“真綿で首を絞める病気”とも言われるのが糖尿病だ。今知っておくべきことは--。     

  ◇  ◇  ◇

 なぜ、真綿で首を絞める病気と言われるのか?

「糖尿病で血糖値が高くても、症状がない。しかし病気は進行し、10年くらいするとさまざまな合併症が出てくる」

 こう話すのは、東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授の西村理明医師。

 糖尿病の3大合併症として知られるのが、神経障害(足の壊疽)、網膜症(失明)、腎症(人工透析)だ。西村医師はそれぞれの頭文字を取って「しめじ(=キノコのしめじ)」と患者に説明している(網膜症だけは「目」の疾患ということで「め」)。さらには動脈硬化、動脈硬化による脳梗塞・心筋梗塞、認知症、がん、うつ病、骨粗しょう症、歯周病、感染症などのリスクも増大。

 それらを起こさないために、過去2〜3カ月の平均値であるHbA1cを下げることを目標に治療が行われるが、「1990年代まではHbA1cを下げれば『しめじ』が起こらないと考えられてきました。しかしこの20年でその限界がわかってきたのです」(西村医師=以下同)。

 通称“アコードショック”と呼ばれる研究結果がある。2008年、米国国立衛生研究所(NIH)は大規模無作為化試験ACCORD(アコード)試験の一部を中止。

 この研究は、糖尿病を発症して長く、かつ脳梗塞・心筋梗塞(心血管イベント)をすでに発症しているか、その危険因子を複数持っている2型糖尿病患者1万251人を対象に、血糖、血圧、脂質を厳格にコントロールすることで、心血管イベントのリスクが減るかどうかを明らかにするために行われたものだ。

「ところが、HbA1cの目標値を従来より低く設定し、平均6.4%まで下げたのに(通常血糖管理群は7.5%)、心血管イベントによる死亡率が上がったのです。厳格な血糖管理でなぜ死亡率が上がるのか? 世界中の糖尿病専門医に衝撃が走りました」

 アコードショックを踏まえ、その後の研究で明らかになったのは、「糖尿病合併症を予防するためにHbA1cを低くすべきだが、ただ低くするだけではなく、血糖変動がどうなっているか注意しなければならない」ということ。血糖変動とは、1日のうちで血糖値がどのように変動しているかという傾向(=血糖トレンド)だ。

「HbA1cを厳格に下げようとすると、低血糖を起こし、それが心血管イベントのリスクを上げることがわかってきたのです。例えばHbA1cを9.4%から7.5%へ、2カ月で下げたとします。ガイドラインではHbA1cを月に1%下げることを推奨しているので、2カ月で2%低下は問題ないように思えるのですが、血糖トレンドを測定すると、1日1回の測定でも、血糖値55㎎/デシリットルを下回る、命の危険がある危ない低血糖を起こしている場合もあります。つまり、血糖値を下げるときは、血糖トレンドの確認が極めて重要なのです」

■主治医や家族もスマホで結果を共有

 血糖トレンドを知るために、かつては、患者が指先などに針を刺し血液をセンサーに吸い取らせて血糖値を測定する自己血糖測定が主流だったが、現在は「持続グルコースモニタリング(CGM)」が登場。二の腕などへ専用のセンサーを装着し、24時間、血糖値と近い動きをする間質液中のグルコース濃度を測定できる医療機器だ。血糖トレンドはもちろん、血糖降下薬によっては夜間に低血糖を起こすリスクもあるが、それについてもチェックできる。

「最新の機器では、自動でデータが保存され、本人だけでなく、主治医や家族もスマホで結果を共有できるようになっています」

 糖尿病を発症しても、糖尿病と上手に付き合っていくために、CGMを大いに活用すべき。

 2022年には、CGMの一つ、アボット社の「FreeStyleリブレ」が日本で初めてインスリン療法を行うすべての糖尿病患者に対して保険適用となっている。