ウェブ連載「Messages For Paris」の第13回は、パリ五輪に出場するサッカー日本女子代表「なでしこジャパン」のDF南萌華(25)=ローマ=。オンラインでインタビューに応じ、池田太監督(53)との強い絆ができた経緯を明かし、「優勝させてあげたい」と力強く語った。選手たちが引きつけられたのは、池田監督の心に素直な行動にあった。(取材・構成=田中孝憲)

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 なでしこの守備の要、南はパリ五輪のメンバーに入れなかったメンバーの思いも背負う覚悟を口にした。

 「いろんな選手たちがつないできてくれて、ここまで来られた。ケガをしてしまった選手たちもいます。そうした選手たちが残してくれたものも、しっかりと受け継いでいきたい。去年のW杯も、大会前までいろいろな批判があったり、うまくいかないことも多かった。W杯では満足の結果にはならなかったけど、チームとしては成長した姿を見せることができたと思います。今回の五輪ではそれ以上の結果をしっかりと見せたいです」

 W杯メンバーには、千葉玲海菜(25)=フランクフルト=、宮沢ひなた(24)=マンチェスターU=や植木理子(24)=ウェストハム=ら、海外に活躍の場を移し、個の力を伸ばそうと挑戦した選手もいた。世界のトップレベルと対戦して感じた壁を、誰もが所属チームで乗り越えようともがいたシーズンだった。

 「五輪に向けて新しい環境で新しいものを得ようと頑張ってきた選手たちもいる。この1年はそこ(五輪)に向けてコンディションを合わせてきた。とにかく結果は求めていかなきゃいけないところだと思う。私自身だけじゃなくて、それはいろんな選手たちが感じていると思います。W杯以上のいい結果に向けて、全員ができることを全力でやる。後悔のないように、自分自身もいい準備をしていかなきゃいけない」

 南自身はイタリア移籍2年目の今季、リーグ戦26試合中24試合に出場した。定位置のセンターバックだけでなく、サイドバックを任せられるなど戦術の幅を広げ、リーグとカップ戦優勝の2冠に貢献。さらに2季連続でリーグのベストイレブンに輝いた。複数のポジションができるのは、登録メンバーが少ない五輪で勝ち上がる上で重要なポイントだ。

 「自分があまりケガをしないっていうのもあって(笑い)。サイドバックの選手にケガが多かったのでその穴埋めじゃないですけど、4枚だったり3枚だったり、うまくオプションを使いながら。ちょっとサイドバック気味になったりというのも多くありました。サイドバックは1対1の場面が増えたり、センターバックとは違う局面が多い。そこで何か得るものはないかなと思いながらプレーできていました。(本職ではないポジションでプレーすることは)ネガティブなことじゃなくて、そこはしっかり自分の中ではプラスなこととして捉えてプレーはできています」

 五輪開催地のフランスは、南にとって思い出深い地だ。主将として臨んだ18年女子U―20W杯で、スペインに勝って世界一に輝いた。その時の指揮官は、今なでしこを率いる池田監督。優勝から6年が経過したが、“熱男”と呼ばれる指揮官に寄せる信頼は変わらないどころか、増すばかりだ。

 「太さんはアンダー(代表)の頃から、試合に向けた準備を怠らない。試合はそれまでのことが成果として出てくる場。トレーニングをしっかり積んでいれば、試合でもいいプレーができる。信用してついていきたいと思える練習や声かけをしてくれるんです」

 指揮官が苦悩する姿を五輪予選で目にした。昨年10月のアジア2次予選ウズベキスタン戦前のミーティングだった。勝利が当然視される格下相手だったが、問題は“勝ち方”だった。大会レギュレーション上、大勝すると最終予選で、オーストラリアとの対戦が濃厚だった。W杯4強の強敵オーストラリアを避けるためには、同組のウズベキスタンの得失点差を削らない、少ない得点差で勝つという消極的な戦い方をしなければならなかった。

 「それは太さんが一番やりたくないことだと、私たちも理解していた。五輪に行くために、太さんが一番嫌だと思う選択を決心して。うちらに対しても、難しいけどそういう戦いをしてほしいと、本当に涙ぐみながら言ってくれて。もちろん、うちらも難しい決断ではあった中で、太さんが一番嫌いなことだというのを自分自身が分かったので。それを決断してくれたことが、まず私からすると頭が下がるし、あれがあったから五輪の切符をつかめたと思う。本当に苦渋の決断を、いろんな責任を背負ってしてくれたことには、めちゃくちゃ感謝しますし、そういうところもすごく尊敬しています」

 結果は2―0。南が先制点を決めるなど、序盤で2得点を挙げたが、以降は攻めず、ボールを回し、時計を進めた。

 一方で、楽しむ時は全力で一緒に楽しんでくれるのも、池田監督の魅力と南の目には映っている。

 「チームとしてちょっとリラックスする時間にゲーム大会をしたりしています。そういう時に太さんも参加して一緒になって全力で楽しんでくれるところも、自分はめちゃくちゃ好きです。○×クイズみたいな形式で、最初にゴールにたどり着けた人が勝ちという感じで、優勝者には商品があって。チームの雰囲気作りを考えながらやってくれていると思うんですけれど、全力で太さんも一緒になって楽しんでくれつつ、みんなもリラックスできて。それがチームの一体感に自然とつながっていっているんじゃないかなと思います」

 だからこそ、南は池田監督を世界一の男にしたい。下部年代から育ててくれた指揮官に首に金メダルをかけることを夢見ている。

 「U―20の頃から、チームのことをいろいろ考えて涙ぐんでくれることも多いんです。そういうところを見ると、やっぱり優勝させてあげたいなと思います。日頃のトレーニングが重要だというところにも気づかせてくれますし、規律も大切にする監督なので、自然とチームの一体感が出てきます。ついていこうと思わなくても、自然とついていきたいなと思えるような監督です。アンダーの時から一緒にやってきている監督なので、絶対に五輪やW杯で優勝させたいという気持ちはずっと持ってやっています。もちろん、太さんのためだけじゃないですけど、優勝させたいなという思いは常に持ちながらプレーしていきます」

 ◆南萌華(みなみ・もえか)1998年12 月7日、埼玉・吉川市生まれ。25 歳。DF。吉川ホワイトシャークサッカースポーツ少年団でサッカーを始め、中学から浦和レディースの下部組織で育つ。17年にトップチーム昇格し、22年夏にローマ移籍。代表では14年にU―17女子W杯優勝、18 年にU―20女子W杯優勝。W杯は19年、23年に選出。五輪は21年東京大会でメンバー入り。代表通算52試合4得点。