ワクチンを打ち人流を減らせば新型コロナウイルスに打ち勝つことができる。多くの人はそう考えているはずだ。しかし、それは間違いかもしれない。人同士の感染を抑えても新型コロナは人間以外の動物の間でも感染拡大し、新たな変異株を誕生させている可能性がある。弘邦医院の林雅之院長に聞いた。

■猫、犬、ミンク、ネズミに続きビーバーも

 モンゴル保健省当局者は12日、ウランバートルのビーバー繁殖センターで、少なくとも7頭のビーバーの新型コロナウイルスのインド株(デルタ株)感染を確認したという。飼育係からうつったとみられる。新型コロナウイルス感染症はこれまでもコウモリ、サル、ミンク、猫、ネズミなど人間以外の動物に感染することがわかっているが、ビーバーへの感染が確認されたのは初めてだ。

「本来、種の異なる生物の間では、生殖や感染症の伝播などが起こりにくいとされています。例えば狂牛病は牛同士では感染しますが、人への感染はごくまれです。それは病原体であるプリオンタンパク質は、牛と人間のように種が違うとそれぞれのプリオンタンパク質のアミノ酸配列がわずかに異なるからです。だからこそ感染性が大きく減少するのです。これを種の壁と言います。ところが、新型コロナウイルスは種の壁を乗り越え、人を含めて幅広い種に感染します。本当に珍しい。これだけ見ても新型コロナウイルスはこれまでにない特別なウイルスであることがわかります」

 不気味なのはこの新型コロナウイルスは変異株が登場するたびに乗り越える種が増えているように見えることだ。

 米疾病対策センター(CDC)が初めてペットの猫の新型コロナ感染症を確認した、と報じられたのは昨年4月22日。

 米国でペットの犬の感染が報じられたのはその1週間後の4月29日だ。

 飼育されているトラやライオンの感染も報じられたが、あくまでも人から動物への感染はあっても動物から人への感染の例はなかった。ところが昨年5月20日にはオランダの農場で従業員がミンクから新型コロナウイルスに感染したとみられる事案が報じられた。

 また、新型コロナウイルスの動物感染は飼育動物に限られていたが、昨年12月には野生のミンクへの感染が確認された。

 そして、今度はデルタ株によるビーバーへの初感染である。

「現時点では牛・豚・鶏のような代表的な家畜に感染したという報告はないし、動物から人への感染はミンク以外に報告されていません。ですから、いますぐ何かあるというわけではないと思います。しかし、新型コロナが飼育動物から野生動物にまで広がってしまうと簡単には新型コロナウイルス感染症は根絶はできなくなる。いくら人の間での感染の連鎖を止めても、動物間での感染が続けば、新たな変異株が誕生して人への感染が始まらないとも限りません。その意味で、新型コロナウイルス感染症を人間だけの問題と考えるのは危険ではないでしょうか」

■変異株の動物ACE2への結合を確認

 問題は、新型コロナの変異株はなぜ種の壁を乗り越える可能性を高めることにつながるのか、だ。

「Immunity」という免疫分野の国際的な論文雑誌の2021年6月8日号に中国の研究者による興味深い研究が掲載されている。新型コロナウイルスの変異株のスパイクタンパク質の構造の変化を調べたものだ。

 それによると変異株はスパイクタンパク質の特定部分が変化して、人の細胞の表面にあるACE2受容体への結合がより強固になり、中和抗体では阻害しにくくなっているという。と、同時に英国変異株(アルファ株)と違って南アフリカ変異株(ベータ株)、ブラジル変異株(ガンマ株)はマウスとミンクのACE2受容体を使用し侵入する能力を獲得したと報告している。

「むろん、これはひとつの研究結果に過ぎません。今後その内容が多くの研究者によって何度も何度も検証されなければ変異株により種の壁を越えてさまざまな動物へ感染しやすくなったとはいえません。ただ、いまは犬や猫の新型コロナウイルスが人に直接感染しないとしても別の動物に感染し、そこで新たな変異を獲得して人への感染が可能になるかもしれない。そうなると、新型コロナは未知のウイルスに姿を変えて、手がつけられなくなります」

 そうならないためには「人と動物の健康は一つと捉え、これが地球環境の保全に、また、安全・安心な社会の実現につながる」という「One World-One Health」の考え方を皆が持ち、「人と動物が共存して生きる社会」を目指すよう努力することが必要なのではないだろうか。