負けた後の苦悩すら魅力的…飯伏幸太、勝負の夏は続く

負けた後の苦悩すら魅力的…飯伏幸太、勝負の夏は続く

 負けた後の苦悩する横顔が、これほど絵になるプロレスラーが他にいるだろうか。

 2016年2月、新日本プロレス(新日)とDDTの2団体を同時に退団してから2年半。抜群のスター性を持ちながら雌伏の時を過ごしてきた「ゴールデン☆スター」飯伏幸太(36)が今、トップに立つための激闘を展開している。

 どの団体にも所属しないフリーランスの立場で新日真夏のシングル総当たり戦「G1クライマックス28」に参戦。8日のスポーツの殿堂・横浜文化体育館大会でも4952人満員札止めの観客の熱い声援を誰よりも集めたのが、この男だった。

 満場のプ女子(プロレスファンの女性)中心の「イブシ」コールの中、笑顔で入場。しかし、歓声に手を挙げて応えた瞬間、花道後方から対戦相手のタマ・トンガに襲撃される。

 そのまま、場外乱闘に突入と、ラフファイトに翻弄される場面もあったが、試合中盤には自ら場外に誘うと、アリーナ後方のドアを開けて外へ出て行ってしまう。観客が何が起こっているか分からず戸惑っていると、飯伏は、いきなり2階席に登場。およそ3メートルの高さがあるバルコニーから1階のトンガにラ・ケブラータ(後方に270度回転して放つプレス技)を見事に決めて見せた。

 しかし、最後はユニット「バレット・クラブ」を離脱したタンガ・ロアとバッドラック・ファレがリングに乱入。3人がかりの攻撃を受けた上、ファレに重量級のラリアットを食らう。タッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」の盟友・ケニー・オメガも救出に入ったものの、すでにフラフラの飯伏はトンガに必殺のガンスタンを決められ、屈辱の3カウントを聞いた。

 若手に肩を支えられ、バックステージに引き上げてきた後も5分以上、床に倒れ伏したままだった飯伏。やっと起き上がると、「この負けは痛いっす。(優勝の)可能性は…」とポツリ。「負けてはいけない状況で負けてしまった。でも、可能性はゼロではないんで、その可能性にかけるしかないでしょう」と小さな声でつぶやくように続けた。

 しかし、直後の試合で、こちらも「バレット・クラブ」離脱組の襲撃を受けたオメガが矢野通に不本意な黒星を喫し、勝ち点12にとどまった。そのため、現在、勝ち点10の飯伏にもBブロック首位通過の可能性が復活した。

 11日の東京・日本武道館大会で勝ち点12の内藤哲也が、飯伏がすでに直接対決で勝っているザック・セイバーJr.(現在、勝ち点10)に敗れた上で自身がDDT時代以来、6年ぶりのシングル対決となるオメガに勝つと、奇跡の優勝決定戦進出が決まる。

 とにかく、崖っぷちの悲哀が似合う男だ。新日の大黒柱・棚橋弘至に「飯伏がいれば、この先ずっとプロレス界は安泰」と言わせ、現在、米WWEでスーパースターの座に上り詰めた中邑真輔に「飯伏は今までいなかった、ちょっと特別な存在」と認めさせた逸材も完全に覚醒しないうちに36歳になってしまった。

 今年2月、本紙の女性向けページ「L」欄に登場してもらうため、70分間に渡って話を聞く機会があった。その時も「今、やらないと行けないことが自分の中で分かってます。今年が勝負だから選んだのが、一番見ている人数が多い新日。今年、行くところまで行きたいし、自分が一番、楽しみです」―。何度も「今年」という言葉を繰り返し、18年が勝負の年であることを強調し続けた。

 「今、やらないといけないことが自分の中では分かってます。今、やるしかないってことも分かってますし。それで選んでいるのが、今の舞台、新日なんで。まだ、僕は新日のヘビー級で結果を残していないので…。オメガは1人(シングルマッチ)で結果を残しているけど、自分は残していない。1人の部分でも結果を残したいっていうのはあります。シングルでもタッグでも結果を残したいなと」―。

 そう訴えた男の心の中には2団体同時退団という苦い経験から得た大きな教訓がある。

 「小さい頃から周りの人を喜ばすのが大好きだったし、喜んでくれるなら、自分の体が滅んでもいいと小さい頃から思ってたんで。でも、今は多少変わってきて、滅びるのがダメなんだなと思ってます。一番喜ばれないことなんだなっていうのが分かったんで、まあ、そこはいろいろ成長している部分なのではないのかなと。欠場とかが一番ダメなんだなと去年、一昨年の休みで分かりました」―。

 そんな言葉には「小学校を卒業する頃には今やっている技は全部できました。(現在のフィニッシュホールド)フェニックス・スプラッシュも小6では形としてはできた」という“プロレスの天才”が初めて知った、一度は失望させてしまったファンへの思いがあふれ出ていた。

 さらに紡いだ言葉がある。「みんな待っててくれたし、す〜ごい良かったですね。体も少し壊れてたんだなっていうのもやっと分かったし、全部治って、すごい体も健康になって。ケガも治って精神面も回復したし、今まで無駄なことをいっぱいしてきたんですけど、本当、後悔が一つもなくて。本当にその瞬間、瞬間、そんなのやらない方がいいよとか、ケガするよとか、危ないよとか、それは面白くないんじゃないかなと言われたことも全部やってきて。無駄だと思うことも全部、無駄にやってきて。でも、それが無駄じゃないなって今、感じてます。それをやってきたのが今の自分なので…。プロレス界の歴史を変えたいと思っていて。これからですね。変えて行くのは自分次第だし。変えられなかったら変えられなかっただけど、絶対に変えられるっていう自信があるんで」―。

 そこには、米トップ団体・WWEが獲得オファーを出し続ける天才が、ついにたどり着いた覚悟が、ちらりと垣間見えた。

 2年半の挫折の末の今の姿があることを知っている。だからこそ、私には飯伏の「この負けは痛いっす」という悔恨の言葉の重みも、今回のG1参戦にあたって宣言した「とにかく結果を残します。結果だけです」という言葉の熱さもストレートに響いてくる。

 だからこそ「行け! 飯伏」と、私は叫ぶ。挫折を知って強くなった、天才の背中を押す数多くのファンの一人として。(記者コラム・中村 健吾)


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