【篠原信一の柔道一本】篠原流「五輪への7か条」〜第2章は「モッケイになる」

【篠原信一の柔道一本】篠原流「五輪への7か条」〜第2章は「モッケイになる」

 みなさん、年末年始で充電を完了させて、練習も本格的になっていることでしょう。20年東京五輪のプレシーズンに向けて、代表を狙う選手がすべきことは何か? 第1章ではいかに筋力が大事かを話ましたが、第2章は「たくましい精神力」について触れたいと! 剣豪、宮本武蔵が剣術の奥義をまとめた兵法書「五輪書」のようにまとめた篠原流が次の通りです。

 ▼篠原流『五輪への7ヶ条』

【1】筋力アップ

【2】たくましい精神力を作る

【3】新しい技術の獲得

【4】想定外を常に考える

【5】世界の情報を収集、分析する

【6】常に緊張感のある練習をする

【7】総合力を高める

 武蔵の「五輪書」で、その1は「地の巻」、つまり大地のような身体(筋力)を作ること。その2は「火の巻」。燃える火のような心。つまり「逞しい精神力を作る」ことなんです。

 では強い心、逞しい精神力はどう鍛えるのか?

 【競技力の概念】

 一般的には競技力は、力×技×体で表されます。掛け算なんです! つまり技術と体力は長い時間をかけて鍛えていけば安定性のあるものになります。一瞬でマイナスにはなりません。でも、心は瞬間、瞬間でプラスからマイナスへと振り幅が大きく変化するものです。掛け算ですから、心が落ちると、技術と体力があっても競技力は低下してしまいます。だから勝負に向かう時は心の持ち方が重要なんです。単純な根性論ではないんです!

 篠原の心の声「決まった! さすが元天理大学の教員だろぉ〜」

 【木鶏】

 「木鶏(もっけい)」という言葉をご存じですか? 中国の故事に由来した言葉です。相撲や剣道、そして柔道で良く使われます。あの大横綱の双葉山は、連勝が69で止まった際、「ワレイマダモッケイタリエズ(我、未だ木鶏たりえず)」と電報を打ったエピソードがあります。横綱白鵬も連勝が63でとまった際も「いまだ木鶏たりえず、だな」と発しました。

 【篠原が解釈した木鶏】

 昔々(たぶん)、闘鶏を育てる名人と、最強を求めて自分の鶏を預けた王がいました。鶏を預けてから10日が経った頃、王が名人のもとへ様子を聞きにいきました。すると名人は「まだドヤ顔で威張ってばかりだからあきまへんわ」。更に10日後、王が「もうええやろ」と聞くと「まだアカンですわ。他の闘鶏を見ただけでイキってるんで」と。

 更に10日が経ち、王がシビレを切らせて「もうええって」。ところが名人、「メンチ切りまくってて、まだアカンですって」。そして、さらに10日後。ウンザリ顔で王がやってくると「リアルガチでええっすわ。他の闘鶏が鳴いても、全く相手にせんし。まるで木鶏のように泰然自若としてますがな。その徳の前に、かなう闘鶏はおらんでしょう」 真に強い闘鶏は、木彫りの鶏のように動かず泰然としている。つまり戦う者の最強の姿を表します。

 鶏を人に例えた話だとも思えます。つまり、道を体得した人物は他者に惑わされることなく、鎮座しているだけで衆人の範となすのです。僕も現役時代は木鶏に近づこうと頑張りましたね え? 「似てるから篠原は鶏ではなくペリカン」って言ったのだれ!?(汗)

 【柔道代表もやってる】

 柔道の全日本では、稽古で動を強化し、心の静の部分は、講義や異文化体験(座禅、茶道、メディア講習)で学んでいるようです。ここでの目的としては自分自身と向き合うことですね。「動」と「静」を強化しているからこそ、今の全日本は強いのかと! いくさに向かう者は静と動の両方を持たなければいけません。全日本柔道はそれを実践しています。

 ただ、強いメンタルを作るのは自分一人だけでは難しいもの。だからこそ、先生(監督・コーチ)がいるんですよ。

 【篠原はどう鍛えたか】

 現役時代の全日本の合宿でした。僕は斉藤仁先生(故人)に鍛えられましたね。全日本の強化選手や実業団、警察、各大学の主力選手達と「モ〜ケッコ〜!」とばかりに稽古をやらされました。試合形式で10人の選手から1本を取らなければ終わらないんです(寝技も含む涙)。

 篠原「先生〜無理ですよ(泣)出しきって力出ませんよ〜(泣×泣)」

 斉藤先生「お前! オリンピックの時に、疲れて力出ませんから出来ませんと言うのか!?」

 篠原の心の声「言うか! こんなに疲れるか!」

 7人目になってくると1本が取れず、揚げ句の果てに逆に1本取られる…。

 斉藤先生「あっ、信一! 1本取られよった(笑)マイナス1本な!」

 交渉人・篠原「斉藤先生、お願いしますから、あと2本取りにして下さい!」

 斉藤先生「全日本チャンピオンが…、世界チャンピオンが…、そんなんでイイの?(笑)」

 篠原の心の声(うるさいバーカ! お前がやってみろ!」

 斉藤先生「信一! お前いま! バカ! って思っただろ! オレが後ろ向いた特に舌ぁ、出しただろ!」

 篠原「…(汗)。この人、何でわかるんやろ(冷汗)」

 試合での厳しい場面でも、この様な稽古をして下さった先生がいたからこそ、僕も逞しい精神力が作れたのでは…と思いたい(笑)

 ◆篠原信一(しのはら・しんいち)1973年1月23日、神戸市出身。45歳。中学1年で柔道を始め、育英高、天理大を経て旭化成に入社。98〜00年まで全日本選手権3連覇。99年世界選手権で2階級(100キロ超級、無差別級)制覇。2000年シドニー五輪100キロ超級銀メダル。03年に引退。08年に男子日本代表監督に就任し、12年ロンドン五輪で金メダル0の責任を取る形で辞任。


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