「おしっこが我慢できない」「尿意を感じてからすぐに漏らしてしまう」など、過活動膀胱はQOLを低下させる要因にもなるため、症状セルフチェックや治療法などを知っておきましょう。尿道の締まりに関係する骨盤底筋の意識付けができるグッズもご紹介!

トイレが我慢できない!考えられる病気は?

トイレが我慢できない!考えられる病気は?

「おしっこをしたくなると我慢できない」「急に尿意を感じ、トイレに行くまでに漏らしてしまう」などの症状はありませんか?

このように、突然我慢できないほどの強い尿意が起こることを「尿意切迫感」といいます。

尿意切迫感は、「過活動膀胱」の主な症状です。まずは過活動膀胱とはどのような病気なのか、症状や原因などについて詳しく解説します。

尿が我慢できないときに考えられる「過活動膀胱」とは?

「過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)」とは、尿意切迫感を主症状とする病気です。

頻尿(1日8回以上トイレに行く)や夜間頻尿(夜間に2回以上トイレに行く)の症状を伴うことが多く、切迫性尿失禁(我慢できずに尿を漏らしてしまう)を伴うこともあります。

通常、腎臓で作られた尿は膀胱にたまり、適量に達すると膀胱にあるセンサーが働いて脳に信号が送られ、脳からはトイレに腰を下ろすまで尿が出てしまわないように指令が出されます。

しかし膀胱の神経が過敏になっていると、尿が十分にたまる前に勝手に膀胱が収縮してしまい、突然強い尿意を感じるようになるのです。

ただし、膀胱炎や膀胱がん、尿路結石などによって過活動膀胱が生じている状態は含みません。それ以外で尿意切迫感がある場合のことを、過活動膀胱と呼びます。

過活動膀胱は40代以上から注意が必要な病気

過活動膀胱は、性別に関係なく若い世代から高齢者まで幅広い年代に起こりますが、特に40歳以上は注意が必要です。

日本排尿機能学会の「排尿に関する疫病的研究委員会」が実施した調査を基にした推計では、40歳以上の過活動膀胱有病者は810万人にのぼるという結果が出ています。

40歳台は女性の方が有病率が高く、50歳以上は男性の方が高いことや、尿意を我慢できずに漏らしてしまう尿失禁の症状を伴う人が430万人いることなどもわかっています。

また、受診率は男性と比べて女性が著しく低く、年齢にかかわらず10%前後もしくはそれ以下であることもわかっていますが、過活動膀胱はQOL(生活の質)を低下させたり、低活動膀胱(膀胱の収縮力が弱く、尿をうまく出せない)原因となるため、疑わしい症状があるときは一度受診しましょう。

過活動膀胱の原因

過活動膀胱の原因は一つではありません。原因を特定できないケースもありますが、以下のような病気が原因となって起こることがあります。

  • 脳血管障害
  • パーキンソン病
  • 認知症
  • 多系統萎縮症
  • 脊髄損傷
  • 多発性硬化症
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊髄腫瘍
  • 頸椎症
  • 後縦靱帯骨化症
  • 脊柱管狭窄症
  • 骨盤臓器脱
  • 前立腺肥大症 など

過活動膀胱には、脳や脊髄の疾患などによる神経性のものや、骨盤臓器脱などの骨盤底筋障害や加齢による膀胱機能の低下で起こる非神経性のもの、明らかな原因のない突発性のものがあります。

女性の場合、加齢による女性ホルモンの低下も原因の一つです。

女性ホルモンのエストロゲンは、尿をためておく蓄尿機能に影響しているといわれているため、更年期以降の女性は特に注意しましょう。

過活動膀胱の症状セルフチェックリスト

過活動膀胱の症状セルフチェックリスト

過活動膀胱かどうかは、症状質問票をチェックするだけで調べられるため、まずは以下のセルフチェックをしてみることをおすすめします。

ただし、これはあくまでもセルフチェックです。チェックの結果、問題がなかった場合でも、気になる症状や不安なことがあれば、医師に相談しましょう。

Q1:朝起きてから寝るまでに、何回くらい尿をしましたか?

7回以下:0点

8〜14回:1点

15回以上:2点

Q2:夜寝てから起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか?

0回:0点

1回:1点

2回:2点

3回以上:3点

Q3:急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか?

なし:0点

週に1回より少ない:1点

週に1回以上:2点

1日1回くらい:3点

1日2〜4回:4点

1日5回以上:5点

Q4:急に尿がしたくなり、我慢できずに尿を漏らすことはありましたか?

なし:0点

週に1回より少ない:1点

週に1回以上:2点

1日1回くらい:3点

1日2〜4回:4点

1日5回以上:5点

これらのチェック項目は、過活動膀胱症状スコア(OABSS)によって構成されています。

Q3が2点以上で全体の合計点数が3点以上の場合は、過活動膀胱の可能性があります。全体の合計点数が5点以下だと軽症、6〜11点だと中等症、12点以上は重症だと考えられるため、該当する場合は泌尿器科やウロギネ外来(婦人科と泌尿器科の中間の診療科)を受診しましょう。

なお、急に強い尿意を感じてトイレに駆け込んでも間に合わない、力を入れていないのに尿が漏れる場合、もしくはQ4の点数が2点以上の場合は切迫性尿失禁の可能性があります。

また、咳やくしゃみ、笑ったとき、重いものを持ち上げたときなど、お腹に力を入れると漏れてしまう場合は腹圧性尿失禁の可能性があるでしょう。

過活動膀胱の検査と治療

過活動膀胱の検査と治療

過活動膀胱は症状に基づく病気であるため、どのような自覚症状がどのくらいあるかが非常に大切です。

「おしっこが我慢できない」などの尿意切迫感の症状があれば、過活動膀胱である可能性が高く、頻尿や切迫性尿失禁の症状を併発していれば、より高い確率で過活動膀胱と診断されます。

過活動膀胱が疑われる場合、泌尿器科などの医療機関では他の病気と見分けるために、問診のほかにもさまざまな検査を行って診断を確定し、治療を始めます。では、具体的にどのような検査と治療を行うのでしょうか。

ここでは、過活動膀胱の検査と治療について詳しくご紹介します。

過活動膀胱の検査

過活動膀胱は、問診のほかに以下の検査を行って診断を確定します。

  • 内診(女性のみ):状態によって膀胱脱や子宮脱などの骨盤臓器脱がないか、局所の視触診を行う。
  • 直腸診(男性のみ):状態によって前立腺の形や硬さ、痛みの有無を前立腺に触れて確認する。
  • 尿検査:腎機能の状態や感染症の有無などを調べる。
  • 尿流測定:トイレ型の検査機器に排尿して尿の勢いや排尿量、排尿時間などを数値化する。
  • 超音波検査:尿の残量や膀胱の状態を調べたり、結石や腫瘍の有無、腎臓の腫れなどがないか確認したりする。排尿直後の膀胱に100ml以上の尿がある場合は詳しい検査が必要。
  • 血液検査:主に前立腺がんの鑑別のために男性に行われる。
  • 排尿日誌:排尿した時刻や排尿量を患者さん自身が日誌に記録する。
  • 内圧尿流検査:尿道から膀胱に管を入れて生理食塩水を注入し、そのときの内部の圧力を測定する。

過活動膀胱は、膀胱炎や膀胱がん、尿管結石、膀胱結石などではないと確認できて初めて診断される病気であるため、自己判断せずにきちんと受診して検査を受けましょう。

過活動膀胱の治療

過活動膀胱には、主に薬物療法が行われます。それに併せて膀胱訓練や骨盤底筋体操などを行うとさらに効果的です。

ここでは、過活動膀胱の治療について詳しくご紹介します。

薬物療法

過活動膀胱の治療として一般的なのは薬物療法です。薬によって膀胱の神経が過敏になった状態を緩和させます。

過活動膀胱の治療薬として使用されるのは、膀胱の収縮を抑える「抗コリン薬」と、膀胱の広がりを促進しておしっこをためやすくする「β3受容体作動薬」などの内服薬です。漢方薬が使用されることもあります。

ただし、抗コリン薬やβ3受容体作動薬は、唾液の分泌量を減少させる可能性があるため、口のかわきがひどい場合は医師に相談しましょう。

ボツリヌス療法

一般的な薬物療法で効果がみられなかった場合は、膀胱の筋肉に直接ボツリヌストキシン製剤を注入する「ボツリヌス療法」が適応となります。

ボツリヌストキシン製剤、いわゆるボトックスは、美容外科や形成外科で眉間やおでこなどのシワを取る治療に使われることで知られている薬剤です。

それと同じものを使用して、膀胱の内側表面の筋肉にボツリヌストキシン製剤を直接注入することで、膀胱全体が過剰に収縮するのを抑え、過活動膀胱の症状を改善します。

症状の程度によってはボツリヌス療法が保険適用となるため、薬物療法で思うような効果を得られなかった場合は相談してみるとよいでしょう。

膀胱訓練

膀胱訓練とは、尿意を感じてもできるだけ我慢して、膀胱の容量を徐々に広げていく訓練のことです。尿を漏らさないように早めにトイレへ行くことも大切ですが、過剰にトイレを気にすると、膀胱がおしっこをためられなくなってしまう可能性もあります。

以下は、具体的な膀胱訓練の方法です。

  1. まずは5分間、尿意を我慢するところから始め、1週間ほど続ける。
  2. その後は、10、15、20分といったように徐々に排尿までの間隔を延ばしていく。
  3. 尿意を感じてから2〜3時間ほど我慢できるようになるまで根気よく続ける。

膀胱訓練と並行して排尿日誌をつけると、尿トラブルが起こりやすい時間帯などがわかり、対策が立てやすくなります。

骨盤底筋体操

膀胱や子宮などの臓器を支えている「骨盤底筋」をトレーニングして尿道の締まる力を鍛えることで、過活動膀胱の症状を緩和できる場合があります。

特に出産を経験し、更年期を迎えて女性ホルモンの分泌量が低下し始めると、骨盤底筋の筋力も低下していくため、その対策として日頃から以下の方法で骨盤底筋を鍛えましょう。

  1. 仰向けに寝転がり、両足を肩幅くらいに開いて両膝を軽く立てる。
  2. 尿道、肛門、膣をキュッと閉めたり緩めたりする動きを、2〜3回繰り返す。
  3. 次にゆっくりギュッと締め上げて3秒間ほどキープ。その後、ゆっくりと緩める動きを2〜3回繰り返す。締める時間は少しずつ延ばしていく。

上記は横になって行う方法ですが、骨盤底筋体操は立っていても座っていても、四つん這いでもできるため、日常の中で気付いたときに行いましょう。