今年冬頃から、日本でもワクチンパスポート制度が導入されるかもしれません。使用場面は、国内の移動や施設入場・外食、海外旅行、などが想定されています。
先にワクチンパスポートの運用を開始、義務化を検討した国々の状況をご紹介します。
(この記事は、2021年10月1日時点のデータに基づいています)


イギリス:成人人口の9割がワクチン接種済み。デモ参加者の主張は多岐にわたる。

イギリスでは、成人人口の9割近くがワクチン接種済。同国では、ワクチンパスの全面義務化は行われていません。

イギリス在住日本人によると、毎週月曜に国会議事堂前で新型コロナウィルスに関する集会が行われているそうです。
たまに大規模集会も行われますが、感染予防のためほとんどは50人以下。オンライン集会がさかんだそうです。

「ワクチン反対」「コロナパスの義務化反対」という人々以外にも、
「ロックダウンの効力がないことを明らかにしたい」
「感染者発見や追跡をもっとしっかり」
「NHS(国民保健サービス)職員の給与を上げろ(下げろ)」
と、さまざまな主張が行われています。

もともと、集会、議論好きのイギリス人。政治的に何か言いたい人達が集まるわけです。
「自分はワクチンを2回打ったけど、コロナパスや接種圧力には反対。人権侵害反対」
「選択と自由、民主主義を守りたい」
と、人権や民主主義に言及する人達も。

政府も人権には気を配り、「ワクチンを受けない人への差別を許さない」という内容の嘆願書をウェブサイトで署名受付していました。

最近は、
「コロナの起源をはっきりさせるために、イギリス政府に圧力をかけよう。このまま黙って納得はできない」という主張が増えているそうです。

スイス:接種率は足踏み状態。自然免疫や個人の幸せを重視?

スイスは欧州でもコロナ感染が深刻な国のひとつでした。必要回数ワクチン接種率(人口比)は60%程度と、のび悩み中。

2021年9月13日より、ワクチン接種や陰性、り患済みであることを証明する「COVID証明書」の提示を義務付ける範囲が拡大されました。レストランの屋内エリア、文化・レジャー施設、屋内イベントの利用時も義務となりました。日本からの、ワクチン未接種の観光客は受け入れていません(注1)。

スイス東部在住の日本人介護職員みつこさんによると、スマホにワクチンパスポートをダウンロードして使う人が多いそうです。

みつこさんによる観察です。
「スイス人は、ワクチンや薬があまり好きではない気がします。コロナについても正しく理解しているのかどうか……。『悪い人は口を隠す』と考える国なので、以前から観光客のマスク姿は嫌がられていました。

インフルエンザなどに対しても、自然免疫をつけよう、という考え方でのぞむ人が多いです。
4年前、ひどい咳に困った私が、職場にマスクをしていくと、『人類は、病気をうつしあい、克服して進化してきた。ウィルスや菌に感染しても、どうなるかはその人の免疫力次第。だから、マスクなんてしなくていい』と言われました」

自然免疫ですか……!
スイスには大きな製薬会社本社があり、地下シェルターを各家庭に備えているという「慎重で、強い守りの、科学的な国民」というイメージだったので、意外です。

みつこさんはさらに続けます。
「スイスの方は、我々はペストにも勝ってきたんだよ! って、言うんですよ〜。すごいでしょ?」

さらに「コロナのことさえよく分かっていないのに、なぜ素直にそのワクチンを打つのかが分からない」という論理的な反論も。

元々、他人や国の言うことを鵜吞みにせず、自分で見てから判断するというプロセスを大切にする国民性。みつこさんの勤務する介護施設では、家族との面会も制限なく行われています。

「ロックダウン中に面会謝絶して、何がうまれた? 余命短い人達は、愛する子や孫、友人に会えずに死んでいってよいのか? コロナから一体何を守るのか?」
と皆で考えたそうです。

そして、施設トップの判断により、ロックダウン中も各自2メートル離れて面会することにしたそうです。

その時の写真から「コロナから命を守る責任は重大だけれども、人としての幸せとは何なのか?」を考えさせられます。

塀のないスイスの介護施設。木とロープを境に、2メートル離れてのおしゃべり。ご近所さんも椅子持参(写真:みつこさん提供)
施設内の面会用テーブル (写真:みつこさん提供)
施設での礼拝。神父はマスクなしで、礼拝参加者とは距離を置くスタイル。手前の看板表示は「カフェではマスクをつけてください」(写真:みつこさん提供)

(注1)swissinfo.ch(日本語版):「新型コロナウイルス-スイス-最新情報」2021/9/20付

モスクワ市(ロシア):接種率3割。ワクチンパスは3週間で撤廃。

ロシアの必要回数ワクチン接種率(人口比)は、3割強。政府は必死で呼びかけていますが、もともと政府を信用しない、などの背景により、接種は進みません。

モスクワ市では、レストランの室内利用などについて、QRコードのワクチンパス(内容はイギリスと同様)を、2021年夏に義務化しました。これで、ワクチン接種率を高めようという目論見でした。しかし、実施後3週間であえなく撤廃。

そもそも、ワクチンパスを取得できる対象者が少なかったのです。そして、闇で偽造ワクチン証明書を買う人が増加。

屋外テラス席はにぎわっていましたが、これだけでは経営が成り立ちません。
店内利用ができないレストランでは、客足が激減し、経営者達が市政府にクレームしたそうです。

マクドナルド店内利用ができないので、外で飲食するモスクワ市民(写真:田中ひとみさん提供)

広東省(中国):入店や長距離移動は、健康・行動履歴証明アプリを提示。秋の旅行を謳歌。

中国では大きな感染拡大はなく、徹底的な感染者あぶり出し・抑え込みが行われています。

都市部の18歳以上人口の8割が、ワクチン2回接種済と政府から発表されています。

ワクチン接種は強制されていませんが、外食や都市間移動の際に、健康・行動履歴証明スマホアプリの提示が必要な場面が増えてきました。

中国人の場合は、身分証明書(マイナンバー)に接種証明がひもづけられています。これまた、中国製のワクチンでなければ認められないという制約付き。

私が暮らしていた広東省広州市は、まだ他の都市よりもゆるい雰囲気のようです。

高層ビルが乱立する広州

広州で子育て中の方に状況をうかがいました。

「広州では、外食の際、お店で提示を求められることはありません。ショッピングモールなど建物に入る時は、係の人に健康・行動履歴でOKが出ているという証明(QRコード)を見せますが、そんなにしっかり見ていません。

でも、2021年9月中旬、広西省桂林に団体ツアーで旅行した時は、観光施設に入るために広西省の健康アプリが必要でした。私達一家はワクチンもPCR検査も受けずに参加したので、ちょっと大変でした。でも、ガイドさんがまるくおさめてくれました」

広西省はしばらく、コロナ感染者ゼロだったので特に厳しい対策をとっているようです。都市により、対応は大きく異なります。

また、感染増加の兆しが少しでも見られると、すぐに「住民全員検査」が行われます。しかし、全員が本当に検査しているのか、どれだけ強制力があるかはその時の当局次第です。SMSで検査呼びかけが届きますが、呼び出しに応じない人もいるようです。

今年は、大規模な社員旅行も行われています。PCR検査無しでも、健康・行動履歴証明QRコードを見せるだけで、国内移動は可能です。
ただ、この行動履歴に、数週間以内に感染拡大地域に行ったという履歴が残れば、即座に移動禁止となります。

政府により、行動は一元管理されていますが、皆、秋の旅行や外食を楽しんでいます。