東京・西国分寺の住宅街にある洋菓子店「ル・スリール・ダンジュ」で5月5日、1日だけの駄菓子屋がオープンした。すべてパティシエが考案し、手作りしたというオリジナルの駄菓子10種類を、たくさんの子どもたちが買いに訪れた。想定以上の反響で、今後も月に1度の開催を目指しているという。

「子どもに喜んでもらえるお店は、誰にでも愛されるお店だと思うんです」

そう話すのは、オーナーシェフの木村勝司さんだ。オープン当初からイラストケーキや子ども向けイベントなど、地域の人たちが喜んでくれるような取り組みを続けてきた。そんな木村さんが駄菓子屋を開いた経緯や思いを聞いた。

きっかけは店に来た子どもたち

「お店を始めて1年ほどたった頃、お母さんと一緒にケーキを買いにきた子どもが『ケーキに絵を描いて欲しい』と言ったんです。ケーキにイラストを描くことは当時やっていなかったんですが、断れなくて。でもやり始めたらハマっちゃったんですね。どうせやるなら、どこのケーキ屋さんよりも上手いイラストケーキを作ろうと思い、とことん追求しました」

イラストのクオリティも良く味も美味しいイラストケーキは口コミで広がり、誕生日に子どもの喜ぶ顔が見たい多くの親が訪れた。なかには、八丈島の島しょ部から調布飛行場を使って毎年買いにくる人もいるという。

駄菓子屋を始めるきっかけも、店に来た子どもたちだった。

「小学校が近くにあるので、子どもたちが自分のお金を持ってお店に来ることがあります。材料の高騰もあり、クッキーは安くても1枚100円です。悩んで結局買わずに帰っていく子どもたちを見ていて、子どもたちが自分で買える価格帯のものがあったらなと。以前から思っていた駄菓子屋をやりたいという思いが強くなっていきました」

19年間思い続けてきた駄菓子屋を

「僕が子どもの頃は、どの小学校の近くにも駄菓子屋があって、いわば子どもの聖域でした。100円を握りしめ、どんな組み合わせで買おうかワクワクしながら悩んで買っていた思い出があります。今の子どもたちにもそういった経験ができる場所を提供したかったんです」

洋菓子店がやる駄菓子屋だから、定番の駄菓子を売っても面白くない。パティシエが作る駄菓子を販売しようと、市販されている駄菓子を買い込んでスタッフとアイデアを出し合った。

「マカロンを更にオーブンで焼いてクッキーにしたものや、当たり付きの棒に刺したカステラなど、子どもたちが喜んでくれそうなものを作りました。物価が高い今だからこそ、子どもたちが100円で何種類か選んで買える10円〜50円の価格の駄菓子を作ろうと試行錯誤でした」

開催日は5月5日のこどもの日。初めての試みだったので、どれくらいの反響があるかわからなかった。

「今年のGWは出かける人が多いのかケーキの予約が少なかったので、そこまで子どもたちも来ないかなと思いつつ10種類の駄菓子を用意しました。当日、オープン前に準備をしていると外で賑やかな声が聞こえてきて。外を見たら、すでに10人以上の子どもたちが並んでいたんです」

告知は店頭の張り紙と店のSNSだけだったにも関わらず、オープン後は更に列が伸び、駄菓子を買いにきた子どもたちは1日で計187人に上った。

地域に根付いたケーキ屋に

大盛況のうちに終わった駄菓子屋だが、すでに次回の開催を望む声があるという。

「今回初めて駄菓子屋をやって課題も見えたので、子どもがワクワクするようなメニューや販売方法を考えながら月1回のペースで開催したいと思っています」

昨今の小麦粉やバターといった原材料の高騰で店を閉めてしまったり、業態を変える洋菓子店も少なくない。新しい取り組みを始める木村さんが今後目指す店は何だろうか。

「ル・スリール・ダンジュを始めて19年が経ちました。オープン当初にランドセルを背負ってお店を覗いていた小学生が親になり、その子たちが自分の子どものバースデーケーキを買いに来てくれるようになりました。どんな時代でも、家族団欒を提供できるバースデーケーキは求められると思います。お客さんに喜んでもらえるバースデーケーキは守りながら、今回の駄菓子屋のようなイベントを続けて、地域に根付いたケーキ屋を作っていきたいと思います」

岡田みわ