ウクライナ侵攻が始まってから2月24日で丸2年となる。開戦当初、ロシア軍の猛攻にさらされたウクライナ側はその後、巻き返しをはかり、一部領土の奪還に成功したが、最近、東部の要衝から撤退したり、総司令官が解任されたりするなど、一時の勢いがなくなっているようにも見える。一方ロシア側は、一部の戦線で再び盛り返すなど、予断を許さない情勢が続く。

要衝からの撤退

2月17日。ウクライナ東部の要衝と言われるアウジーイウカ市からの撤退を、ウクライナ軍が発表した。

撤退作戦はぎりぎりのタイミングだった。ウクライナ兵約5千人が、ロシア軍の7個旅団、計4万人に包囲されかけ、全滅の可能性もあった。その救援に、北方からウクライナ軍の最精鋭「第3強襲旅団」が駆け付けた。仲間の退路を確保するため、装甲車で戦う様子を同旅団が通信アプリTelegramで伝えた。

キーウ・インディペンデント紙によると、撤退には成功したものの、「多くの仲間が死んだ」と証言するウクライナ兵もいるという。

一方、「ウクライナ・プラウダ」によると、ゼレンスキー大統領は「アウジーウフカの戦いで、ウクライナの死傷者の比率は、ロシアの7分の1」と述べた。

死者をいとわず歩兵を前進させるロシア軍の「人海戦術」に比べれば、「ウクライナは兵士を大切にしている」と大統領は示唆した。

その背景には、ザルージヌイ・軍総司令官(階級は大将)の解任をめぐる大統領批判の高まりもあった。撤退決断の1週間前の8日、軍総司令官を交代したばかり。「ロシア軍に、交代で軍の動きが鈍った一瞬をつかれた」との見方がウクライナの専門家の間で広がったからだ。

ザルージヌイ大将は優れた指揮能力のほか、インスタグラム好きでも知られ、文化人やボランティアの人々と気さくに撮影に応じる温厚な人柄が親しまれていた。

一方、BBCによると、後任のシルスキー大将は「ひき肉屋」との異名を持つ。陸軍司令官だった2022〜2023年、東部バフムトの戦いで多くの部下を失い、「命より勝利を優先する」とのイメージが一部メディアに生まれたためだ。

その矢先におきたのが、アウジーイウカ守備軍「包囲」の危機だった。シルスキー・新総司令官が退却の決断をくだしたものの、「決断が遅く、バフムトの再現」との批判も出ている。

アウジーイフカ市は昨年10月からロシアの攻撃を受け続け、今、原爆投下後のような焼け野原だ。もと3万3千人だった人口は、1千人にまで減った。最後まで避難できず、救援を待っていた年配の女性は「家も、柱も、物置も砲撃で何も残っていない」と、泣きながらスマートフォンで息子に話した。

兵力不足の背景

ウクライナ軍が結局、アウジーイフカを撤退せざるを得なかったのは、指揮の問題以上に、砲弾、装甲車、ミサイルの不足が大きかった。

「アウジーイウカでロシア軍は複数の大砲を集めて、ウクライナへ向けて一斉射撃する。ウクライナ軍は反撃できず、少ない砲弾をロシア軍の拠点に限って撃っていた」

戦況をよく知るオーストリア軍将校はこう指摘する。最大の武器支援国、アメリカからの武器の支援も滞っている。下院がウクライナ関連の予算案に同意しなかったからだ。

ウクライナ軍に不足しているのは弾薬だけではない。兵員も足りない。背景に、「非効率」的な徴兵の仕組みがある。国防省傘下の「徴兵事務所」の軍人が路上や喫茶店などで対象者と対面し、徴兵名簿への登録書を直接手渡す方式になっている。郵送などによる令状送付は認められていないため、手間も時間もかかる。

ウクライナ東部に住む若者は筆者に「(徴兵逃れのため)自宅に隠れている者もいる。街中で見かける若い男の姿が減っている」とも語った。

徴兵がスムーズに実施されるよう、ウクライナ最高会議(国会に相当)には、徴兵事務の関連法案(手続きの電子化や、徴兵の下限年齢を27歳から25歳に引き下げる)が提出されている。

しかし、野党から「兵役登録の電子化は人権に抵触する」などの反対意見が出て、なかなかまとまらない。

そこで、国民人気の高いザルージヌイ軍総司令官(当時)は、昨年11月に英国エコノミスト誌に、さらに今年2月、米国CNNに論文を寄せた。いずれも軍事技術の革新を訴える内容が中心だが、ウクライナの「徴兵システムの遅れ」も指摘し、その「国家機能の不全」が、ロシアの兵力の優位を招いている、と主張した。ウクライナ軍は政府に50万人の動員を求めてきた。

ウクライナ領内にいるロシア軍は50万〜60万人。一方、ウクライナ軍の現有兵力は100万人とされているが、ポドリャク・ウクライナ大統領府長官顧問によると、前線にいるのは30万人にとどまる。しかも、2022年のロシアの大規模侵攻以来、前線に行きっぱなしで疲弊する将兵が少なくない。

最精鋭とされる「第3強襲旅団」でさえ、人繰りは厳しい。その幹部の一人は昨年11月、SNSで次のようにぼやいた。

「前線にやってくるのは、農村から来た中年男性が多い。訓練不足だ。我々の給料支払いだって遅れ気味だ」

ザルージヌイ前総司令官があえて海外メディアに登場したのは、こうした現場の不満を受けてでもある。「外圧」で自国政府に働きかけようとしたとみられる。

しかし、ウクライナは民主主義国。軍人が政治を動かそうとするのは文民統制に反する禁じ手だ。ゼレンスキー大統領が解任に動いたのもやむを得なかった。

国の将来「正しくない方向に」派が増加?

ウクライナの代表的な世論調査機関「ラズムコフ・センター」の最新の調査(2月7日)によると、ゼレンスキー氏が「信頼できる政治家」のランキングで、引き続きトップで、支持率は69%。(2位は南部ミコライウ州の知事の58%、3位は大手ボラティア団体代表の54%、4位は外相の50%)。

ゼレンスキー大統領は、英国、ドイツ、フランスと長期的な安全保障の協定を結ぶなど、外交面で役割を果たしており、その指導力は今のところ陰りはない。 

一方、同調査で「ウクライナが正しい方向に進んでいると思う」と答えた人は41%で、1年前の61%より20ポイント減った。「正しくない方向に進んでいる」は38%で、拮抗している。戦時中の今、国民の多くが軍最高指揮官の大統領を支持する一方、国の将来への確信について、陰りがみられる。

「状況が悪化している点」を尋ねる質問に対しては、物価が約3割上昇しているため、「値上がり」が86%。その他、「明日に対する市民の確信」が64%、「国の状況全般」が61%。およそウクライナ人3人のうち2人が何らかの不安を抱いている。

一方、レイティング社の世論調査では、85%のウクライナ人が「ロシアの攻撃を撃退できる」と確信している(2月19日、ウクライナ・プラウダ)。

ロシアとの和平交渉を求める機運はウクライナではほとんど見られない。その理由を、ラズムコフ・センターの防衛問題担当、ニコライ・スングロフスキー氏はこう述べる。

「プーチンは、相手が弱みを見せると、さらに攻め込んでくる。プーチン自身が立ち止まることは考えられない。西側(メディア)は、ウクライナ国内の政争を好んで取り上げるが、ウクライナが負ければ、西側全体の敗北につながることを考えるべきだ。しかし今後、戦争が長引けば、プーチンに軍備拡張をする時間を与え、第三国を経由してのロシアへの物資流入も続く」

武器流入については、北朝鮮が当面の焦点だ。ロシアに100万発の弾薬と弾道ミサイルを供与した。ウクライナメディアによると、これまで24発の北朝鮮製弾道ミサイルを、ロシアはウクライナに撃ち込んだ。多くはミサイル防衛システムにより撃墜されたが、1月、北東部ハルキウに着弾、巨大な穴が開いた。 

情報筋によると、北朝鮮では今、ロシア産の小麦が大量に市場に出回っている。武器供与の見返りに、ロシアから様々な食糧をただで受け取っているという。

ロシア政府の機関紙「ロシア新聞」は2月18日、アウジーイウカ陥落を報道。その後の見通しにつき、アウジーイウカ以外の東部の都市も「解放」を続ける、と述べた。「解放」が何を指すのか不明だが、今後も都市の破壊が続く可能性が高い。

ロシアには、イランもドローンを供給し続ける。北朝鮮・イランの支えにも頼るロシアがさらなる攻撃を続けるのか。米国の支援が議会の未承認で滞る中、欧州とタッグを組むウクライナが持ちこたえるのか。しかし、後者の支援は各国の国民世論にも左右される。ウクライナが厳しい状況を脱するかどうかは、その支援のテンポにかかっている。