「伊勢に行きたい伊勢路がみたい。たとえ一生に一度でも」と古くから多くの人が憧れた伊勢参り。それはいまでも少なからず残っているのか、三重県出身と話すと〈伊勢神宮〉の思い出話で盛り上がることもしばしば。年末年始も近づいてきた2022年最後の朝パン日誌は、お伊勢参りの際に立ち寄りたい伊勢街道沿いにある素敵なパン屋さんを紹介します。

かつての街の面影に思いを馳せながら…

伊勢街道とは四日市の日永で東海道と分かれて、伊勢へと繋がる道。
お伊勢詣りに行くときは外宮から内宮へと訪れるのが習わしとなっており、いまではバス移動が主流となっていますが、もちろん昔は徒歩。そのときに使われていたのがお店と面した伊勢街道の一つである「古市街道」です。江戸時代には参拝に訪れる人や地元の人が行き交う賑やかな街道だったそう。その街道沿いにあるログハウスの雰囲気が印象的なパン屋さんが〈La Pain(ラパン)〉。カウンターのみの小さなお店ですが、至る所にお店のエッセンスを感じさせてくれるようなこだわりが感じられて、入る前からウキウキしてきます。

こちらに並んで順番を待ちます。
かなり種類が減ってしまっていますが、バラエティ豊かなラインナップ!
一つ一つ選んで取っていただくスタイル。オススメも教えてくれます

お昼の12時頃に到着するとお客様が行ったりきたり!いまでは道幅もせまく静かに見えるこの道もこの場所には人々が集う温度を感じて、昔の賑やかな雰囲気にしばし思いを馳せたくなります。
さぁ、いよいよ私の番。すると「お待たせしてすみませんー!もう結構パンなくなってしまってー!」と伊勢弁の柔らかなイントネーションで温かく迎えてくださいました。猛烈に心が和んで、素敵なお店に出会えた充足感にすでに満ち足りた気持ちに。

「ウインナーぱん」
気泡が細やかでゆっくりと押し返すもっちりさ。

ふかふかで空気を蓄えた生地は、繊細な口当たり。低反発クッションのようなモチモチさに身も心も包まれます。なんでしょう…一口齧ったら、あの優しい声で話しかけてくださったお店の方のお顔が、あの時のあったかい気持ちと共に目に浮かんでくるではありませんか。お店の柔らかな空気感をそのまま映し出してくれているような味わいなのです。生地からは穏やかに甘みが届き、朝を励ましてくれるエールのよう。そこにチーズとウインナー、どちらも主張をしすぎず生地の持つ甘みと仲良くやっています。仲良くするって言葉にすると簡単なようで実は本当に難しいよね(どうした)。

「ツインクル」
ぐるりんと巻かれた形に一目惚れ。真っ先に選んだ子。

切り株のような形のデニッシュです。リベイクしていただきました。表面と底はカリカリ。対する内側はというと、君たち甘やかされて育ったのね?とイジワル言いたくなっちゃうほど、ゆるふわ系です。上下のカリカリ部分を支えていられることが不思議なくらい、空気をたっぷり吸いこんだ繊細な口当たりはふわふわと柔らかい。トップは少しシロップが塗られているのかデニッシュらしい甘さに満ちています。ゆるふわ系って一括りにしたらきっと怒られちゃうほどシンプルに生地の食感や風味を楽しみたくなるパン。

「はちみつ塩パン」
みっしりでふわんふわんでふにゃんふにゃん(擬音攻め)。

おぉ??これは初めての食感かもしれません。こんなにたくさんのパンを食べてきているのに(ありがたいことに連載は今回で120回目)、まだ“初めての食感”があるもんだ。だからいつまでたってもパンを追いかけたくなっちゃうんですよね。まずダイレクトに感じるのは湯種のようなもっちもちさ。生地自体は密度が高く詰まっているのに、ふにゃんとすぐに溶けてしまいそうな柔らかさで予想を裏切る感触に遊ばれます。一口目のもちもち感を入り口に、そこから小麦の香ばしさが脳まで届くと、国産蜂蜜の穏やかな甘さが滲み出てきて高揚感は天井知らずの領域に。
そしてですよ!底は隠しきれないバターでテラテラと輝き、ガブっと被りつくたびにジュワッとバターが染み出すのです。一口毎にううう!っと声にならない歓喜の雄叫びが止められません(危ない人)。いうなれば天まで伸びた高揚感を今度は全身で浴びる気分とでもいいましょうか(どういうこと?)。塩気も甘さも強すぎないので小麦の味わいにもフォーカスできて、バターのジャンキーさも解放してくれる。優しいのか弄んでいるのかわからないよ…完全に翻弄されてしまった私がいました。

今回の第120回で「花井悠希の朝パン日誌」は最終回となります。5年にわたって、全国津々浦々、有名店から街の小さなお店までたくさんのパンと出会い、感動し、元気をもらってきました。うんちくや細かいことは後にして、素直に受け止め楽しんで、感じた熱量をそのままラブレターのごとく綴ってきた本連載。読者のみなさまの朝を豊かにしてくれるお気に入りと出会うきっかけになっていたらうれしいです。今回で最後となってしまいますが、また違った切り口で!?パンにまつわる楽しいことを発信していく予定です。これからもぜひ楽しみにしていただけたら幸いです。これまで朝パン日誌を楽しみにしてくださっていた皆さま、ありがとうございました!

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