世界の二酸化炭素(CO₂)排出元の4割近くが建築物や建設関連が占めている。地球沸騰の時代に、住まいの形も大きな転換を迫られている。では、日本の私たちの住む家は、どうすればよいのだろう。環境問題を長く取材してきた記者が、自らの経験も振り返りながら、考えた。

人生で最大の買い物は、多くの場合、住まいだ。にもかかわらず、その性能には意外と無頓着であることが多い。

「家の作りやうは、夏をむねとすべし」

吉田兼好が『徒然草』で説いたように、日本の家づくりは、風通しの良さなど夏の快適さが優先され、冬の寒さが軽視されてきた。

かつては夏仕様 いまや危険な日本の無断熱の家

私の生家もそうだった。壁はペラペラ、窓はガタガタ、すきま風はヒューヒュー。完璧な無断熱。冬はこたつか、石油ストーブのまわりから動けなかった。夏はいまほど暑くなかったので、エアコンがなくても耐えられた。

ところが、いまはエアコンなしでは、夏は確実に熱中症にやられる。冬は場所によって寒暖差が大きく、ヒートショックに見舞われる。無断熱の家では、生命さえ危険にさらされる。

日本のCO₂排出量の6割は、私たちのライフスタイルに関連している。このうち住まいの電気やガスなどからの排出が3分の1を占める。光熱費は全国平均で世帯あたり月約1万6000円かかっている。無断熱ではエアコンなどの利きが悪く、CO₂も光熱費もだだ漏れだ。夏をむねとする家は、からだにも、環境にも、財布にも優しくない。

住宅の生涯通じてCO₂ゼロ 「LCCM」が世界で

究極の脱炭素住宅「LCCM」が、茨城県つくば市の国立研究開発法人建築研究所にある。LCCMは「ライフ・サイクル・カーボン・マイナス」の頭文字。建設から、家の使用、廃棄までの「家のライフサイクル(生涯)」全体でのCO₂排出量ゼロ、またはマイナスを目指す。排出の少ない建材選び、高い断熱性能、長寿命化がカギだ。

2階建てのLCCM棟の柱や梁には、鉄骨やコンクリートでなく、地元茨城県産のスギ材や隣の福島県産のマツ材が使われている。建材をつくる時のCO₂排出量が少なく、断熱性に優れているので、住んでいる時のエネルギー使用量も少ないからだ。

南向きの窓から日が注ぎ、暖房をつけていなくても暖かい。「家庭で使われるエネルギーの3分の1が給湯で暖房が4分の1。冷房は5%程度」(同研究所の桑沢保夫・環境研究グループ長)。熱が逃げやすい窓には真空断熱ガラスの木製気密サッシを使用。太陽光発電パネルや蓄電池、燃料電池、太陽熱を利用したヒートポンプ給湯器も備え、エネルギーを自らつくり出す。

「住宅に木材を利用することは、二刀流の効果がある」と、慶応大学の伊香賀俊治教授(建築・都市環境工学)は指摘する。木の高い断熱性能はCO₂を削減し、屋内の寒暖差を減らすので血圧を安定させ、見た目や香りにはリラックス効果もあるという。

LCCMの取り組みは世界で進む。フランスとスウェーデンは、2022年度から住宅などの建設に伴うCO₂排出量の算定・報告を義務化した。デンマークやフィンランドも義務化に動く。米国のいくつかの州や市は、建設に伴う排出の上限値を設けたという。

断熱性や気密性では欧米に劣るものの、日本でもLCCM住宅は増えている。住宅・建築SDGs推進センターは全国で230戸以上のLCCM住宅を認定した。ただ、年間の新設住宅着工戸数約82万戸からすればほんのわずかだ。

政府は、LCCMより断熱性能が低く、使用時の「CO₂ゼロ」を目指す「ZEH(ゼッチ、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」基準について、2030年までの義務化を目標としている。ZEHより低い省エネ基準は、2025年度からすべての新築住宅で義務化される。

まずは既存の住宅の省エネ そのカギは窓に

実際には、国内に約5000万戸ある既存住宅での省エネが進まないと、住宅分野での大幅なCO₂削減は望めない。2019年時点で現行の省エネ基準に適合していたのは、わずか13%。3割はほぼ無断熱だった。

2001年に建てた戸建ての我が家も、省エネ基準には適合していない。どうしたらいいか。

建て替えをせず、あまりお金をかけなくても、簡単に断熱効果を上げる方法がある。窓だ。

熱の出入りの6、7割は、窓などの開口部から。窓のサッシをアルミから樹脂や木質に替えたり、1枚ガラスを複層ガラスに替えたりすることで、室内環境は大きく変わる。マンションなどで勝手に改修できない場合も、内窓を追加で設置する方法がある。改修には、国から最大200万円の補助が出る。

住宅用太陽光発電や蓄電池に補助金を出す自治体も増えている。省エネと組み合わせれば、災害時の備えにもなる。

断熱性と気密性にすぐれた家は、エアコンの利きがよく、室内環境が一定なので快適で、健康にも、家計にもよい。そんな家が増えれば、結果的に気候変動対策にも貢献できる。これから目指すべきは「冬をむねとする家」だろう。