複雑でコストも高く、採算をとるのは難しいですが、不可能ではありません。成功するにはニッチなプレーヤーになる必要がある。だから私たちは夜行列車のみに焦点をあてる会社を立ち上げました。

夜行列車に乗り込む乗客たち=パリのオステルリッツ駅、中村靖三郎撮影

――では、なぜ今、夜行列車なのですか?

多くの人びとが「旅行するなら持続可能な方法でなければならない」と考え始めているからです。(スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの抗議活動をきっかけに若者に広がった気候危機対策を求める)「フライデーズ・フォー・フューチャー・ムーブメント」が欧州で広まったことも大きい。

また、新型コロナウイルスのパンデミックが後押しして、人々は世界中を飛び回るのではなく、もっと地元の大陸内を旅行した方が良いと考え始めている。自宅で仕事をするようになって通勤時間が節約され、家族と過ごす時間も増やすことができた。人々は自分の時間をより賢く使おうと考え始めている。夜行列車もその考えとつながっています。

――どういうことですか?

夜行列車はベッドを置くことができる唯一の交通手段です。最速の移動手段ではないですが、寝ている間に移動できる。日中だけの移動では1日に800キロが限界ですが、夜も利用できれば移動可能距離は1200〜1500キロまで拡大する。
飛行機のように空港に行ったり、セキュリティーチェックの列に並んだり、機内で動けないこともない。夜行列車に乗り込めば、本を読んだり、会議の準備をしたり、旅のパートナーと話したり、子どもとゲームをしたり、少し出歩いたり、自分のために賢く時間を使えるのです。夜行列車の需要の増加を見ると、最速ではなく、最もスマートな交通手段を選ぶ人が増えていることがわかります。

――どんな人たちをターゲットにしていますか?

レジャー目的の旅行者、出張旅行、若者はもちろん時間のある年配者も、多様なターゲットが存在すると考えています。

欧州では、ますます多くの企業や公的機関が、一定の距離以内では飛行機ではなく列車を使うように方針を変更すると明らかにしています。こうしたビジネス旅行者をひきつけ、魅了するために、よりホテルに近い快適さを提供したいと考えています。

かつての夜行列車は6人用の客室を見知らぬ人と共有しなければなりませんでした。今後は、より快適に過ごせるプライベート空間が重要視される。そうしたニーズにあった宿泊設備の改良もしていきたい。

――具体的には?

面白い例では、既にオーストリアの鉄道会社が開発を始めていますが、日本のカプセルホテルのような客室を導入したいと考えています。これは狭い空間を完全に自分のプライベート空間にできる方法です。こうした開発を欧州のいくつもの鉄道会社が始めています。

パンデミックでデジタル会議(リモート会議)はスマートな方法だと考えられるようになったのは事実です。しかし、ビジネスでは相手の考えを本当に理解したいのであれば、どこかのタイミングで顔を合わせて会う必要がある。これからは、出張すると選択したときに、「もし行くのであれば、自分の時間やお金、相手の所にいく労力に本当に見合う最高の品質の旅行にしたい」と思うようになっていくでしょう。

オランダで夜行列車専門のスタートアップ企業を立ち上げたエルマー・ファン・ブーレンさん=本人提供

――夜行列車への注目はどのぐらい高まっているのでしょうか?

「ヨーロピアン・スリーパー」は私とクリス・エンゲルスマンの2人で始めました。2人でこのような鉄道会社を立ち上げるのは本当に信じがたいことです。では、実際にはどのように進んだのかお話します。

会社は21年1月に、協同組合として設立しました。資金調達のため、5月に株式を販売しました。販売開始日に、すべての準備が整い、パソコンの前に座って、午前11時に販売を開始しました。コーヒーを飲もうと席を立ち、15分後に戻ると、売り切れていました。私はどこか壊れているんじゃないかと思った。でも、問題は発生していなかった。370人から、250〜2万5000ユーロ(約3万2000〜320万円)の資金が集まり、計50万ユーロ(約6400万円)を調達できました。

事前の調査で投資への関心が高いことは分かってはいましたが、それでも驚きの結果となりました。株を購入できずがっかりさせてしまった人が約1000人いると考えています。

――どのような人たちが協同組合に参加しているのですか?

動機は様々です。自分で起業した人もいれば、夜行列車の会社を立ち上げるというクレージーな冒険を気に入ってくれた人もいます。「私はこんな知識があるので、あなたのプロジェクトを助けたい」「ボランティアで何かのお手伝いをしたい」「週に1日なら空いています」。そんなメールがたくさん届きます。多くの人が喜んで貢献しようとしてくれるのを見るのは非常に興味深いです。

私たちが協同組合の方法をとっている理由は、欧州での夜行列車の復活は、ユーザーや市民たちの動きから来ていると信じているからです。

――夜行列車のムーブメントは、従来の移動のあり方を根本から変えるようなきっかけになると思いますか?

そうなると思うし、そう願っています。気候危機を回避するためには、私たちは様々な考え方を変え、生き方を再考する必要がある。もちろん環境にとって最良なのは、旅をしないことです。しかし、すべてをデジタルで行うことはできない。

夜行列車の最も魅力的な点は、旅をし続けながら、かつ、正しいこともできるということです。持続可能性と経済活動は、互いに排除しあうものではなく、両立できる。この新しい経済のパラダイムを若い世代が理解し出している。夜行列車は過去に思いをはせるロマンチックな人たちだけのものだと言われていましたが、今はそうではありません。旅の手段としての夜行列車は小さなトピックの一つでしかないですが、この新しいパラダイムに貢献できると思います。