読者のお悩みに専門家が答えるQ&A連載。今回は63歳女性の「義母が生前作った趣味の作品の処分が進まない…遺志に背かない、いい処分方法を知りたい」という相談に、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く、住職・名取さんが回答します。

63歳女性「義母が大切にしていた物」についての相談

義母が亡くなって、もう4年という歳月が経ちました。しかし、義母の家が片付きません。義母は多趣味で墨絵や人形飾りなどを作ったり、和洋裁を楽しんでいました。それらの大小さまざまな作品が、今でもたくさん残っています。

以前、義母に「あなたはすぐに物を捨てる」と言われたことがあり「作品などを捨てるのは、義母の遺志に背くことになるのではないか……」と思って、なかなか片付けを進められません。

それでも少しずつ作品を捨てたり、譲ったりしているのですが、まだまだたくさん残っています。特に墨絵の作品は大きく、処分も譲ることもできずにいます。

義母の家の片付けのことを考えるだけで疲れてしまいます。故人の遺志に背かずに、作品を片付ける方法があればいいのですが……。

(63歳女性・お気楽さん)

名取さんの回答:方法は2つ!「戒名」があるか、ないかで変わる

名取さんの回答:方法は2つ!「戒名」があるか、ないかで変わる

“故人の遺志に背かず”が難題ですね。でも、大丈夫です。

お義母様が戒名をもらっている場合と、そうでない場合について、今回は徹底して坊主の立場でお答えしていきます。

もし、お義母様が戒名をもらっているなら、仏教徒になったということです。仏教徒は、いつでも、どんなことがあっても、心穏やかな人になることを目指します。

ですから、お義母様は心穏やかになるのを邪魔する“執着(しゅうじゃく)”から離れる教えを学び、その道理を納得しているはずです。
※執着(しゅうじゃく):物事に固着して離れないこと。忘れずにいつも心に深く思うこと。とらわれ。 

執着は心を縛り自由を奪います。執着しているものを失うのが嫌なので、それが怖くて心は穏やかにはなれません。

お義母様が残した物は、書いたり、作ったりした時点で、本人の思いは完結しているでしょう。

仏教徒であれば、それがその後、どうなろうと大した問題ではないはずなのですが、記念品として保存しておきたくなるのは人情でしょう。しかし、その記念品も本人がこの世の役割分担を終えれば、記念品としての役目を終えます。

ですから、お義母様が仏教徒になっているなら、作品を処分しても何の差し障りもありません。あとは、遺族が故人の思い出代わりの形見として一つもらっておけば、それでいいでしょう。

仏教徒になったお義母様は今頃「死ぬ前は誰かが大切に保管してくれると期待していたけど、それは私のワガママだって気付いたわ。何か(穏やかな心)を得るには、別の何か(執着)を捨てるのが一番の方法だってわかったの」と笑っていると思います。

「戒名」がない場合はお焚き上げで物と遺志を分離

「戒名」がない場合はお焚き上げで物と遺志を分離

次に、戒名をもらっていない場合です。

この場合は、お義母様の生前の思いが彼女の品々に絡みついている気がするでしょう。故人の思いが作品に憑依(ひょうい)している気がする上に、「すぐにモノを捨てる」と皮肉を言われたことも相まって、“触らぬ神に祟りなし”と、処分に踏み切れないという心情は、とてもよくわかります。

でもご安心ください。

ゴミとして処分できないものは、近所のお寺や神社に持って行き、お坊さんや神主さんに物と故人の遺志を分離してもらい、作品をお焚き上げしてもらえばいいのです(事前に受け入れてくれるかを確認してください)。

お焚き上げの料金(お布施や玉串料)も、遠慮なく尋ねてください。私のお寺ではお気持ちで結構ですとお伝えしています。量や大きさにもよりますが1000円〜5000円というところでしょうか。

納得できる金額でなければ、納得できる額を提示してくれる所を探せばいいでしょう。家の片付けができないストレスに比べれば、たいした手間ではありません。

「戒名」がない場合はお焚き上げで物と遺志を分離

お義母様が残した物が、お気楽さんの精神的負の遺産にならないよう、フットワーク軽く動けるのをお祈りしています。

お義母様もあの世で「そうだよね。心の荷物を軽くするには、家にある荷物は処分しないとね。迷惑をかけるわね。ごめんね。頼んだわよ」と、お気楽さんに向かって手を合わせていると思います。

回答者プロフィール:名取芳彦さん

回答者:名取芳彦さん

なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所所長。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)『気にしない練習』(三笠書房)、『心がすっきりかるくなる般若心経』(永岡書店)など、著書多数。