息や目線だけで姿勢を変えることができる――。そんな車いすを製作しているのは、東京都東村山市の株式会社コボリン(以下、コボリン)。代表の浅見一志さんは、“お客さんと一緒に作る”という信念を大切にしながら、画期的な電動車いすを生み出し続けている。

乗り物好きが高じて「車いす屋」に

もともと、NPO法人が運営する障害者のヘルパー派遣事業所で働いていた浅見さん。バイクが好きで、前職が機械系の仕事であったことを事業所の代表に話したところ、車いす屋に向いていると言われ、都内の工房に就職。

「乗り物が好きでしたので、面白そうな仕事だなと。就職から7年後に独立開業しました」

以後15年間、どうしたらもっとできることが増えるのかを、部品単位から客と一緒に考え、世界でたったひとつの“オンリーワン車いす”を作り続けてきた。

例えば、ティルト、リクライニング、側屈、回旋、上下の、5つの姿勢変換機能を持つ主力商品の「P−5(ピーファイブ)」にも、ドラマがある。

「P-5は筋力が衰える進行性の筋ジストロフィーのお客さんとの出会いによって生まれました。筋力が落ちていくと重力に抗えず、体が左右に曲がってしまう。多くの業者さんが座りやすいシートを作っていますが、体を支えようとした結果、痛みが出ていました」

その現状を目にした浅見さんは、背もたれが左右上下に動けば長く座っていられるのでは…と考えた。

「一般的な電動車いすは背もたれを倒す機能が左右対称に付いていますが、体が変形した方や骨盤が左右に回旋している人は、体の動く方向とは違う向きに引っ張られてしまう。けれど、三次元的に背もたれを動かせるP-5は、その方の体に合わせて倒すことができます」

P-5タイプには、分身ロボットOriHimeを手掛けるオリィ研究所と合同で開発した、視線で姿勢を変えられる「P-5eye」も。

最近ではP-5を組み込んだ、9つの動作ができる電動車いすも完成させた。
「足先から体幹まで、自由自在に動かすことができます。長時間、車いすに乗る時でも体のストレスをできるかぎり減らせます」

また、過去には息だけで操作できる車いすを提案し、顧客を喜ばせた。
「口にストローを咥え、強く吸う、弱く吸う、強く吐く、弱く吐くを行うと入力信号が送られ、姿勢を変えることができます。電動リクライニングや電動ティルトも、息で操作します」

もちろん製品によって異なるが、車いすの制作期間は半年から1年ほど。打ち合わせや試乗、申請、製作、数回の仮合わせを行い、納車という流れだ。

「車いすは体の一部だとよく言われますが、道具にすぎません。電動車いすは障害のあるユーザーさんの“できる”を増やす道具。利用される方が本当は何をしたいのか、どんなことに困っているのかを一緒に探し、見つけるのが弊社の仕事です」

「姿勢を変えたい」は人としての根源的な欲求

浅見さんが、ユーザー目線の車いすを作り続けているのは、ひとりでも多くの人に姿勢を自由にできる喜びを感じてもらったり、自分で姿勢を自由に変えることの大切さを世に広めていったりしたいから。

「姿勢を自由に変えたいというのは、人としての根源的な欲求。健常者は座っていても立っていても、無意識に姿勢を変えています。だから、体に重い障がいがあっても自分で姿勢を変えることができるように普及していきたい」

現在、電動車いすは条件によって公費での支給が認められにくい場合もある。例えば、基本的な運転の上手さや一般的な交通マナーを判断できることが条件となっているが、初めての電動車いすで運転が上手くできず、却下されることも少なくない。

しかし、生活をする中で運転が上手くなった人を目にしたことがあるからこそ、浅見さんはそうした現状が変わってほしいと強く願う。

「知的障害があり、交通ルールが理解できない方は不支給となる場合がありますが、健常者のお子さんは信号や交通ルールが分からなくても、親御さんの保護下で自由に歩ける権利を有しています。だから、私は交通ルールが理解できない知的障害のある方も誰かの保護下での移動の自由があっていいと思うんです」

自分の意思で自由に動くことは、本人の情操教育にも繋がる大切なこと――。

そう訴える浅見さんは今後、スティック入力機器などでは操作できないユーザーであっても走行できる電動車いすなど、より進化した製品を作ったり、公費支給対象ではない車いすユーザーにも自社の製品を届けたりしたいと意欲を燃やす。

古川諭香