放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)で藤原道兼役を演じた俳優の玉置玲央がこのほど、スポーツ報知などの取材に応じた。道兼はこの日放送の第18回「岐路」で疫病に倒れ無念の死を遂げたが、撮影時の秘話を明かした。

 「源氏物語」の作者・紫式部/まひろ(吉高由里子)の半生を描く同作。玉置演じる道兼は、まひろのソウルメート・道長(柄本佑)の次兄にあたり、第1回ではまひろの母・ちやは(国仲涼子)を理不尽に刺し殺す因縁の相手だ。長兄・道隆(井浦新)と弟の道長に挟まれ、屈折した感情を抱きながら成長。崇拝する父・兼家(段田安則)からは、汚れ仕事の実行役として花山天皇(本郷奏多)を出家させる密命を与えられた。

 「光る君へ」の前半のヒール的存在として位置づけられていた道兼。「僕は結構、殺人犯かクズの役をやってきて、言い方はアレなんですけどお手の物なんですよ」と苦笑いしつつ「(脚本の)大石(静)先生もお墨付きで『今回、ピッタリな役があるの』といただいた役だった。やるぞっていう気持ちはそもそもあったんですが、台本を見たら『おい、なかなかじゃねえか』と思いました」と振り返る。

 策略通りに花山天皇を出家させたものの、父からは後継に指名されることはなく、第14回では爆発した感情のまま「この老いぼれが…。とっとと死ね!」と暴言を吐いた。「道兼は罪を犯しながら働いてきた中で、自我を押し殺して生きてきたキャラクターだった。一番信仰していた父に対してあの言葉を吐いたというのは、彼の人生においてもものすごい重要な瞬間だったんだと思うんです」。妻や子にも見放され、自暴自棄になったところを道長に救われ、そこを転換点として、つき物が落ちたように真面目に政に向き合うようになっていく。

 第18回で道兼は病没した兄・道隆の後を受け関白に就任したが、疫病に冒され内裏で昏倒。病床で生涯を終えた。俗に言う「七日関白」だが、道兼の最期のシーンはリハーサルを経て一部変更されたという。「台本上は見舞いに来た道長に対し、道兼が御簾(みす)越しに『入ってくるな』と突っぱねるシーンだった。でも佑くんは『道長は、御簾の中に入ってきて兄に寄り添うと思う』と演出の中泉(慧)さんに提案してくれたんです」と振り返る。

 リハーサルの場では結論は出なかったが、数日後の撮影で柄本から「やっぱりどうしても入って寄り添いたい」と申し出があり、激しく咳(せ)き込む道兼の病床に道長が踏み込み、兄の背中をさするシーンに変わった。「道兼としてはありがたくて。なんなら台本通りにやったほうがいい可能性もあったんですけど、佑くんが提案してくれて、かつそれを貫き通してくれた。ぶれない道長が、ぶれてきた道兼に最期に寄り添ってくれたことにすごく救われた。(父の死後に)道長に救われたと思っていた転換点が、一方的なものじゃないと分かった瞬間だった」

 さまざまな思いが渦巻いたラストシーン。「佑くんが道長でよかったと思いました。カメラが止まっても、咳が止まらなくなっちゃったんですよ。それを佑くんが、カメラは止まっているのに背中をさすってくれて『つらいよね』って言ってくれたのを今でも覚えている。幸せでした」

 玉置は初回の台本を受け取った時点では、道兼の死にざまは告げられていなかった。「SNSでは『アイツたぶん呪い殺される』とか『兄が連れて行く』みたいな予想が書かれてましたけど、そっちの考えは全然なかった。(当時は)改心するとも思っていなかったんですけど、道兼なりの幸福を見つけて死んでいくんじゃないかと思っていた」と語る。

 「物語を盛り上げるための道具として死んでいくことはきっとなくて、彼の1話から重ねてきたいろんな所業はあれど、納得のいく死を迎えるんじゃないかと思っていた。それは自分だけの力じゃなくて、共演者のみなさまや監督のおかげだと思っています」。充実の思いで、道兼の生涯を終えることができた。

 回を重ねるごとに、道兼の表情の演技はSNSでも話題を振りまいた。初回の返り血を浴びた狂気の顔つきや、花山天皇を裏切る場面での冷酷な視線、父に暴言を放つ鬼の形相、悲田院に向かう道中の穏やかな表情、そして死に際に涙を浮かべながらの諦念的な笑い。「顔に関してこんなに反響あるとは思ってなかったんですよ。『こんなに表情筋豊かって言われる?』って。自分のなかでは意識したわけではないけれど、セリフを言うとああなっちゃった。ポジティブに捉えるならば、道兼をやろうとすると、ちゃんとああいう顔になるんだなって思いました」

 自身の公式Xではリアルタイムでの実況や、放送後にスペース機能を使った音声配信を行うなど視聴者との交流も深めた。「見てくださっている方の数だけ、正解…というか導き出された何かが存在するんだと思いました。こんなにも受け取ってくださって、かつそこに自分の意思や考えを乗っけて伝えてくださる。SNSって僕はそんなに得意じゃないんですけど、リレーションしだいでポジティブに捉えられるものだと感じられてうれしかったです」と視聴者と感想をシェアしながら歩んだ4か月間に感謝した。

 道兼の人生を生ききったことで「改めてクズ役って、もっといろんなやり方があるんだなと思えた」と語る玉置。「数をこなすという意味ではなく、いろんなクズがやれるなと。ある種の今後のやりがいでもあります」と意欲を見せつつ「本当はいい人の役もやりたいですよ!」と柔和な笑みを浮かべていた。

 ◆玉置 玲央(たまおき・れお)1985年3月22日、東京都生まれ。39歳。06年劇団「柿喰う客」の旗揚げに参加し、看板俳優として活躍。舞台のみならず、映像作品にも多数出演。18年の映画デビュー作「教誨師」が高い評価を受ける。大河ドラマは「真田丸」「麒麟がくる」に続き3作目。24日からは東京・下北沢の本多劇場で劇団公演「殺文句」が上演。