ウクライナ侵攻をめぐってロシアが北朝鮮から武器を調達しているとの情報が駆け巡った。ロシアはソ連崩壊後、北朝鮮との軍事協力をしない方針を貫いてきたが、非公式には北朝鮮人がロシアのために兵士として戦闘行為に参加した、という証言がある。北朝鮮を脱出した知人男性の話を紹介する。(牧野愛博)

ウクライナのメディアは今年春、ロシアのショイグ国防相が中国と北朝鮮を歴訪し、両国にミサイルなどの兵器支援を求めたと伝えた。

日本でも、ウクライナ関係者が各国外交団に「ウクライナの情報機関が得た情報」としてこの話を広めていた。

中国側は「完全なフェイクニュースだ」として否定している。日韓両政府も、ロシアが北朝鮮に軍事支援を求めた形跡はないとしている。

北朝鮮はかつて、ベトナム戦争の際に空軍部隊を派遣したことがあるが、ロシアに対する軍事支援の歴史はないようだ。

だが、今年5月、ソウルで久しぶりに再会した脱北者の知人男性は、ソジュ(焼酎)のグラスを傾けながら、ウクライナ侵攻で苦戦ぶりが伝えられるロシア軍について、こう言った。「ロシア兵はだらしがない」

ソジュをあおりながら彼はさらに話を続けた。

「(かつて)ロシアのために戦った北朝鮮人はいる。カネのためだったがね」

「義勇兵か何かか」と尋ねると、その北朝鮮人は「ロシアに外貨稼ぎに出かけた海外派遣労働者だ」(脱北者の知人)という。

話は少しそれるが、ロシアで出稼ぎする北朝鮮人について説明したい。

2016年に電話取材したロシア・エカテリンブルクで働く北朝鮮労働者によれば、派遣期間は3〜4年。500ドル(約7万円)を国家に納めれば、さらに3年ほど延長できる。

この労働者は建設作業やタイル貼りなどに従事していた。仕事があれば、朝8時ごろから夜12時くらいまで働くという。

休みは月1回程度。年収は60万ルーブル(約140万円)。半分は国家に納め、食費や家賃などを引かれると、20万ルーブル(約47万円)くらいだったという。

北朝鮮の海外派遣労働者はノルマを果たすと、同行している党秘書や国家保衛省(秘密警察)幹部らに賄賂を払い、アルバイトをしている。

ロシア極東のウラジオストク空港に到着した北朝鮮の関係者ロシア極東のウラジオストク空港に到着した北朝鮮の関係者=2019年4月、竹花徹朗撮影

知人の回想に話を戻そう。

知人男性によれば、ロシアのために戦う羽目になった北朝鮮労働者は10数年前にロシア国内で働いていた。その際、アルバイトを通じて、あるロシア人家庭と仲良くなったという。

ある日、そのロシア人家庭の息子に召集令状が届いた。ロシアの徴兵制は兵役期間が1年で、18〜27歳の男性が対象になる。徴兵された兵士は前線には送らないという情報がある一方、ウクライナ侵攻では、徴兵者が戦っているという話もある。

そのロシア人家庭の息子の場合、チェチェン紛争に投入されることが決まっていたという。ロシア人家庭は北朝鮮労働者に、高額の報酬を条件に「息子の身代わりになってくれないか」と持ちかけたという。

戦火で廃虚となった建物の前で、武装勢力の攻撃で破壊されたロシア軍の戦車が放置されていた戦火で廃虚となった建物の前で、武装勢力の攻撃で破壊されたロシア軍の戦車が放置されていた=2000年2月、ロシア南部チェチェンのグロズヌイ、大野正美撮影

北朝鮮男性にも兵役義務がある。兵役期間はロシアとは比べものにならないほど長く、かつては10年、現在でも7年は軍務に就く。

この北朝鮮労働者も軍隊経験者だった。労働者はロシア人から報酬を受け取る一方、高額の賄賂を党秘書や国家保衛省幹部に支払い、1年間の「身代わり兵役」に就いたという。

この労働者がチェチェン紛争で目にしたのは、異様に士気が低いロシア兵の惨状だった。ロシアの兵士は前線での戦闘を嫌がった。出撃すると、空に向かって発砲し、「弾がなくなった」と言い訳をしながら、基地に戻る兵士が大勢いたという。

知人の脱北者は「ロシアは政治教育ができていない。北朝鮮では徹底的に政治学習をやる。毎日、金日成や金正日、金正恩のお言葉を頭にたたき込まれる。米軍に侵略されて、家族がひどい目に遭ってもいいのかと教える」と語る。

チェチェン紛争に参加した北朝鮮労働者は北朝鮮軍で教育されたとおりに戦った。ロシア軍から勇猛果敢な兵士だと高く評価されたという。

1年後、労働者は無事除隊し、北朝鮮の労働キャンプに戻った。

破壊された市街地を、装甲車に乗って移動するロシア軍兵士たち破壊された市街地を、装甲車に乗って移動するロシア軍兵士たち=1995年5月、チェチェン・グロズヌイ、谷川明生撮影

ところがこの後、問題が起きた。

除隊後、ロシア軍が、北朝鮮労働者が化けた「ロシア人兵士」を表彰することになったからだ。ロシア軍の担当者が「ロシア人兵士」の家庭を訪れ、そこで替え玉が発覚したという。

ロシア軍は替え玉にもかかわらず、「ロシア人兵士」に化けた北朝鮮労働者を表彰することを決めた。このとき、労働者はすでに北朝鮮に帰国した後だったという。

ロシア軍はロシア外務省を通じ、北朝鮮に照会した。この労働者は平壌のロシア大使館から表彰されたという。

北朝鮮当局は、北朝鮮兵士の勇猛果敢ぶりを証明したこの労働者を処罰できなかった。その一方で、ロシアで働く北朝鮮労働者の管理体制を問題視した。

北朝鮮労働者が勝手に宿舎を抜け出していないか、国が決めた仕事以外のアルバイトを引き受けていないかなど、管理と監視が厳格になったという。

もちろん、北朝鮮兵士が一律に勇猛果敢で士気も高いというわけでもない。

北朝鮮軍の場合、兵器などは国家予算で供給するものの、兵士の衣食住などの運営費は、基本的に軍団や師団単位で自活している。

担当区域内に鉱山や漁港、農場などが豊富な部隊は、兵士も安定した生活が可能になるが、山間部の部隊などは生活に苦労しているという。

最近では、国連経済制裁が厳しくなったほか、新型コロナウイルスの流行を防ぐため、軍のドル箱でもある鉱物や水産物の輸出が著しく困難になっている。

上部機関の検閲がある場合、不足した軍服や軍靴などの装備品をまかなうため、他の部隊の装備品を盗む行為も横行している。食糧不足から、農作物を盗む軍人も後を絶たないという。

知人の脱北者は「北朝鮮軍兵士がウクライナに派遣されれば、大きな戦果をあげるだろう」と語ったが、本当にそうなるのかどうかはわからない。