「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

カスタムシャフトとコラボシャフトの違い

GD 今日のテーマは「シャフト」です。最近、純正シャフトにカスタムブランドの名前が使われることが多くなり、性能がアップしているのでは? と思うのですが。

長谷部 純粋な意味での純正シャフトはどんどん消えていっています。今あるとしたら、「ダンロップ」の『MIYAZAKI』、「オノフ」、「ヨネックス」、「本間ゴルフ」……、思いつくのはそれぐらいですかね。もともと純正シャフトといっても、大概はOEMなので、シャフトメーカーに発注していました。設計は自社でやるところもありましたが……。

GD 純正シャフトとシャフトメーカーの関係が話題になったのは、『J‘sメタル』の『HM(ハーモテック)』だったような気がします。

長谷部 「ブリヂストンスポーツ」が「グラファイトデザイン」に発注して作ったという話は有名ですよね。

GD シャフトメーカーが独自の商品をカスタム商品として出すようになったのは、1990年代の後半。PGAツアーでフィル・ミケルソンが『フジクラ スピーダー757』を使って優勝したのがきっかけだと言われています。

長谷部 「グラファイトデザイン」がグレッグ・ノーマンと契約して、PGAツアー向けに開発された『Gシリーズ』もありました。

GD 『ディアマナ』はその後……。タイガー・ウッズが「ナイキ」と契約して、初めて460ccの『イグナイト』を使った際に、『ディアマナ83X』を使用し、それ以来、タイガーのシャフトと言ったら、ディアマナの白(通称、白マナ)といったイメージが定着しました。2005年のことで、この年メジャー2勝、マスターズと全英オープンに優勝しています。

長谷部 ここ10年ですかね、ツアープロが使うカスタムシャフトの名前を使用した「co-branding」が目立つようになってきました。「co-branding」とか「co-engineering」と言われ、クラブメーカーとシャフトメーカーの共同開発のシャフトになります。簡単に言えば、「ブランドコラボシャフト」です。クラブメーカーから依頼されてシャフトメーカーがカスタムシャフト名を冠したオリジナルシャフトになります。

『ツアーAD』はもちろん、『スピーダー』や『テンセイ』といったツアーモデルのカスタムシャフトが、一般仕様のアマチュア向けとしてブランディングされるようになって、クラブメーカーが独自のシャフトブランドや品番で言っていたようなものがなくなっています。

GD それは、要はカスタムシャフトの名前を使った純正シャフトが増えたということ
ですよね。

長谷部 そうです。シャフトメーカーとしてはブランディングという意味ではおいしいのかもしれませんが、一般アマチュアからすると誤解を招く、すごく危険なやり方のような気もします。

GD 一般ユーザーからしてみれば、同じ名前が付いているのだから、中身も一緒って思いますよね。

長谷部 簡単に言うとそのように誤解される人も多いでしょうね。例えばマルチマテリアルコンセプトですよって言っているようなブランドがあるとしたら、何の素材のマルチマテリアルなの? どれをブランドの基盤としてマルチマテリアルと言っているの? そういったことは開示されていない気がするし、そもそも消費者は同じか、同等だと思っているんだけど中身は違う。メーカーは多分あんまり言いたくないとこだと思うんですけど、客観的に見ている側からするとモヤモヤしますよね。

GD カスタムシャフトが普及したことで、人気モデルが出て、その人気に便乗している?

長谷部 カスタムのシャフトの価値が普及することによって、クラブメーカーが採用する元々のOEMシャフトにもco-branding(共同開発)でシャフトメーカーのカスタム名が入るようになって、ひとつひとつのシャフトブランドの意味合いとか価値っていうのは、少し薄らいでいるように見える。あと、個々のシャフトブランドの特徴がわかりづらくなっているかな。同じブランドのなかでも3種類ぐらいでていると、これとこれはどう違うの? 選ぶ側からすると、なんか迷路にはまりそうなぐらい多いですよね。

GD カスタムシャフトで言えば4年に1回ぐらいで、性能が1周しているようなことも言われます。今回、手元調子だから、次は先調子みたいな。1周するごとに、トルク値が下がったり、剛性分布がちょっと変わったり。

長谷部 それはカーボンシャフトメーカーの努力と設計力のアップと、素材が高弾性のものがちゃんと巻けるといった製造技術の向上が、シャフトを進化させてきたと思います。 だけど、この間とあるメーカーの新製品を試打する機会があって、「これ全部、カスタムのco-branding」ですって言われて、あれ? と思ったんですよね。これってカスタムシャフトではないけど、co-branding(共同開発)のシャフトで、それぞれのブランドの性能を生かしていますっていう説明なんですけど、市販のカスタムシャフトとはやはり違う。

ちょっとチューンはされているんだけど、性能の良さがどこまで生かされているのか気になりましたね。そのシャフトブランドの信頼感や高級感を利用しているのだと思いますが、いろいろな見方があるので、一概にこれが正しいとは言えませんが、ブランドとしての価値を損なうようなことにならなければいいなと思いましたね。消費者からしたら同じブランドの市販カスタムシャフトブランドにしか見えませんから。

ヘッドスピードと密接なトルクとフレックスの関係

GD 長谷部さんはカーボンシャフトが普及に至る初期の段階から見てきてるわけじゃないですか。 プロが使えるカーボンシャフトは何だ? ってなったときに、「高弾性」がキーワードだったように思います。

長谷部 間違いなく高弾性です。シャープなフィーリングが求められるし、そうじゃないと、小さなヘッドだったということもあるんですけど、高弾性で作られるトルクの少ない性能でないと打球の曲がりが大きかったですね。

GD 高弾性ってどういう意味になりますか?

長谷部 高弾性、カーボンの弾性率ってすごく難しいんですけど、カーボン繊維の変形しにくさを表す基準で数字が大きいほど変形しにくい材料となります。そのほか引っ張り強度とかも基準としてはあって、カーボン繊維の特性の中で、10トン、40トン、その重さに耐えられる基準を持っている繊維のことになります。ひとことで言うと、数字が大きい方が強く扱いづらい材料になります。

GD それがトルクや調子と関係してくるんですか?

長谷部 その繊維を縦に使うのか、斜めに使うのか、その使い方でトルクを少なくしたり、シャフトのフレックスを硬くしたりすることができます。弾性率40トンの材料2枚重ねて使えば、80トンの効果が得られるんですけど、その分、重量が重くなってしまうので、軽くシャープなフィーリングを得るためには、高弾性の繊維を使うほうが、フィーリングもシャープになる特性があります。

GD 初期の段階からカーボンシャフトの問題点は明らかだったんですか?

長谷部 明らかだったんですが、それを作れる素材メーカーが少なかったのと、高弾性にチャレンジするメーカーが少なかった。グラファイトデザインが70トン、80トンと一気に使い始めて、製造過程でいろんな苦労をしながらモノにしてったのが、現在のカスタムシャフトのベースだと思うので、この功績は大きいと思います。

GD それを追随するように、「フジクラ」も「三菱」も追っかけたってことですね。でも、初期の頃は、先調子だ、中調子だ、って今ほど言っていなかったような気がします。

長谷部 MK、LK(ミドルキック、ローキック)みたいな表示しかなく、今のような剛性分布がどうのってところまでは話が及んでいません。キックポイントの違いもほんのわずかな差でしかなく、それも静的な状態での違いでした。トルクについても、先端が凄く低トルクに設計してあっても、あえてそこを言うことはしていませんでしたね。

GD 今とは大違いですが、すでに20年以上経っているわけで、シャフトの性能もある程度のところまで到達しているって感じですか?

長谷部 大型ヘッドの影響もあると思うんですけど、ヘッドのほうで打球の曲がりを抑えられるので、シャフトはヘッドスピードアップのための振りやすさになってくると、トルク値についてはあまりこだわらなくなってきています。 異素材、金属繊維を使うことでフィーリングを変え、「静的」なパフォーマンスよりは、振り感を重視した「動的」な変化の方に着目しているような気がします。

GD トルクってある程度あったほうが振りやすいような気がします。絞りすぎちゃうと難しくなる?

長谷部 そうですね。トルクを絞り込んだシャフトは、ミスヒットに寛容じゃないので、芯を外すと硬く感じることはありますからね。

GD トルクが大きすぎると曲がりにつながる。シャフトのフレックスとトルクの関係ってあるような気がします。

長谷部 レディスシャフトは特に軟らかく、トルク値が大きいものが多いんですけど、レディスクラブでトウヒットするとブルンってなる感じがあります。それと同じように、トルクってねじれだから軟らかく感じやすく、鈍く感じる要素のひとつになります。適正なヘッドスピードとその人が振るタイミングによって、心地よく感じるトルク値があると思います。

なぜ『ツアーAD PT』、『ツアーAD DI』はなくならないのか?

GD ツアーAD 『PT』と『DI』の話を聞きたいんですが、もうこの2本のシャフトは永久不滅の定番商品という感じじゃないですか。

長谷部 もうこれ以上のシャフトは出てこないんじゃないかっていうぐらい定番化していて、改良をしても、やっぱり違うってなっているんじゃないですか。バリエーションもたくさん増えているけど、結局PTを超えられないとか、DIを超えられないというのはあるでしょうね。ちなみに私はDI派で10年以上になりますね。

GD なんで?

長谷部 『PT』は中調子のベストバランス、『DI』は若干手元が軟らかいので中手元調子のベストバランス。この2本は、超えようと思っても超えられない。スチールシャフトの『ダイナミックゴールド』のようなものになっているんだと思います。

GD 完成の領域に達してしまったと。

長谷部 だからそこはもう誰もいじれないし、メーカーですらもう触れられないぐらい市民権を得ているんでしょうね。『PT』と『DI』を支持している人は多いし、使用者も多い。他を試すけど、なんだかんだ言っても、『PT』、『DI』に戻るベテランゴルファーは多いと思います。

GD 『PT』は2006年、『DI』は2009年の発売です。『DI』は15年、『PT』は18年も前のシャフトですが、ちょうど今の大型ヘッドに対しては、あれぐらいの緩さがいいんだよっていう話を聞いたことあります。今のシャフトのほうが締まっている?

長谷部 今のシャフトのほうがトルクは締まっているでしょうね。当時はヘッドが460ccにいくかいかないかでせめぎ合っていた頃のトルク値だと思うんですよね。「3.4」とか「3.5」でしょう。だから「それほどハードにし過ぎないでもいいよね」って言い始めた頃の60グラムぐらいのシャフトなので、ほどよい優しさが残っていて、未だに受け入れられているんじゃないですか。だから、シャープな振り感とか、ちょっとでも飛びを意識すると、素材を硬くしなきゃいけないとなったときに、振り感に影響があって、何か違う感じになってしまうのでしょう。

GD 長谷部さんがかかわった当時のドライバーにも『PT』が入っていたのを覚えています。『PT』をメーカーのカスタムに採用しよう思った理由は? まだあの頃は、カスタムよりも純正シャフト優位の状況で、カスタムを推すのは珍しかったと思うのですが。

長谷部 ツアーに出はじめ、プロが使い出したというのはありますけど、振りやすい中調子のシャフトという評価がありました。自分が打ったときも「これはめちゃくちゃ打ちやすいな」と思ったので、これなら一般のアマチュアも打ちやすさを体感できるなと思い採用しました。

GD グラファイトデザイン超定番がPT、DIだとしたら、他メーカーにも超定番みたいなシャフトってありますか?

長谷部 フジクラで言ったら、『初代スピーダー』。

GD 「青のスピーダー」がいいっていう人多いですよね。

長谷部 改良を重ねているものの、最初の頃の『757』、『661』、『569』ってツアーでも評判が良かった。そのまま受け入れられているところがあるので、弾くシャフト、走るシャフトでは人気がありますよね。

GD 「フジクラ」にしても、『ツアーAD』にしても、昔のシャフトが好きというという声があるのも確か。

長谷部 ちょっと変えなきゃいけないっていうのが改良版の宿命だとすると、定番がいいんだよって、メーカーが言い続けることの難しさがあります。新製品を出しても、なんとなく市場ニーズとズレてしまうのが原因で評価されない結果になりますよね。

GD 女子プロに人気のスピーダーで言ったら、次の世代の『NXシリーズ』になって、『エボリューションシリーズ』のループから抜け出そうとしている?

長谷部 本質的な中身は変わってないかもしれないですけど、ちょっとずつ最新の技術と素材を入れながら、静的な部分と動的な部分で似たような性能を目指していんじゃないですかね。

GD フジクラで言ったら『ベンタス』の人気が上がっています。PGAツアーで人気に火がついて、日本にやってくるというのが最近の流れで、その流れを作ったのは三菱の『テンセイ』が最初だったように思います。

長谷部 この流れは、日本で求められるシャフトの細やかな弾き、しなり、振り感みたいな評価がたぶんアメリカ人にはなくて、棒みたいなシャフトを力任せに振る人たちが多いなかで、凡庸でもいいから、強度の強いもの、暴れないものが求められるアメリカで売れているから、逆に日本で紹介したら、日本でも評価された。ヘッドもアメリカのヘッドだったっていうこともあるかもしれません。

GD 確かに繊細さでいったら違うような気がします。でも、今の外ブラのヘッドに対しては、その感覚がいいんだよ、となっている可能性は……。

長谷部 十分考えられます。本来は振り感だと、シャープな振り心地、気持ちよい振りやすさ、みたいなのを求めていた人たちも、だいぶ細かなフィーリングに対する要求が低くなってきていて、曲がんなきゃいいとか、軽く振り抜ければいいんだみたいな感じになってくる。アメリカ的な発想になって、シャフト自体が動かなくてもいい、そのほうが安定して自分のスウィングの結果がわかりやすいんだってなると、結果的に大怪我しなくなるので、高評価になりますよね。

GD スウィング自体も変わってきている?

長谷部 だいぶ変わってきているから、好まれるシャフトも変わってきます。言い方は悪いですけど大味になってきているのかもしれません。

GD 『アッタス』はどうでしょう。『V2』は女子プロに人気のようです。原英莉花が使っていて、金谷拓実は、長いこと『ジ・アッタス』を使っています。アッタスもたくさん種類がありますが、この2本が定番的存在なのかと思います。どちらも、PTに似た感じのある中調子の打ちやすいシャフトという印象があります。

長谷部 黄色い初代アッタスもそう。「中調子のど真ん中」というシャフトで打ちやすかったですね。

GD 初代アッタスと言えば、丸山茂樹が広めた感じがありますが、確かに評価が高かった。そこから改良を重ねてきたわけですが、10代目の『ジ・アッタス』でまた評価され、『V2』は『ジ・アッタス』をベースに進化させたと言われています。

長谷部 『アッタス』は毎年新製品を出して、常に新しいチャンレンジをしているメーカーなのかなというイメージがあるので、定番的なものは見づらいのですが、女子プロでは『V2』が人気っていうのは確かなので、今後定番化されていくと思います。女子プロの影響がそのように出てくるとすると、カスタムシャフトがより軽量になって、女子プロが飛ばせる軽量シャフトという機軸で、新しい定番が生まれるような気がします。

取材協力/[GDOゴルフガレージ]

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