文●九島辰也 写真●アウトモービリ・ピニンファリーナ・ジャパン

 少し珍しいクルマを拝んできました。まさに“拝む”というのが正しい表現のような滅多にお目にかかれないモデルです。ブランド名はアウトモービリ・ピニンファリーナ。ご存知イタリアの名門カロッツェリア、ピニンファリーナの子会社です。そして彼らが最初に世に出した市販車がバッティスタ。ピニンファリーナの創業者、バッティスタ・ファリーナ氏への敬意からその名が付けられました。

 そのバッティスタの進化版「バッティスタ・チンクアンタチンクエ」と、ハイパーバルケッタ「B95」が日本上陸し、イタリア大使館の庭で顧客とメディア向けにお披露目されたのです。日本での展開を任されたのはスカイグループ。アストンマーティンやベントレー、マクラーレン、マセラティ、さらにはブガッティ云々の正規ディーラーを運営している会社です。つまり、富裕層に近い存在ということですね。クルマに億単位でお金を使うことのできる人たちに慣れているという感じでしょう。

アウトモービリ・ピニンファリーナ バッティスタ・チンクアンタチンクエ

 それはともかく、「バッティスタ・チンクアンタチンクエ」のベースとなる「バッティスタ」はそもそも2019年3月に行われたジュネーブモーターショーで世界初公開されました。フルカーボン製モノコックボディはもちろんピニンファリーナの手によりデザインされ、パワーソースには大容量のリチウムイオンバッテリーと4つのモーターが組み合わされます。総出力は脅威の1900ps。まさにハイパーEVと呼ばれるに相応しい代物です。

 「バッティスタ・チンクアンタチンクエ」はその派生で、ピニンファリーナが設計した1955年製ランチア・フロリダへのオマージュで生まれました。「チンクアンタチンクエ」はイタリア語の“55”を意味します。55年製ってことですね。エクステリアではブルーのボディカラーに白いルーフが当時のフロリダを表現しています。インテリアのマホガニーもそう。ポルトローナフラウ社のヘリテージレザーが使われます。

アウトモービリ・ピニンファリーナ バッティスタ・チンクアンタチンクエ

 一応スペックを記載すると、パワーは1900ps、最大トルクは2340Nmを発揮します。0-100km/h加速はなんと1.86秒。それでいて航続距離は476kmに到達するそうです。う〜ん、電気のチカラは恐ろしい。すべてが桁違いです。

 一方の「B95」と名付けられた屋根空きロードスターもまたアジア初公開となるハイパーEVです。“B”はイタリア語の“バルケッタ”で「小舟」を意味します。かつてフィアット・バルケッタなんて2シーターロードスターがありましたが、イタリア人はこの手のクルマを昔からこう表現します。フェラーリもそうですし……。“95”はピニンファリーナの95周年を意味します。2025年がそれに当たるので、その年に納車がスタートする予定だとか。何たってこちらは世界限定10台ですから、かなり貴重です。「バッティスタ・チンクアンタチンクエ」の台数はわかりませんが、ベースの「バッティスタ」が限定150台だったことを鑑みると10台よりは多いかもしれません。

アウトモービリ・ピニンファリーナ B95

 とはいえ、この手の領域になるともはや詳細はわかりません。というのも、クルマ自体はそれぞれビスポークで仕立てられるからです。今回展示されたこの状態をそのまま欲しいという方も中にはいらっしゃるでしょうが、大方自分の好みにオーダーし直します。まさにスーツ同様“仕立てる”感覚ですね。

 それにしても「B95」はシートは素敵でした。ショルダー部分から上のテキスタイルがとてもおしゃれ。ツイードのジャケットのような柄が印象的です。これはいいアイデアだと思います。ここまでハイエンドなモデルでなくてもこれを参考にすることは可能でしょう。生地の耐久性など色々障害はあると思いますが、できないこともない気がします。今度親しいカーメーカーに提案してみようかな。

 なんて感じで、手に負えない領域のクルマではありますが、いい刺激になりました。やはり世界の富裕層向けは別物ですね。EVがここまで発展しているとは驚きです。

著者:九島辰也(くしま たつや)