第3回 音楽家として

数々の受賞歴をもつ実力派ピアニストにして、登録者60万人を誇る人気YouTuber「かてぃん」として分野を超えた活躍を続ける角野隼斗さん。「東京大学総長大賞」を得て2020年に東大大学院(AIと音楽)を卒業し、音楽家として生きることを決意。

従来の枠組みにとらわれず、ジャンルを超え、新しいスタイルに挑戦し続ける姿勢はどのようにかたち作られたのか。幼少期からのエピソード、習い事、受験、家族関係、中高時代の過ごし方などをご本人にうかがいながら、その一端に触れたいと思います。 角野さんへのインタビューシリーズも最終回。今回は、現在の角野さんご自身について掘り下げます。

第一回の記事はこちら
第二回目の記事はこちら

Only oneの何かを作り出すことで、プレッシャーをはねのける

2018年、4万人以上が参加したピティナ・ピアノコンペティションの最高賞である特級グランプリ受賞をきっかけに、本格的に音楽家としての道を歩み出された角野隼斗さん。

――音楽家という職業を選ばれたことで、厳しい世界でプレッシャーと闘うことになったのでは想像しますが、日々どんな気持ちで臨まれていますか?

「プレッシャーをコントロールする方法は、好奇心をモチベーションの源にすること、だと思っています。モチベーションは何から生まれるかというと、僕の場合は『自分にしかできないことを見つける』こと。

世界は広いから、自分だけしかできないことなんてそうそう生まれないけど、少なくとも自分が見える範囲でOnly oneの何かを作り出すことが、自信を生み出し、プレッシャーをはねのけます。

開成に入って自分を客観視したことや、東大大学院で四六時中プログラミングや数学のことを考え続けているすごい人達の中で『自分が一番できるのは音楽なのかもしれない』と考えた経験が、根本にあるのかもしれません」

――Only oneの何かを作り出し、自分もOnly oneであること。角野さんの、挑戦を続ける強さはここから来ているのですね。でも、たまには落ちこんでしまうということはありませんか?

「僕は、元々物事を冷静にみてしまう方で、過度に期待して失望する、落ち込むということがないんです。前向きだと言われることもありますが、実はポジティブではない。

というか…、人ってどういう時に落ち込むんでしたっけ?(一同驚き、笑)。そりゃ、高校時代に彼女にふられたときは落ち込みましたけど、ひとりでたそがれてるのも悪くないなって思えたりして(笑)。そういう時は感情が「無」になるような気がします。傷つきすぎないように、ネガティブな時は感情がシャットダウンするように体ができているのかな。

概して、感情の波は激しくないかと。ピアノを弾いているときは、感情は出ますが。気持ちが高揚して楽しいから、つい笑ってしまうんですよね〜」

確かに、曲にもよりますが演奏を拝見するとこちらまで楽しくなるような笑顔です。笑いながら弾くピアニストはあまり見たことがないので、新鮮です。ピアノを弾くというより、ピアノが角野さんの一部として歌っているような感覚を覚えます。

教育というテーマで取材したので、子育て現場のキーワード「自己肯定感」について触れてみたかったのですが、そんな質問がつまらなく思えてきました。自然体でありながら、しなやかな強さや意志をあわせもっている角野さんは良い意味で「自由」です。

子どもの主体性、興味や「好き」を尊重してこられた家庭の方針が、大人になりこのようなかたちに結びついたのかもしれません。

この手でOnly oneを作り出す

新しい挑戦をするときには、確固たる裏付けをもって挑む

――Only oneを目指して新しいことに挑戦するという流れで、音楽活動でこころがけていらっしゃることは?

「クラッシックはその伝統の長さからも、守るという方向に行きがちです。そこで新しいことをするには怖さも感じますが、その怖さをうわまわる工夫や表現をしたいです。そのためには、確固たる裏付けが必要。そして受け手(聴衆)に楽しんでもらえるように。

他人と違うことや、新しいことやるのは実は簡単です。弾き終わって最後にピアノを破壊するとか。でも、それでは唐突すぎて人々に受け入れられないでしょう。なぜピアノを破壊するかという確固たる裏付けがあれば、現代音楽として認められるかもしれませんが……。極端な例を挙げましたが、僕が伝えたいのはそういうことです。新しいから何でも良いわけじゃない。

今までの歴史の流れからどう考えるかという視点は大切で、僕の場合は 200 年前のリストがあのスタイルで成功していたということが大きな裏付けになりました。彼をロールモデルとして、クラシック作品と自分のオリジナルやアレンジ作品を混ぜたアルバムを作りました。今までの歴史の流れからどう考えるかという視点は、しばしば思考の助けになります」

角野隼斗 1st.フルアルバム『HAYATOSM』(初回盤)

私は、音楽についてはあまり詳しくないのですが、このアルバムの曲目を初めて目にした時の印象は「(良い意味で)野心的!」でした。クラッシック曲原曲、クラッシックのアレンジ、ご自身の作曲が全て並ぶという、力量やセンスをすべて見せる作りです。音楽の歴史が新しく作りだされる瞬間に立ち会っているのでは、とゾクゾクしました。

特に1曲目の角野さんオリジナルのピアノソナタ第0番「奏鳴」は、旅立つ時に勇気づけてくれるように感じ、ぐっときました。実は私、コロナによる海外からの一時退避中で、娘と二人転々と居を移す生活が1年以上続いています。後からこの時代を思い出す時に忘れがたい一曲となりそうです。

取材全体をとおして、角野さんはそつなく、正しい努力をされてきたという印象を受けましたが、きっと葛藤や悩みもあっての現在のはず。その過程が「奏鳴」に表れている気がします。あくまで私見ですが。

このほかYouTube上では、珍しい試みをとりいれた動画が観られます。トイピアノや鍵盤ハーモニカとグランドピアノを組み合わせた演奏は、お子さん達も一緒に楽しめるでしょう!遊び心と真面目な実験精神にあふれ、それでいて品のある作品群です。

【角野隼斗さんの動画一覧】

コロナ禍の子ども達へ。「自発的な姿勢で、物事をとらえてみよう」

――最後に、コロナ禍の子ども達とその保護者達へのメッセージをお願いします。

「みなさん、大変な時期を過ごされていますが、その中でも楽しめることをみつけて……、いや、これは皆が言うことだから、あえて違うことを言おう。

みなさん、コロナで家にこもる時間が増えたかもしれません。今はネット、ゲーム、テレビ、漫画などのコンテンツがあふれているので、退屈はしないですが、その分あっという間に時間がすぎていきます。なんとなく遊び、なんとなく観るだけでは、受動的になってしまいます。その瞬間楽しいだけで、何の意味も持たないなんて、そんなのもったいない。

何か意識をもって物事に接すると、きっと得るものがあります。『何で人気があるのだろう』『何がこんなに面白くしているのだろう』『突きつめたらどうなるのか』という問いをもって、自発的な姿勢で楽しんでもらえれば、何らかの学びや気づきがあり、将来につながるはずです」

私が、角野さんに興味を持ったきっかけはYouTube動画ですが、取材にまで至ったのはご自身の考え方を発信されている文章を読んだからです。

角野さんの、違う一面をのぞいてみたい方は是非!

角野隼斗さんをかたち作るもの

・Only oneの何かを作り出す努力が、自信につながる
・好奇心をモチベーションに。自分にしかできない何かを探し続ける
・新しい挑戦には、確かな裏付けをもって挑む(歴史、人、さまざまな先例を参考に)
・物事に接する時は、「なぜ?」「突きつめたらどうなるの?」と問いかけて

【角野隼斗(すみのはやと)氏プロフィール】
1995年生まれ。父、母、妹の4人家族。2018年に4万人以上が参加したピティナ・ピアノコンペティションの頂点である特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。同年、フランスで音楽情報処理の研究に従事。海外でのリサイタルやコンサート出演も。2020年12月、1stフルアルバム『HAYATOSM』リリース(オリコンデイリーアルバムランキング最高位8位)。同月のサントリーホールソロリサイタルチケットは5分で完売。
角野隼斗 1st.フルアルバム『HAYATOSM』
https://hayatosum.com/archives/discography/1211
公式サイト:https://hayatosum.com/live
YouTube:https://www.youtube.com/user/chopin8810
Twitter:https://twitter.com/880hz
note:https://note.com/880hz

【公演情報】

https://hayatosum.com/live

NEO PIANO CO.LABO. “Invention”
2021年2月11日(木・祝日)18:30開演 / 20:00終演(予定)、アーカイブ視聴期間は〜2021年2月21日(日)23:59
会場:舞浜アンフィシアター(無観客配信)
出演者:かてぃん(角野隼斗)・菊池亮太・けいちゃん・ござ
公式ホームページ http://neopianoco.jp/
チケット購入 https://eplus.jp/neopianocolabo/
*YouTubeで大人気のピアニスト4人が競演。

光が丘IMAブランチコンサート第9回 ピティナ特級グランプリシリーズ「角野隼斗」
2021年3月27日(土)第1部12:00開演、第2部15:00開演
出演者:角野隼斗
会場:光が丘IMAホール
第1部・第2部:大人2,000円/学生1,500円/小学生以下500円
チケット購入(3月5日発売開始)https://eplus.jp/sf/detail/3363910001*第2部は、子どもとファミリー向けの参加型のプログラム。トイピアノやピアニカが登場する「ミニチュア楽器祭」と「リクエストコーナー」も。

取材・文:岡本聡子

撮影:野口けいこ

(この記事は、2021年1月末時点の情報に基づきます)