発酵のぎもん

「発酵バター」ってなに?
普通のバターとどう違う?

「発酵バター」と「非発酵バター」

お菓子づくりにはもちろん、トーストに塗ったり、料理の際に使ったりと、私たちの食事に欠かせない「バター」。その起源については定かではありませんが、紀元前4000年のイスラエル遺跡からバターをつくる道具が見つかったという話や、紀元前2000年頃のインドの経典にバターらしきものの記述があるなど、古くからあったものだと推測されます。

バターとは、牛乳の乳脂肪(クリーム)を集めて練り固めたもの。厚生労働省の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」では、乳脂肪分80.0%以上、水分17.0%以下のものがバターと定められています。また、バターにも種類があり、製造方法によって「発酵バター」と「非発酵バター」に分けられ、さらにそれぞれ成分によって「有塩バター」と「無塩バター」に分類されます。

発酵バター

製造過程で原料の乳脂肪(クリーム)に乳酸菌を加えて乳酸発酵させたもの、もしくは、できあがったバターに直接乳酸菌を練りこんで乳酸発酵させたもの

非発酵バター

一般的にバターといわれるもので、生乳から分離させた乳脂肪(クリーム)を撹拌(かくはん)し、脂肪球を凝集させたもの

有塩バター

製造過程で食塩を加えているもの。食塩が入ることで保存期間も長くなる

無塩バター

製造過程で食塩を加えていないもの。ただし、原料の生乳にわずかな塩分が含まれているため「食塩不使用」と表記されている


紀元前につくられていたとされる古来のバターは発酵バターで、今のようにあえて発酵させていたのではなく、乳脂肪(クリーム)を攪拌(かくはん)していくあいだに時間がかかり、自然と発酵してしまったんだとか。ヨーロッパではそのままバターが食生活に浸透したため、現在でも発酵バターが主流となっているそう。

一方、日本におけるバターの歴史はまだ浅く、今のようなバターが登場したのは明治時代になってから。近代的な製造技術と共に導入され、非発酵バターが一般的になりました。日本と同様に、アメリカやオーストラリアでも非発酵バターが主流になっています。

なお、バターと同じ使い方をするものにマーガリンがありますが、バターが乳脂肪分からつくられるのに対して、マーガリンはコーン油・大豆油・なたね油など食用の植物性油脂に水素を反応させてつくられるため、まったくの別物です。

発酵バターの特徴

発酵バターは、原料となる乳脂肪(クリーム)やバターに乳酸菌を加え、乳酸発酵させてつくるため、深みのある風味やコク、特有の爽やかな酸味と香りを楽しめます。これは乳酸発酵によって生まれるもの。ただし、製法の違い(どこで乳酸菌を加えるか)や、原料の生乳及び乳酸菌の種類によっても味や風味に違いがあります。

使い方は普通のバター(非発酵バター)と同じで、トーストに塗るほか、料理やお菓子づくりの材料としても活用できます。バターの香りや風味が際立つソテーやソースなどに使うのが特におすすめ。また、お菓子づくりには一般的に無塩バターを使います。無塩の発酵バターをマドレーヌやクッキーなどの焼き菓子に使えば、発酵バターならではの豊かな香りが引き立ちます。

発酵バターと普通のバター(非発酵バター)はもちろん、メーカーによる発酵バターの味の違いを、食べ比べしてみるのもおもしろいかもしれません。自分好みの発酵バターやその使い道をぜひ見つけてみてはいかがでしょうか。

監修:小泉武夫(こいずみたけお)
1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。東京農業大学名誉教授のほか、全国の大学で客員教授を務める。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。食にまつわる著書は140冊以上。国や各地の自治体など、行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任。発酵文化の推進ならびにその技術の普及を通じてさまざまな発展に寄与することを目的とした「発酵文化推進機構」の理事長も務める。 発酵文化推進機構公式サイト