【介護の不安は解消できる】

 認知症の方を介護する家族は、診断されてから病気の受け入れに至るまで、4つの心理的ステップをたどります。第1ステップは「戸惑い・否定」、第2ステップは「混乱・怒り・拒絶」、第3ステップは「割り切り、または諦め」、第4ステップは「受容」です。

 中でも第2ステップの時期は、認知症の症状が改善されず介護がますます困難になると、どんなに親や配偶者思いの人であってもどう対応すればいいのか分からず混乱し、怒りの感情が湧き上がってくるのです。

 以前、訪問診療でお会いした80歳の男性は、約20年前に若年性認知症を発症した同い年の妻と2人暮らしをされていました。少しでも妻の力になりたいと、それまで必死に介護をされてきましたが、年齢を重ねるにつれて旦那さん自身の体力も低下し、思うように動けなくなってきたそうです。そんなある日、認知症が進行した妻から昼夜問わず30分おきに「トイレに連れて行ってくれ」、「(食べたばかりなのに)ご飯はまだか」と何度も繰り返し言われたのをきっかけに日頃のストレスが爆発し、皿を投げつけてしまったと相談を受けました。

 このように、第2ステップは認知症介護の中で最もつらい時期とされ、介護者の苦悩は極限に達します。乗り切るコツとして、まずは認知症に対する正しい知識を得る必要があります。どれほど家族思いの人であっても、認知症の正しい知識を持たないと介護は混乱するだけです。本やインターネットなど、気軽に手に取れるものから情報収集するとよいでしょう。

介護者がイライラなら、本人もイライラ

 また、医療・福祉サービスを利用し始める前は、介護に対する責任感からためらいや遠慮といった「心理的ハードル」を感じる方も少なくありません。介護者と本人は合わせ鏡で、介護者がイライラしていれば、本人も同じくイライラします。介護者の心に少しでも余裕ができるよう、デイサービスをはじめとした介護保険サービスを積極的に利用してください。その際、介護の悩みについて介護の専門職種であるケアマネに相談し、アドバイスをしてもらうとよいでしょう。

 気の知れた友人に愚痴を聞いてもらったり、認知症の家族会に参加して、当事者同士で悩みを打ち明けるだけでも、気持ちが楽になることもあります。一人で抱え込まず、周囲の人を頼ってください。

▽杉山孝博(すぎやま・たかひろ) 1973年東京大学医学部卒業後、東大医学部付属病院で内科研修。75年に川崎幸病院に内科医として勤務し、87年からは同院で副院長を務める。98年から川崎幸病院の外来部門を独立させた川崎幸クリニックが設立され、現在まで院長を務める。81年から公益社団法人「認知症の人と家族の会」に参加し、現在は神奈川県支部の代表を務める。