「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

ウェッジのシャフトはアイアンよりも軟らかくしたほうがいい?

GD 今日はウェッジについて聞きたいことがあるのですが、先日、「ボーケイ」ウェッジのフィッティングを受けたときに、「ウェッジのシャフトはアイアンよりも軟らかくするのが普通です」と言われ、逆のことをやっていたことに気づきました。
アイアンのシャフトを「S」がしんどくなってきたので、『NS950』の「R」にしたのですが、ウェッジは「S」でも大丈夫だろうとオーダーをお願いしたら、フィッターさんから「ウェッジは逆ですよ、むしろ軟らかくしたほうがいいですよ」と言われました。

長谷部 それはナイスアドバイスですね。「硬いシャフトはあまりよくないですよ」って言う勧め方はすごく賛成できます。プロとのやり取りでもウェッジだけは軟らかくする傾向があります。アイアンは『X100』でも、ウェッジは『S400』にすることはよくあります。理由はわかりませんが、総じてプロは「フィーリングなんだよ」って言います。ウェッジはフルショット以外にも、ハーフショットとかスリークォーターショットをすることが多いので、そういったコントロールショットをするときに、硬いシャフトはタイミングが取りづらくなります。その辺を考慮してシャフトを勧めているので、「ボーケイ」のウェッジフィッティングはしっかりしていますね。

GD 今の時代、ウェッジを複数本入れるようになっています。過去に48度、52度、58度の3本を入れたとき、48度、52度は『NS950』で、58度だけ『ダイナミックゴール』にしたことがあります。58度は重くてもいいだろうと、『S200』にしたのですが、結果的には使いづらいものがありました。48度、52度が『NS』だったら、58度も『NS』に揃えたほうがいいということですね。

長谷部 短いクラブなりにも無意識のうちに「しなり」を感じているはずなんです。だからその辺の流れはあったほうがいいと思います。あとはバランス。D4、D5が一般的になりつつあります。それは売れているウェッジの影響だと思うのですけど、元々それってアメリカ人向けのすごくハードなスペックで、それが日本に導入されただけの話ですから、本来はD2とかD1とか軽いバランスのもののほうが日本のゴルファーには振りやすいんじゃないかと個人的には思います。

昔、青木功さんや倉本昌弘さんは「Cバランス」でした。バンカーショットの上手い人って手のようにクラブを使うから、その時に変にヘッドが重いと勝手に落ちてしまう。バウンスが利いていいんですけど、バランスの重いクラブは手前から入ってしまうことが多い。自分の意図通りにヘッドを落とすには軽いバランスがいいんじゃないかと思います。でも、そういったバランスの軽いウェッジは市販されていることが少なくて、ほとんどカスタムとか自分でチューンナップしない限りないので、重量調整が重要なように思います。

GD プロも含めて昔の上手い人のウェッジは、ヘッドの後ろに穴開けて使ったじゃないですか。舶来品って言われた外国製のウェッジはヘッドが重かった。『ベン・ホーガン』や、『ウイルソン』のウェッジに穴を開けて軽くして使っていました。『リンクス』のマスターモデルだけは、もともと「Cバランス」だったから鉛を貼って使っていたプロもいましたが、けっして重くはありませんでした。
『リンクス』で言えば、シャフトも軽かったので、軽いヘッドに軟らかいシャフトがついていたというクラブです。軽いウェッジが好まれたのは、日本のアプローチの技術が手先の器用さを生かすもので、アメリカのようにスウィングの弧の中で球を拾ってくるっていうものとは違う歩みがあったからだと思うんですけど。

長谷部 「フォーティーン」の『RM-4』と『RM-α(アルファ)』。この新旧のモデルを比較すると、『RM-4』はアメリカ向けに作っているようでバランスが重いんですよ。『アルファ』は日本人向けになっているのか軽くなっています。バランスもやっぱり注目すべき点であって、使いこなせない理由はシャフトの硬さだったり、もしかするとバランスが重すぎるために上手くコンタクトできないケースもあります。ソール形状やバウンスの話する前に基本スペックを見直したほうが本当はいいんじゃないの? って思うことがあります。

よく一緒にラウンドするアマチュアの方のスペックを見ても、「重硬(オモカタ)」だったり、 棒みたいに硬すぎて何を振っているかわかんないようなクラブを使っている人がいます。トップしたりダフったり、いろんなミスが出る人は、バウンス(ソール)を使えている、使えていないという以前に、基本スペックを見直したほうがいいと思います。しかし、そこに対してメーカーは実は何もしてなくて、ヘッドの重量やバランス調整をカスタムしますよ、と謳っているところが少ないのが現状です。

GD 今でこそアイアンのセットはPWまでとなっていますが、そうしたのは米国のメーカーが早く、日本のメーカーはSWまでセットにしていた時代があったじゃないですか。PW以下のクラブをどうしますか? っていうのはここ20年ぐらいの話で、タイガーの出現が大きく影響していると思います。それ以前に影響を及ぼしたジャンボ尾崎(ジャンボ MTNⅢ プロモデル)のウェッジは、アイアンセットに組み込まれていたものでした。あまりにも人気だからバラ売りしましたが、セットのSWと、ウェッジ単体の作り方って変わってきますか。

長谷部 違います。フェース形状の流れもまったく違うし、バランスについても、重量設計についても別物なので、そう考えると、なんで米国のウェッジはあんなに重く作るのだろう? と不思議に思います。削って使うことを前提に考えているのかな?と思うことがあります。

GD タイガーがマスターズに最初に勝ったときに使っていたクリーブランド『TA588 RAW(ロー)』は、鋳造時にできるバリの付いた状態で売られていました。Eバランスぐらいあった重いヘッドを自分好みに削って仕上げるクラブでした。そう考えると、昔の日本のウェッジって、『マッシーサンド』(倉本昌弘が作り上げた名器)も、『ウイルソン』や『リンクス』を削って原型を作ったと聞いているので、オリジナルよりは軽くなるって考えるのが普通ですよね。

ダフリが出てしまうのは重たいウェッジが原因?

長谷部 「ボーケイ」、「テーラーメイド」……、売れているウェッジが総じてバランスが重いから、その重さに慣れようとしてしまいます。しかし、重いが故に半分ぐらいの人は、クラブの良さを生かせずに基本スペックのところでつまずいているんじゃないでしょうか。クラブを替える手前の段階で、クラブ調整をしたほうがいいように思います。軽くするとか、 シャフトをちょっと軟らかくするとか……。そうしないと、せっかくのヘッド性能を生かせないような気がします。

GD 「キャロウェイ」のウェッジって後ろに穴がポコポコ開いているじゃないですか。あれはなんですか?

長谷部 最初から穴開いているほうがかっこいいみたいな。重量調整のようにも見えるけど、昔、重量調整で穴を開けていた頃の、ああいう風にしたいというお客様の声が多かったから、デザイン的に入れたのだと思います。デザイン的要素が強いのではないかな。
「PXG」みたいに、ウェッジでもボルトが入っていて、重量調整できるものがウェッジにももっと広まったほうが、 日本のアマチュアにとってはいいのかなっていう気はします。まず基本スペックをちゃんと見直したほうがいい。

GD 今、国内メーカーだ、外ブラだ、という中で、ウェッジを含め全体的な傾向としては、外ブラ化しています。ウェッジに関しては、ティアドロップ形状が浸透して、昔、グースネックのウェッジを作っていたメーカーもティアドロップになっています。 外ブラ化が進むなかでも、重量に関しては重く作るよりも、軽いほうが扱いやすいんじゃないかっていう考えですか?

長谷部 そうですね。ジャンボのSWもD5とかD6ありましたけど、あれはジャンボがヘッドの重さをそのまま生かした打ち方だったってということ。上からドーンと打っていたので重くても良かったと思うんですよ。バウンスの利きも強かったし。ですが、普通の人はそんな打ち方はできないし、ヘッド重量が重いっていうのはダフリやすい要素なので、ダフリやすいクラブを使っていながら、バウンスの当たり方を考えるっていうのもちょっと無理があるよう気がします。自分の心地よいスウィングができるクラブバランスを思い出す意味でも、古いクラブを引っ張り出してバランスとかクラブの長さを知る必要があるように思います。

GD 「バランス」についておさらいしておきたいのですが、シャフト重量が重いほうがバランスは重くなる?

長谷部 数値的バランスは重くなります。それは、重心ポイントから先(ヘッドより)の重量にシャフトの重量も含まれるので、軽いシャフトよりも重いシャフトのほうが、重くなるため数値的なバランスは重くなります。

GD 「バランス=ヘッドの利き具合」だとしたらでも、軽いシャフトのほうがヘッドの利きがよくなるような気がします。だけど、バランスの数値は軽くなりますよね。

長谷部 軽いシャフトにすればバランス数値は軽くなりますが、振ったときのフィーリングは違ってきます。なので、数値上のバランスはひとつの目安と考えたほうがいいでしょう。どちらかといえば、ウェッジも軽いシャフトにしたほうが、アマチュア的には 重いクラブを使うよりは、振りやすくなって打ちやすくなる可能性はあるかなって思います。騙されたと思って女性用のウェッジなど一度試して見ると良いと思います。
シャフトの短いウェッジだと、1ポイントのバランスを変えるのに 6グラムぐらいの差が必要になります。ドライバーだと2、3グラムで1ポイントなので、長さはヘッド重量(バランス値)にすごく影響があります。

GD 6グラムの違いとなると、『NS950』にするか、『ダイナミックゴールド』にするかによって、ヘッドをメーカーは選ぶわけですか?

長谷部 選びます、基本的には。もしかしたらシャフトの長さで調整しているメーカーもあるかもしれません。『NS』だとバランスがでないから、ちょっとだけ長くしましょう。それでD2とかD3のバランスを出そうとすることもあります。

GD ネックに鉛を入れるじゃないですか。最大どれぐらいまで入れられるんですか?

長谷部 メーカーによって基準があるので一概には言えないですけど、接着剤の重さ込みで5グラムぐらいまではいけるんじゃないですか。

GD 鉛を使わずに、ヘッドの設計を変えることはしないのですか?

長谷部 設計で重量調整をするのは難しいので、振り分けると言ったほうがいいのかもしれません。仕様値があって、その前後に振れるので、狙って作れることでもないので……。重いものはこっちのシャフトに使いましょう、軽いものはこっちのシャフトに使いましょうっていうのはあると思います。ひとつのロットで同じような重量帯のものが上がることがあるので、メーカーはできるだけ軽く作ろうとします。重くなるとどうしようもないので。

GD 削ることはできない?

長谷部 メッキしたものを削ることはできないんで、なるべく標準的な、目標値よりは若干軽めの設定を好む傾向はありますね。

GD アイアンだとカーボン用のヘッド、スチール用のヘッドがあるって聞きますが、アイアンもウェッジ同様に振り分けているのですか?

長谷部 アイアンは違います。カーボン用とスチール用では10グラムぐらい変わるので、同じ金型では共用できないから、そこはもう別設計になります。インナータングステンで調整することもあると思います。

GD 別設計なんだ。

長谷部 長さ調整でやっていたこともありますが、1インチぐらい変わるんじゃないかな。

GD スチール用のヘッドは……。

長谷部 スチール用は軽い。カーボン用のヘッドは重い。

GD それでも、カーボンシャフトのほうがバランスは軽くなりますよね。なんとなくイメージとは逆なんですよね。それはシャフトそのものが軽いから?

長谷部 カーボンはスチールの半分くらいの重量になるので、重いヘッドを使ってもシャフトが軽いぶんバランスは軽くなります。昔「ジールミス」というカーボンシャフトがあって、先端にタングステンがたくさん入っていて、カーボンだけどバランスが出ますよ、みたいな。そういう特殊な設計をしない限り、カーボン自体はバランスポイントが手元寄りなのでバランス値は小さくなります。

多彩なソール形状がある中で、注目はソールの真ん中が窪んだウェッジ

GD 今日お邪魔したGDOゴルフガレージ(横浜上永谷店)でもそうですが、「ボーケイ」ウェッジが数多く並べられていました。PGAツアーで使用率ナンバーワンということもありますが、人気のほどを感じます。

長谷部 商品数も含めて「ボーケイ」がナンバーワンであることは間違いないでしょう。そうなると「ボーケイ」がウェッジを選ぶ際の基準になって、フィッティングの方法もある種それがスタンダードになると、ウェッジはさらに盛り上がってくる可能性があるでしょうね。
そういったなかでは、「ピン」もそうですけど、「テーラーメイド」もウェッジに力を入れているし、日本のメーカーも含めて各社が工夫を凝らしています。フェースの仕上げや重心コントロールによるスピンのかかりやすさなどテクノロジーの争いが行われています。

GD 同じように見えるけど、細かく見れば各メーカー全然違う。ソール形状を見ても、ハイバウンス、ローバウンスぐらいだったのが、打ち方、ライに応じたバウンスの利かせ方になっています。

長谷部 ソールの種類が多彩になりましたね。丸いもの、真っ平らなものも含めて。結構な種類があります。「バウンス角」といっても、数値では比較できないほど多彩になってきているので、これこそ、本当に高度なフィッティングをしないとわからなくなっています。
それと、ソールの中央をへこませた(窪ませた)形状って昔からあるんですが、それが現在のウェッジにも生かされていて、人気の要因となっています。フォーティーンの『DJ-6』はけっこう売れているようです。最近では地クラブ「ロイコレ」の『BBウェッジ』は都丸さんとのコラボで工房で人気ありますね。

GD 元々は『ピン アイ2』のウェッジが採用したソールですよね。やっぱり窪み効果ってあるんですか?

長谷部 「キャロウェイ」もミケルソン用に開発した『マックダディ PMグラインド』は、『ピン アイ2』をベースに、ロジャー・クリーブランド氏が進化させた傑作のひとつですが、ソールの窪みは残してありました。「抜けのよさ」は単純にソールを丸くすればいいというものではなく、深く入ったときに、そのヘッドがどう動くのかみたいなことまで考えないと。丸味や窪みがあったほうが早く地面から抜け出るような発想があるから、ソールの真ん中に溝や窪みをつけて、ソールを弾かせているのだと思います。でも、その効果のほどを検証するのは、なかなか難しくて、ハイスピードカメラでもとらえきれません。

GD それはゴルファーがどう感じているか。窪んだソール、溝の入ったソールがなくならないということは、それなりに効果があって、それを良しとする上級者がいるってことですよね。

長谷部 上級者だけじゃなくて、単純にダフリに悩んでいるアマチュアの救済にもなるし、ダフッていても、それに気付かないうちに抜けてしまえば、ミスしたかどうかすらわからない。そういった意味での効果もあると言いたいですね。

GD ソールの形状を生かすという意味では、ライ角度って大事じゃないですか? 米国のウェッジは総じてアップライトに感じることが多い。ライ角に合わせて構えると手元を上げて(ハンドアップして)構えないといけないので、自分のフィーリングで打てない可能性もあるわけで。

長谷部 そうですね。2度ぐらいフラットにしたほうが、ほとんどの日本人の体型には合うなというのが正直な意見です。バンカーショットでは、フェースを開くぶん多少アップライトでもまあなんとかなってしまうこともあるでしょう。でも、フェアウェイから打ったときにどうも左に飛んじゃうなと思うことがあったら、それは完全にライ角が問題なので、ライ角度を直す必要があります。

GD ウェッジでフルショットしたら引っかけることが多いというのも、スウィングだけでなくライ角を疑ってみる。

長谷部 ウェッジだけではありませんが、クラブに自分を合わせるっていう考え方はあんまり良くなくて、自分の体にクラブを調整してあげたほうがいい。曲げてもらえる環境があるのだったら、フラットに調整したほうがより使いやすくなるし、ソール形状本来の性能を使えることになります。

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