スキージャンプの葛西紀明、プロサーファーの五十嵐カノア、バレーボールの山本隆弘ら、 “ゴルフ好き”のトップアスリートたちが、自身のスポーツとゴルフの共通点を教えてくれた。

ゴルフと競技の共通点をどう生かすか

東京五輪銀メダリストのプロサーファー、五十嵐カノアは、

「やっぱり“コア”をすごく使うところです。体をひねるところもかな。また、サーフィンでは、プレッシャーがかかると頭の中が意外とぐちゃぐちゃになるんです。だから頭の中を整理することが必要。ゴルフでもストレスがあると頭がぐちゃぐちゃになるし、そうなると調子もよくない。きちんとリラックスしてやらないといけない。これは逆にサーフィンのためにも勉強になりました」。

バレーボール元日本代表の山本隆弘は、

「トップで肩甲骨がキュッと寄る感じは共通していると思う。ジャンプするときは脱力も大事。そして空中では、僕は左利きだから、右の骨盤で壁を作っておかないと体が流れるんです」

北京冬季五輪金メダリストの小林陵侑と師匠の葛西紀明は、

「ただ飛ばそうとしても飛ばなかったり、力加減が大事。ジャンプの踏み切りと、ゴルフの切り返しからインパクトのタイミングも似ています」(葛西)

「道具をどう使っていくかというところも通じると思います。だからやっぱり、道具にはこだわっちゃいます(笑)」(小林)。

ゴルフの「形」を一度忘れて、自分のスポーツ経験や感覚を使ってみると、大事な動きを理解しやすくなるかもしれない。

「パットの距離感はインサイドキック」福西崇史(サッカー元日本代表)

サッカーとゴルフの、すごくわかりやすい共通点は芝生の上でやるということです。

ですから僕らサッカー出身者は芝の状態にすごく敏感です。

パッと見で平らに見えるところが「あ、傾いているな」とか「ちょっとつま先下がりになるな」とか、すぐわかります。

見るだけじゃなく立ってみると微妙な傾斜を感じたり、あとは芝のメンテナンスがいいとか悪いとか、じゃあ球はこう転がるんじゃないかとか、それも長年のサッカー経験でわかりますよ。

ただ、サッカーはボールを直接蹴るもので、道具を使わないんですよ。だから“道具に仕事をさせる”という感覚はしばらくわからなかったですね。クラブを信用していなかったんです(笑)。

ですが、経験を重ねるにつれてクラブがいかに重要かわかってきました。

あと、サッカー選手はパターは上手いと思います。

というのも、感覚ですけれど、パターって体と一体化させやすいんです。

パターを足に見立てられるんです。

つまり、パットはインサイドキック。方向性はさておき、距離感はインサイドキックの感覚がすごく役に立ちます。

マネジメントなら、サッカー選手は中盤の選手が圧倒的に上手い。特にショートゲームの組み立てはお見事ですよ。

ストライカーは常にピン狙いで、パットは絶対にカップインさせようとする。カップに寄せようとか、そういう感覚がないのはストライカーの性(さが)でしょう(笑)。

僕はもともと小学校のころ野球や器械体操などをしていて、それで磨いた距離感やバランス感覚、体幹の強さなどがサッカーにも生きました。

僕、ヘディングがすごく得意だったんですが、それは野球をやっていたおかげ。野球でフライの際ボールの落下地点に入るでしょ、あれのグローブなし版がサッカーのヘディングですから。

いろんなスポーツの経験がサッカーに生きて、ゴルフにも生きています。

僕は子どもたちにサッカーを教えるとき、よくキャッチボールをさせるんです。それで距離感が磨けますからね。

僕自身そうだったので、特に子どもの頃はいろんなスポーツをするのがいいと思います。僕はピッチャー出身なので特にだと思いますが、ショートゲームの距離感は野球の経験が生きていると思います。

「一球一球、臨機応変に対策を考える」小林雅英(元メジャーリーガー)

プロ野球のピッチャー経験者でゴルフをする人で、いわゆる"ノーカン"みたいな人は聞いたことがないですね。

プロゴルファーが練習でボールを手で投げて転がしていることがありますが、どれぐらいの力加減でどこまでボールが転がるか、あの感覚は子どものころからの野球の練習で身についているんですよ。

僕らがキャッチボールをしているのを野球をやったことがない人が見て驚かれたことがあります。

というのも、キャッチボールって相手との距離をランダムに変えたりするんですね。1メートルずつ下がるとかじゃなく。

「それでよく常に相手の胸の周辺に投げられますね」って。

でも、僕らにとっては当然で、特に意識しなくても距離感は合わせられるんです。

あとはバッターとの対戦で身に付けてきた集中力もグリーン上で生きます。

見られることに慣れているのも元プロ野球選手ならではですね。見られていたほうが集中できたりしますから(笑)。

それと、スイッチのオンオフもピッチャーは得意だと思います。

自分のタイミングで投球し、一球ずつ自分で決断し、打たれたら打たれたでその対応を練る。一呼吸おいて次の球を投げる、この一連の流れ、ゴルフと似ていませんか?

野手の場合、守備の際もいつ自分のところにボールが来るかもわからないからずっと気が抜けないし、それをコントロールできないので、そこはピッチャーと違うところですかね。

僕らピッチャーは集中とリラックスをわりと自分のタイミングで切り替えられるし、この場面での単打ならOKとか、ミスの許容範囲も考えて投球をマネジメントするので、これはゴルフのコースマネジメントに生きます。

危ないファウルを打たれたら次は球種を変えるとか、打ち気にはやっているからわざとワンバウンドさせた球を振らせるとか、一球一球、臨機応変に対策を考える。

バッターとの戦いはコースとの戦いと似ていますよね。だから、マネジメント力はあると思います。

あとは技術力さえ揃えば、常に80台なんですけどね(笑)。

「考えながら挑戦するトライ&エラー」大畑大介(元ラグビー日本代表)

「大事だな」と思うのは骨盤周り、つまり体幹で、現役時代はゴムチューブを使ったりバランスボールの上でスクワットをするなど徹底的に鍛えました。

でも、ただ、鍛えて強くするだけではダメで、柔軟性や可動域を広くすることを意識してトレーニングしていました。

このトレーニングで鍛えた骨盤周りが今、ゴルフで役立っています。

特に傾斜地でのショットで、軸がブレないのは骨盤周りの体幹を鍛えていたおかげだと思います。

「意識してトレーニングした」と言いましたが、この「意識して」の部分がすごく大事で、これを僕はラグビーで学びました。

ただ、やみくもにトレーニングしたり走ったりタックルしたりじゃなくて、常に考えながら挑戦するトライ&エラー。

もちろんすべてがうまくいくわけじゃないですけど、成功することもあって、その成功体験を重ねることが自信になる。

ゴルフも同じですよね。自信があるからパフォーマンスを発揮できるので。

子どものころは水泳をやっていましたけど、水泳では「何メートル泳げた」みたいなわかりやすい成功体験が得られて、それを積み重ねられたのが良かったなと思いますね。

それがラグビーに、そして今はゴルフにもつながっていると思います。

あと、ゴルフもラグビーも基本的に全天候型スポーツです。プロゴルフはさすがに荒天だと中止になりますが、多少の風でも決行ですよね。

ラグビーはほぼ決行。だから、雨が降ってきたとか風が強くなってきたとかで「ツイてない」なんて思わないんですよ。よし、この状況を楽しもうみたいな気すら湧いてくる。

普通の人が考える"逆境"に強いと言えるかな。この感覚はラガーマンならではかもしれないですね。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月2日号「上級者に聞いた スポーツ経験をゴルフに生かす」より