最高裁を変えるためのバイデンの茨の道
Biden’s Thorny Options for Changing the Supreme Court
2022年7月5日付 ワシントン・ポスト


アメリカ合衆国の最高裁に注目が集まっている。これは今期、最高裁の新しい保守派の多数派が、米国生活の全体に及ぶ雪崩のような変化を成し遂げた結果である。

そのsignature moment(特徴的な瞬間)は、約50年前にロー対ウェイド判決で裁判所が拡大した中絶の憲法上の権利を抹消したことである。

中絶判決は今期、high-profile(注目度の高い)、consequential(重要な)判決が相次いだ中で下された。あるコラムニストはそれを「calamitous(悲惨な)、tone-deaf(感覚の鈍い)判決」と呼んだ。この判決は、政教分離の壁を低くし、銃の権利を劇的に拡大し、気候変動やその他の問題に対する規制当局の能力をhobbled(妨害する)ものであった。ワシントンポスト紙の副編集長は、「最高裁がスピードバンプ(減速のために道路に設置する工作物)を無視することを決定した会期だ」と述べている。

これらの判決は、特定の政党を有利な立場にするゲリマンダー、白人ではない有権者に不利に動く投票法、支援キャンペーンや政治家への直接支払いにおける企業支出の自由な流れを認める最近の判決とともに、共和党の課題と同党の関心である権力保持に完全に合致するものであった。

最近出された多くの判決、特にロー判決の転覆は、保守派をelated(喜ばせ)、リベラル派をenraged(激怒させ)、裁判所が政府のもう一つの政治部門になることを懸念する議員、有名人、企業、や市民団体から抗議とcondemnation(非難)を引き起こした。

同性婚の許可や投票権の保護など、多くのアメリカ人の権利を拡大することに数十年を費やしてきた最高裁判所が、ある権利をroll back(後退させる)のを見て、多くの人がstunned(唖然とした)。Judicial restraint(司法抑制)や数十年にわたる裁判所のprecedent(判例)に敬意を払わないことが、特に懸念される。

■保守派が多数を占める新時代

クラレンス・トーマス判事(74歳)が最年長で、エイミー・コニー・バレットが最年少の50歳となった今期は、法廷における新時代の幕開けであると同時に、保守派の多数派を固めるための長年の努力のculmination(成就)と見るべきだろう。

ロー対ウェイド判決を覆す投票が示したように、ジョン・G・ロバーツ・ジュニア最高裁長官は、invigorated(活性化した)最高裁の保守派の多数派をコントロールすることにstruggles(苦心している)。ロバーツは、裁判所の機関としてのlegitimacy(正統性)を維持することを念頭に置き、裁判所の公平性のイメージを保つために、時にはリベラル派の少数派に味方することも厭わない。しかし、バレットが承認されたことで、ロバーツは、より積極的な保守的政策を追求することにむずむずしている裁判官が、彼の右側に5人もいることになった。もはや彼の票は必要ないのだ。

「今期、裁判所は共和党の政策目標、特に政治的プロセスで実現できない政策目標を達成しようと躍起になっていることが明らかになった」とある裁判所アナリストは言い、「自分たちのpet issues(持論)に取り組むために、裁判官たちはbending over backwards(全力を尽くしている)ようだ」とも付け加えた。

議会がgridlocked(閉塞)し、大統領が独自に行動する際に困難に直面する中、歴史的に政府の最も非政治的な部門である最高裁判所は、一見、社会を最も迅速に改革することができる部門になっている。最高裁は、長年にわたる保守派の目標を達成する態勢にあるが、その組織的地位には重大な代償を払うことになるだろう。

また、同裁判所に対して批判する人は、その右派の大多数が知的にcorrupt(腐敗)しており、反動的な政治課題をcloak(隠蔽する)ために不誠実な法理論を用いている、としている。法廷の保守派は、framers(憲法制定者)の意図を尊重して憲法を解釈しているに過ぎないとpurport(主張する)が、それは、例えば避妊や同性婚の権利など、憲法に明示されていない広範なプライバシー権を脅かしているように思われる。

■保守派が多数になった暗い背景

アメリカの右派による裁判所の武器化は、数十年にわたるconcerted(協調的な)努力と運動の最終結果である。

ロー対ウェイド裁判を覆すための種は、40年前に保守系法曹団体であるフェデラリスト協会が結成されたときにまかれた。その組織の主な目的は、保守的やリバタリアン的な価値観を代表する弁護士や裁判官をgroom(育成)し、リベラル派から国を取り戻すことであった。彼らは、選挙で選ばれたわけでもない政府の一部門である連邦最高裁判所を支配することによって、土俵を支配することを望んだのだ。最近選ばれた最高裁判事のほぼ全員がフェデラリスト協会と何らかの関係をもっている。

現在の状況は、ミッチ・マコーネル上院議員のせいでもある。彼は、長年の目標である最高裁の保守派支配を達成するために、一切の公正さを放棄したのである。

2016年に保守派のアントニン・スカリア判事の死去により、民主党のバラク・オバマ大統領が裁判所を左に動かす機会を得たとき、上院多数党院内総務であったマコーネルはそれを阻止した。オバマが指名したメリック・ガーランド氏の承認公聴会を、大統領選挙が8カ月先であることon the grounds that(を理由に)拒否した。その結果、空席を埋めることになったのはオバマではなく、共和党のドナルド・トランプで、ニール・ゴーサッチが判事になった。だから、4年後、選挙日のわずか6週間前に裁判所のリベラル派の代表格であるルース・バーダー・ギンズバーグが死去して空席ができると、マコネルはトランプ大統領が指名したエイミー・コニー・バレットを2020年の選挙の数日前に承認し、裁判所の保守派の多数派を強化することを急がせた。

トランプが一期で3人のstaunch(頑強な)右翼をfortuitous(思いがけず)任命したことで固定された保守派の法廷占拠は、何年も、おそらく何十年にもわたってアメリカを作り変えることになるだろう。

最近では、党派の所属と主要な事件での投票パターンが密接に関連している。先月出された中絶、銃、宗教、気候変動に関する判決では、共和党の6人の任命権者全員が多数決に賛成し、民主党の3人全員が反対票を投じた。最高裁は、右派的なアメリカ社会のビジョンを国全体に押し付けることを主な役割とする機関になってしまったと多くの人が感じている。

■低水準にある裁判所への信頼

最高裁の正統性は、判事が公平な法のarbiters(裁き手)であるという信念に影響を与えている。最近の世論調査では、回答者の62%が、裁判所は今や法律よりも政治に動かされていると考えていることがわかった。これは、最高裁判所が掲げる目的とは到底一致しない。さらに、先日のロー対ウェイド裁判がひっくり返る直前に行われたギャラップ社の世論調査では、最高裁の支持率は25%と歴史的な低さを記録している。

裁判所は世論ではなく法理を重視することになっているが、ローの判決は多くのアメリカ人の見解と一致しない。裁判所が判決を出した後に行われた世論調査によると、成人の56%がローを覆すことに反対している。世論調査対象者のうち、57%が「裁判所の判断はほとんど政治に基づいていると思う」と答え、36%は「ほとんど法律に基づいていると思う」と答えた。

このような正統性の欠如は、最終的に裁判所が憲法の解釈者、守護者としての役割を果たすことを妨げることになるかもしれない。

ロー対ウェイド裁判を覆しただけでなく、銃規制や学校での祈祷に関する判決もあることから、裁判所は常に、国民の大半から不人気な側に立っているように思われる。このことは、裁判所の役割に関する重要な問題を提起している。もし、国民の利益でなければ、誰の利益のために動いているのだろうか?

一連の動きは、まだ始まったばかりかもしれない。すでに来期の法廷の訴訟事件には、大学入試における人種考慮の廃止、水質汚染防止法の適用範囲の大幅な制限、人種によって差別する投票行為や手続きを禁止する1965年の投票権法のgut(骨抜き)につながるような事件が含まれている。

そして今期を終えた時点で、判事たちは、またもやdropped a bombshell(爆弾発言)をした。州憲法がある政党に有利になる極端なゲリマンダーを禁止しているとするノースカロライナ州最高裁の判決を見直すことになったのだ。このケースについて最高裁判所が判決をすれば、州が連邦選挙のルールを決める方法が根本的に変わり、たとえ州裁判所が州憲法に違反すると考えても、州議会は候補者が立候補する議会区の選出や投票のルールをほぼ完全にコントロールできるようになる可能性がある。

これはまた、2020年の大統領選挙に敗れた親トランプ派のconspirators(共謀者)が行おうとしたこと、つまり党の候補者がその州で勝てなかった場合でも、共和党の選挙人に差し替える権限を州に与える可能性がある。つまり、州民の意思を無視することで、民主主義のプロセスを大きく後退させるのである。

投票権擁護派は、このような判決はアメリカ民主主義の基本的なtenets(教義)を侵す恐れがあると警告し、警鐘を鳴らしている。

連邦最高裁が異例な存在である理由は大きく二つある。第一に、最高裁判事は終身在職権を持ち、他の政府機関は判決を覆す手段をほとんど持たないという構造上、判事の権力に対する抑制機能がほとんどないことである。第二に、米国政府の他の部分、特に議会、のdysfunction(機能不全)が、最高裁が埋めるべき空白を生み出している。

最高裁のイデオロギー的配列を変えるために、現在の9人以外の裁判官を追加任命することを求める声もあるが、これはパッキングと呼ばれる。憲法は裁判官の人数を定めておらず、その数は5人から10人と時代とともに変化しているため、裁判官の増員を妨げる制度上のものは何もない。

しかし、それは非現実的かもしれない。そのような提案をした大統領はフランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)だけである。しかし、ルーズベルトは史上最強の大統領の一人であり、当時の裁判所は極めて不人気であったにもかかわらず、アメリカ国民は彼の計画を支持することはなかった。FDRでも法廷を拡大するために政治的支持を得られなかったのに、ジョー・バイデン大統領にはどんなチャンスがあるのだろうか?

また、最高裁判事のlife tenure(終身在職)を廃止し、各大統領が平等に最高裁の構成を決定できるよう、任期を設けることを提案する人もいる。12月、バイデンが任命した委員会は、これらのアイデアなどについて報告したが、どう見てもバイデンはこのような急進的な手段を追求することに乗り気ではないようだ。しかし、バイデンは、最高裁の「outrageous behavior(非道な振る舞い)」を非難し、ロー対ウェイド裁判を覆した最高裁の決定を「destabilizing(不安定化させる)」と非難した。最高裁の構成と判決に怒るアメリカ人に対して、バイデンの回答は、民主党議員をもっと選ぶべきだというものだった。

では、議会についてはどうだろうか?NYTのオピニオン・コラムニスト、ジャメル・ブイーは、憲法は、議会がrogue(自分勝手に行動する)裁判所を抑制し、懲らしめることができるいくつかの道を提供している、と指摘する。

裁判官を弾劾し、罷免することができる。特定の問題に対する裁判所の管轄権を剥奪したり、法律を覆すような判決には裁判官の圧倒的多数の署名を必要とすることによって司法審査権を弱めたりすることができる。また、議会は、問題の判決を単純に取り消す法案で裁判所をrebuke(叱責する)こともできる。

このように、reckless(無謀)で反動的で権力欲の強い裁判所に直面しても、議会には選択肢がある。問題は政治である。現在の最高裁の傲慢さにもかかわらず、また民主的正統性をほとんど欠いているにもかかわらず、民主党内には、裁判所の性質と憲法制度におけるその位置づけをめぐって争う意欲はほとんどないようである。

最高裁を変えるためのバイデンの茨の道
Biden’s Thorny Options for Changing the Supreme Court
2022年7月5日付 ワシントン・ポスト

米国最高裁は正統性に欠け、信頼を得るためには構造改革が必要だ
U.S. Supreme Court lacks legitimacy and structural changes needed to instill confidence
2022年7月3日付 スプリングフィールド・ニュース−リーダー

手遅れになる前に最高裁の改革を
Reform Supreme Court before it’s too late
2022年7月3日付  ポートランド・プレス・ヘラルド


ロー判決後、最高裁への信頼が揺らぐ
Trust in Supreme Court falters after Roe decision
2022年7月3日付 ワシントン・ポスト


幅広い行為と速さで最高裁の保守派が新時代に火をつける
With sweep and speed, Supreme Court’s conservatives ignite a new era
2022年7月2日付 ワシントン・ポスト


今期、最高裁はスピードバンプを無視することを決定した
This was the term the Supreme Court decided to ignore the speed bumps
2022年7月2日付 ワシントン・ポスト


民主主義に新たな打撃を与える最高裁の新判例
A new Supreme Court case threatens another body blow to our democracy
2022年7月2日付 ワシントン・ポスト


彼らは決して「最高」ではない
Supreme they are not
2022年7月1日付 タイムズ・レコード


最高裁による選挙訴訟の提起を受け、民主主義擁護派が警鐘を鳴らす
Democracy advocates raise alarm after Supreme Court takes election case
2022年7月1日付 ワシントン・ポスト


裁判所の権力を抑制できるものは?
What can check Court's power?
2022年6月30日付 ロサンゼルス・タイムズ


強力な裁判所
A Powerful Court
2022年6月30日付 ニューヨーク・タイムズ


最高裁への信頼が崩れれば、あらゆる判決が台無しになる
Shattered trust in the Supreme Court will undermine every ruling
2022年6月30日付 デンバー・ポスト


司法長官となったジャクソンは、「偉大な国家の約束の一部」になることを熱望している
Now a justice, Jackson eager to be ‘part of the promise of our great Nation’
2022年6月30日付 ワシントン・ポスト


最高裁、連邦選挙における州議会の権力を見直す予定
Supreme Court to review state legislatures’ power in federal elections
2022年6月30日付 ワシントン・ポスト


最高裁の正統性の危機
The Supreme Court’s crisis of legitimacy
2022年6月30日付 ワシントン・ポスト


最高裁は正統性の危機に直面しているのか?
Is the Supreme Court Facing a Legitimacy Crisis?
2022年6月29日付 ニューヨーク・タイムズ


最高裁が米国を訓戒に変える
The Supreme Court turns the U.S. into a cautionary tale
2022年6月27日付 ワシントン・ポスト


暴走する最高裁をどう懲らしめるか
How to Discipline a Rogue Supreme Court
2022年6月25日付 ニューヨーク・タイムズ


タリバンのように、最高裁は暗黒時代から支配している
Like the Taliban, Supreme Court rules from the dark age
2022年6月24日付 バークシャー・イーグル