子育てのことは、身近にいる先輩ママに学ぼう。東京都渋谷区の助産師、小林美香さんは自身の子育て経験をママたちに還元するため、NPO法人ふれあい子育てサロン「スイミー」のスタッフになった。活動歴5年。助産師だから知識も経験も豊富なはずだが、現実の子育ては思い通りにはならず「泣いてばかり」だった。泣き虫だった小林さんの周りに、悩み多きママたちが集っていた。

自信喪失して途方に暮れた

「ひとことで言うと、自信喪失でした。子育てについては、助産師として知識も経験もいっぱいあると思っていたのに、それを総動員しても、赤ん坊の娘は全然泣き止んでくれない。助産師としても、母としても失格。途方に暮れて、娘と一緒にわんわん泣きました」

笑顔を見せながら、苦しかった子育て体験を語る小林さん。自宅で娘と二人だけで向き合っているのは辛すぎて、産後半年くらいでスイミーの集まりに顔を出すようになった。ここではスタッフが泣き止まない娘を預かってくれ、小林さんは一人でヨガをしたり、ゆったりできる時間を過ごせた。

「私一人だけの時間があるんだと感激しました。そんな贅沢なこと、家ではできない」

同じ思いは、いまスイミーに集うママたちにも共通していて、子育てから安心して離れられる時間をプレゼントしている。小林さんの夫もその大切さを理解していて、休日には娘と実家に泊りがけで遊びに行ったり、小林さんだけの時間を作ってくれたりする。家族みんなで過ごす時間が大事なのかと思っていたので、意外にも「ひとり時間」が貴重なのだと教わった。

小林さんの元には、次々にママから相談が持ちかけられる。「子どもと家で、どんな風に過ごせばいいでしょう」「簡単にできるふれあい遊びがあるから、やってみて」。笑顔でいることを心がけ、明るいトーンで語る。あなたの赤ちゃんのことを大切に思っている人が、地域にもいるんだよ。その事実だけで、子育ての孤独からママたちが救われますように。そんな願いを込める。

泣き止まなかった小林さんの娘は10か月になった頃、落ち着き始めた。それまでは食べさせても吐くという繰り返しで、体重が増えず、数字に一喜一憂。スマホで解決策を検索しまくった。「いま思うと病的でした」。苦しかった時期を抜け出してから、娘は感受性が強くて、小林さんの落ち着かない気持ちが伝わってしまっていたと気づいた。娘は来年、小学校に入学する。

子ども用品を無料リユースしてもらう

スイミーは2011年に発足し、渋谷区では知る人ぞ知る存在に育った。中でも、乳幼児の衣類・用品をリユースするプロジェクト「リサイクるん」は、2020年の渋谷サステナブル・アワード大賞(渋谷区主催)に選ばれた。バザーのように格安で買ってもらうのではなく、無料で好きな衣類などを持ち帰ってもらう。

「昔は、ご近所同士で自然にできていた『お下がり交換』の輪が大きくなったイメージです」

プロジェクトの目的は、衣類のリユースだけでなく、ママ同士の「顔の見える関係づくり」だという。例えば、衣類リユースのためにメルカリのようなマーケットを使う選択肢もあるが、「リサイクるん」を使えば近所に顔見知りの友達ができる。

そこで小さな悩みや育児体験を共有することで、ママたちのコミュニティに発展。地域で衣類と友達ネットワークを循環させて、つながりや会話を生み出したいのだという。

「リサイクるん」は、「良い物が手に入る」と口コミになるほどの人気。スタッフ宅には、段ボール10箱くらいのリユース品が山積みになっており、衣類の管理と運搬は手弁当だ。「運搬費くらいは、助成金があればいいね」とつぶやいたりするが、いまはメンバーの頑張りで成り立っているという。

子育ては「周りに迷惑かけていい」

実はコロナ禍で、面白い変化があった。リモートワークでパパが家にいるとママの心も安定するようで、メンタル不調のママが少ない傾向にあるという。心理チェックリストに基づく小林さんの観察によると、パパも育児に参加しているのでママの負担が軽減されているらしい。「外出自粛のため、実家も頼れない。『夫婦二人で解決していこう』というチーム力が芽生えている」と見ている。

「私たちは、『他人に迷惑をかけてはならない』と教わってきました。でも、子育てでは『周りに迷惑かけていいんだよ』って言っています。一段落したら、次はサポートする側に回って、助け合いの輪を循環させればいいんです」

小林さんは、名前の美香をもじって「みかん」と呼ばれる。「常に未完成(みかんせい)な私だけど、これからも成長したい。まだまだ自分は『こんなもんじゃない』って思えます」。苦しい子育てを経験したみかんさんの自信が、じんわり伝わってきた。

さぬきクロスケ