女優で歌手の菊池桃子(56)がデビュー40周年を迎えた。4月に完全セルフプロデュースの初EP「Eternal Harmony」をリリースし、andropの内澤崇仁、ストレイテナーのホリエアツシとコラボ。自身が作詞・作曲した「Starry Sky」では、林哲司氏が編曲を手がけた。アニバーサリーイヤーを迎え、音楽活動の思い出や転機、未来について語った。(加茂 伸太郎)

 優しい声色、柔らかな声のトーンに、その場の空気が一瞬にして和らいだ。

 インタビューしたのは、デビュー記念日の4月21日。菊池は「この数日間、よく眠れていないんです。夜中に何度も目が覚めちゃって…」と40周年当日の心境を照れくさそうに告白。「誕生日は慣れているけど、デビュー記念日は気持ちが高ぶりますね。何だか興奮状態です」と笑った。

 完全セルフプロデュースとなった今作。10年一区切りとして考えた時、「40」という数字は想像以上に長く、重く感じた。

 「ネガティブな意味ではなくて、『果たして、次の10年はあるのかな?』と考えました。人間は(限りある)命ある者。だから、きちんと作品として形に残しておくことが大切だと考えるようになったんです。これは、30周年の時にはなかった心境です。自分が出せる最大限の全力を、今まで以上に出したいという気持ちになりました」

 お世話になった人たちへの感謝を込めて、「愛を贈る」をテーマに楽曲制作。「年代に関係なく、尊敬する才能に導いてほしい」という理由から、内澤、ホリエの2人に依頼。それぞれから「もうすぐ0時」「星の蜃気楼」の楽曲提供を受けた。「Starry Sky」では自ら作詞・作曲し、デビュー曲「青春のいじわる」を作曲・編曲した林氏に編曲を依頼した。

 「普段、林先生がアレンジだけを引き受けてくださることはないのですが、『40周年をお祝いしたいから』って快く引き受けてくださって。ご自身のメロディーじゃないから一度、体の中に入れる(作業をする)んですが、それが大変みたいで。長い間支えてくださり、ありがたい気持ちでいっぱいです。内澤さんも、ホリエさんも言葉のやり取りがしやすくて。相性がいいと言いますか、この出会いに感謝しています」

 1984年3月に映画「パンツの穴」のヒロインとして女優デビュー。「It’s Real Fresh 1000%」のキャッチフレーズで、同年4月に歌手デビューした。清純派アイドルとして人気を誇り、85年、当時の最年少公演記録となる17歳で初の日本武道館公演を成功させた。

 音楽活動の一番の思い出はデビュー時にまで遡る。芝公園のレコーディングスタジオ。スピーカーから聞こえる自分の声に、あ然とした。第一印象は「変わった声しているな」だった。

 「生活していると、自分の声って分かっているようで分かっていない。自分の声が再生され、初めてそれを知る衝撃。『私は何者ですか?』って、周りに聞きたくなるような。コンプレックスに感じたことはなかったけど、モノマネされた時には『私って普通に歌っているだけで面白いのかな…』って悩みましたね」

 時が経(た)ち、ありのままを受け入れられるようになった。今では「自分の声が好き」と胸を張って言えるようになった。「コンピューターが歌を歌うことのできる時代だけど、人間だからこそ出せる不安定さや、唯一無二という部分は貴重だし、大事にしなきゃいけない部分かなと思って歌っています」

 88年には7人編成のロックバンド「RaMu(ラ・ムー)」を結成した。約1年という短期間だったが、シングル4枚、アルバム1枚をリリース。音楽史に強烈なインパクトを残した。

 「もう一段階、上のレベルを目指せるんだという前向きな挑戦でうれしかったですね」と懐古。「当時の所属プロダクション(=トライアングル・プロダクション)は、私の他にアイドルがいなかったんです。社長で音楽プロデューサーの藤田浩一さん(故人)は、ご自身も音楽をされてベースを弾いていた方。そういう環境下で『RaMu』に移行するのは、玄人志向に連れていっていただけるような感覚がありました」

 この1年で得たものは大きい。全ての経験が血肉となり、財産になっている。「小さい頃からピアノをやっていて、練習曲で弾いてきた譜面の左手の動かし方が、まさにコードで。音楽の知識を再学習できたこと、リズムとコード進行を覚えられたことが貴重な経験でした。『アイドル』という見え方を好む方は嫌だったかもしれないけど、創作意欲が強くなったし、私自身ポジティブな時間でした」

 音楽活動の転機は意外にも最近。22年に林氏から新曲「Again」「奇跡のうた」の2曲をプロデュースされ、35年ぶりに共同制作が実現したことだった。

 「歌以外の芸能活動はさせていただけているので、『形作られたものを、変に壊さなくていいのでは?』って。若い頃の作品で満足してしまっていたんです。(この時のレコーディングで)こんな歳(とし)だけど、まだ成長できるかもしれない、伸びしろがあるかもしれないって思ったんです。とっくに成長期なんて終わっているけど、歌に限っては、まだできるかもって。幸運なことに、デビュー時のレーベルのスタッフさんが今もやってくれている。その安心感もあります」

 45周年、50周年に向けて、菊池は一体どんな未来を描くのか。「せっかく頂いた機会ですので、この1年間は音楽活動に集中したいです。(先のことは)それが終わったら考えます(笑い)。音楽は自分にとって欠かせないもの。(この先も)ずっと、そばにあるんだろうなって思います」

10月大阪横浜単独公演開催 〇…40周年企画として10月5日にビルボードライブ大阪、同20日にビルボードライブ横浜で単独公演を行う。今月3日に開催した記念ライブ(東京・キリスト品川教会グローリア・チャペル)の模様が、6月23日午後8時からU―NEXTで独占配信される。

 ◆菊池 桃子(きくち・ももこ)1968年5月4日、東京都出身。56歳。84年デビュー。2012年、法政大学大学院政策創造専攻修士課程修了。同年8月から戸板女子短期大学客員教授。21年に菊池桃子・RaMu全楽曲がサブスク解禁され、総再生回数3000万回突破。テレ朝系「人生の楽園」(土曜・後6時)、文化放送「菊池桃子のライオンミュージックサタデー」(土曜・前10時)のレギュラー。