みつぎ登山口近くから見た東中倉山

 

JR瀬野駅をスタート・ゴールとする12.8キロ、累積標高差(アップダウンのある登山コースのうち上りで獲得した標高の合計)が1000メートルを超える長者山−麻美山−東中倉山−八世以山のハードな縦走記。新発見の古代山城跡を踏査した前編(https://hread.home-tv.co.jp/post-384427/)に続く後編は、原爆投下を記録した戦争遺構を紹介します。

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
帰り)JR山陽線(おとな片道330円)/瀬野(16:08)→(16:36)横川

 

 

急登の先の戦争遺構

榎ノ山峠の標高は約300メートル。目の前にそそり立つ東中倉山の標高は514メートルあるため、新たに約200メートルの標高を「獲得」しなければならない。広島市安芸区と東広島市を結ぶ県道33号を横切り、東中倉山の登山口に取り付く。いきなりの急登になる。標高460メートルの尾根までは一直線の直登だ。尾根に上がって山頂を目指して歩いていると、突然「聴音器跡」と書かれた看板が現れた。「はて?」。

 

東中倉山へ向かう急登

 

聴音機が設置されていた場所。原爆を投下したB29エノラゲイの爆音を探知した

 

実は長者山の古代山城跡については登山前に資料を収集していたのだが、東中倉山はまったく下調べをしていなかった。地形図にはルート上に「待避壕跡」と記されていたので、戦時中の軍事施設があったことは想像していたのだが、「聴音器」とは何なのか。説明もないのでさっぱりわからない。山頂一帯にはさまざまな遺構が残っている。ほぼ原形をとどめているレンガ造りモルタル塗りの「司令棟」のほか、「管制器跡」「探照灯跡」などの表示があり、防空施設だったことは想像できる。「炊事場跡」「貯水槽跡」「風呂場跡」「屋外トイレ跡」など、コンクリート製の兵員の生活関連施設跡も残っている。

 

司令棟跡

 

司令棟の内部

 

レンガの上にモルタルを塗った構造

 

後で調べてみたところ、ここは呉軍港を守る旧海軍の防空施設「中野村聴音照射所」(中野探照灯台)の跡だった。巨大な集音機で遠方から接近する敵機の爆音を聞き取り、夜間に探照灯を向けたり、高射砲陣地に知らせたりする役割を担っていた。地元では「海軍山」と呼ばれていたという。

 

管制装置の跡地

 

探照灯が設置されていた場所

 

東中倉山の山頂。眺望はなし

 

原爆の投下を目撃した施設

広島市役所編「広島原爆戦災誌 第五巻 資料編」には、1945年8月6日に山上から原爆の投下を目撃した状況を報告した文書が収められている。記述を引用する。(時刻は資料のママ。漢字は当用漢字に改め、句読点を補った)

 

〇八一四(午前8時14分) 現当直員電話員下士官一、見張員二西条方向ニ大型機爆音ヲ聴取ス

〇八一五 西条上空B29一機(中略)続イテ一機計二機(中略)機影ヲ認メ得タリ

〇八一七 先頭機右旋回中落下傘降下。三個開クモ最初ノ一個開カズ、後続機旋回始メントスル瞬間閃光ヲ認メタリ。閃光ヲ発シタル時露天ニ在ル者ハ眼眩(くら)ミ丁度マグネシュームノ燃焼ニ似タリ

(中略)

強烈ナル閃光ニ驚キ眼ヲ転ジタル時二八〇度乃至二九〇度ノ中間ニ一大火災・猛烈ナル勢イニテ石ヲ水ニ投ジタル如ク拡大シツツ中ヨリ中ヨリ沸出シ積雲ノ天ニ昇ルガ如キ勢ニテ其ノ上辺ハ赤黄黒白入リ乱レタル雲柱ヲ作ルヲ認メタリ

 

投下時刻が2分ずれているが、投下時の状況が詳細に記述されている。爆心地まで直線距離で約15.7キロ離れているため直接の被害はなかったようだが「山林ノ立木皆動キ身体ノ衝動相当大ナル程度ナリ」と記されている。

 

防空設備の台座とみられる

 

地形図にもあった待避壕跡

 

炊事場跡。右後方は風呂場の跡

 

貯水槽跡。雨水がたまっていた

 

最終ピーク・八世以山へ

東中倉山から瀬野へ直接下山するルートもあるが、峰続きの八世以山(やせいざん 494.8メートル)に向かう。瀬野地区には「せの(瀬野)七山」と呼ばれる登山道の整備された7つの里山がある。ミノコージ峠から呉娑々宇山方面へ20分ほど上ったところにある立石山(500メートル)、長者山、東中倉山、八世以山、丸山(273メートル)、第49回安芸アルプス㊤(https://hread.home-tv.co.jp/post-233463/)で登った坂山(499.5メートル)、第60回(仮称)瀬野八アルプス(https://hread.home-tv.co.jp/post-313220/)で紹介した水丸山(659.8メートル)の7座だ。丸山と八世以山以外は登頂しているので、八世以山を踏破すれば6座を制覇したことになる。

 

八世以山へ向かう

 

東中倉山から八世以山へは1度下った後、470メートル前後の2つの小ピークを超え、約388メートルの鞍部まで下って(急坂)から100メートル以上登り返す。下りは伐採された植林地。ロープがあるものの滑りやすい道なので慎重に歩を進める。目の前に立ち上がる八世以山への上りはかなりきつそうだ。息を切らしながら上り、約30分で山頂に着いた。

 

八世以山手前の小ピークへの上り。とにかくアップダウンが多い

 

388メートルの鞍部への下り

 

滑りやすい鞍部への急坂

 

ルート最後のピークとなる八世以山を見上げる

 

最後に絶景のごほうび

山頂は樹林に囲まれて眺望はない。時刻は14時15分。下山路は長い尾根で、勝負迫登山口まで約75分の道のりだ。早々に下山にかかる。

 

眺望のない八世以山の山頂

 

下山中に見つけたヤマツツジ

 

林間の道は眺望もなく退屈だ。下りだけでなく小ピークの上りもあるので、疲労のたまった足にはこたえる。こんな時はけがをしやすいので慎重に歩を進める。約1時間歩いたところで不意に前方の視界が開けた。松の木にくくりつけられた看板には「立岩展望地」の標識が掲げられている。

 

立岩展望地

 

すばらしい展望だ。標高は280メートルほどなので高度感はそれほどでもないが、瀬野の街並みを眼下に、正面に未踏の丸山、遠く海田湾も望める。ルートの最終段階に来て疲れも吹き飛ぶ絶景のごほうびだ。10分ほど景色を楽しんで下山を再開。20分ほどで勝負迫登山口、さらに30分歩いてJR瀬野駅に着いた。活動時間は7時間36分、総歩行距離は12.8キロだった。

 

正面は「せの七山」の一つ丸山。遠方に海田湾が見えた

 

勝負迫登山口に下山

 

瀬野の市街地から東中倉山を振り返る

 

2024.5.19(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

 

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」